第088話 もはや超能力
「叔母上の事情はわかりました。旦那さんのことは気の毒ですが、子供がいるならその子達を立派に育ててください」
「もちろん、そうする。それでお前らはどうする? ウォルターは遠いぞ?」
ギリスからウォルターには陸路でも行けるが、さすがに遠すぎる。
「船で運んでもらえません?」
「ウォルターまでは無理だ。ウォルターに行くまでにあるラスコはギリスの敵対国なんだよ。さすがに軍船で領海侵犯はできん」
「民間の船は?」
「定期船はないし、ラスコは特殊な国だから行かない方が良い。行くならやはりエイミル経由の陸路がいいと思う」
当初の予定通りか……
「エイミルまでは連れていってもらえます?」
「いやー、めんどい。それでも遠いじゃん」
「甥っ子がかわいくないのか!?」
「自分の子の方がかわいいわ。そんな幼い子を置いて遠出できるか」
正論。
「民間は?」
「途中まではあるが、エイミルまではないな。エイミルって何もないからなー……」
どうやらショボい国らしい。
「うーん、民間で途中まで行くか…………」
「いや、飛空艇を使えよ。ギリスの王都にあるぞ。ウォルターまで行けるかは知らんが、少なくとも教国までは行けるだろ」
教国とウォルターは近い。
教国まで飛空艇で行ければすぐだろう。
行けたらな……
「叔母上、人は空を飛べないんですよ」
俺がそう言うと、マリアが力強く首を縦に振った。
「あっそ……憐れな奴ら。まあ、そこまで言うならエイミルまで連れていってやらんでもないぞ」
あっ……
条件をつけてくるやつだ。
「お願いしたいですけど……」
「ちょっと私の仕事を手伝え」
ほらね。
「仕事とは?」
「とある島の調査だ」
それって……
「旦那さんが亡くなったやつ?」
「そうだな。ウチの領地の仕事だし、何よりもトラヴィス様の遺体か遺品を回収したい。これでは死んでも死に切れん」
回収が主目的だろうな。
「調査って具体的にはどんな仕事なんです?」
「その辺の説明は後にしよう。とりあえず、ウチの領地まで戻る。お前らも陸の方が良いだろ。ウチに泊めてやる」
「そうしてもらえるとありがたいですね」
海は飽きた。
揺れるのも空腹も飽きた。
これ以上はマリアのトラウマが増えてしまう。
「わたくし達がアシュリー様の領地にお邪魔しても問題ないのでしょうか?」
リーシャが確認する。
「別にいいだろ。旅をしている甥っ子が叔母を訪ねて来ただけだ。国交もないし、問題ない。王には適当に手紙を出しとく。一応、エイミルまで行くには申請がいるしな」
ギリス王、問題事を増やしてごめんね。
「でしたらお願いします。補給等もしたいですし、アシュリー様の想いはわかります」
「ですね。必ずや遺体か遺品を回収しましょう」
あ、仕事を手伝うことが確定してるし。
貴族女子はすぐに同調して結託するんだよなー……
「うんうん。ロイドにはもったいない子達だな」
まあ、叔母上の頼みだし、安全にエイミルまで連れていってもらえるならそれでいっかー……
「叔母上、缶詰とかの食料を補給してもいいですか?」
「いいぞ。ウチはそんなに商業に力を入れてないが、お前らの分くらいはある。金はあるか?」
「金を取るの? 寄こせよ」
「お前、ケチになったなー……」
自覚はある。
「大変だったんですよ。パンが銅貨で買えるって知ってます?」
「…………知らん」
一緒じゃん。
「俺らはそのレベルまで落ちたんです」
「いくらあんの?」
「金貨で700枚くらいかな?」
確かそのくらいはあった気がする。
「めっちゃ持ってんじゃん」
「その内の500枚はマリアの分なんですよ」
俺達の分だと200枚くらいはあるはずだ。
「へ? 私? 私はそんなに持ってないですよ?」
マリアが首を傾げる。
「お前の値段だ。リーシャがゴミ共から巻き上げた」
俺がそう言うと、マリアがものすごく嫌そうな顔をする。
「いらないです。海に投げましょう」
「まあ、散財用にすればいいだろ。お前が金貨500枚なわけないしな」
もったいないし、今後の旅の宿屋で贅沢する用にしよう。
「じゃあ、いくらです?」
「値段なんかつけられるか。俺はお前を命を懸けて守る。俺の命の価値は国家そのものであり、お前もまたそうなのだ」
まあ、廃嫡されてミールの辺境伯だから微妙なんだが、マリアが求めている言葉はこれだから仕方がない。
「殿下、かっこいい!」
マリアはそう絶賛しながらリーシャの肩をバンバンと叩く。
「わかったから叩かないで」
リーシャは文句こそ言うが、そこまで不機嫌になってはいない。
自分の中で折り合いをつけたようだ。
「仲が良さそうで何より……大事にしろよー。世の中、どうなるのかわからんからな」
叔母上が言うとめちゃくちゃ重い……
「大事にします……」
「そうしろ。じゃあ、船を動かすが、お前らの船はどうする?」
船……
「いらないよな?」
「テールの軍船だしね」
「沈めればいいんじゃないです?」
魔導船とはいえ、小型船だし、たいした金にはならんだろ。
「わかった。使えそうな積み荷を奪ったら沈めるわ。お前らはここで待機してろ。夕方か夜には帰港できる」
思ったより陸地に近づいていたんだな……
「お願いします」
「はいよ」
叔母上は返事をすると、船室を出ていった。
「とりあえず、助かりそうで良かったわね。マリアのおかげよ」
「そうだな。マリアを信じて良かった」
マリアが指示した逆を行ったら陸に近づけたし、叔母上にも再会できた。
「…………嬉しいことなんですけど、嬉しくないです」
しゃーない。
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