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第079話 さようなら、敵国


「これからどうするんです?」


 奴隷商の店を出ると、マリアが聞いてくる。


「当初の計画通り、魔導船を奪う。マリア、これを飲んどけ」


 俺はカバンから夜目が利くようになる薬を取り出すとマリアに渡す。

 マリアはそれを受け取ると、一気に飲みだした。


「相変わらず、すごい効果ですね」


 マリアも夜目が利くようになったのだろう。


「ここからは気配を消す魔法を使うぞ」


 俺はその場で自分達に気配を消す魔法を使った。


「いつも思うんですけど、消えてますかね?」

「私にはバカぶどうがはっきり見えてるわね」


 心が狭いことに定評のある下水さんがマリアを睨む。


「本当に小っちゃい人だなー……」


 マリアが呆れた。


「気配はちゃんと消えてるし、そういうのは後にしろ。港に行くぞ。こっちだ」


 俺は2人を急かし、港の方に歩いていく。

 そして、昼にマリアと来た商船が停泊する港に出た。


「魔導船はある?」


 リーシャが停泊している商船を眺めながら聞いてくる。


「ない。やはり軍だな」


 昼に来た時より、船は多いが、全部、普通の帆船だ。


「じゃあ、あっちですね」


 俺達は漁港の方に向かって走っていく。

 そして、漁港に着くと、防波堤を歩き、灯台の下に向かった。


「どう? 見張りの兵はいる?」


 俺はリーシャにそう聞かれたので遠見の魔法を使い、基地の方を見る。


「いるな……さすがに昼間よりは少ないが、それでも多い」

「あのー、これからどうするんですか?」


 今回の作戦を知らないマリアが聞いてくる。


「今から俺が仕掛けた着火の護符を発動させる。そして、数分後に爆発が起きるからそれで兵が南門に向かったところで船を奪う」

「な、なるほどー。過激ですね」

「獣人族が上手く囮になってくれるはずだ」


 そのくらいはやってくれるだろう。


「じゃあ、少しの間、ここで待機ですね」

「ああ……やるぞ」


 俺はそう言うと、着火の魔法を発動させた。

 俺とリーシャがエーデルタルトの王宮に仕掛けた時限式ではなく、遠隔式の魔法なのでかなりの魔力を食うが、なんとか発動させる。

 すると、うっすらとだが、町の方が明るくなった。


「あれですか?」

「ああ…………数分後に爆破だ」


 しかし、思ったより魔力の消費が激しい。

 これは船を奪って陸から少し離れたらそこで休まないといけないな。


 俺が魔力の計算をしながら基地の方を見ていると、基地にいた兵士達が慌ただしくなってきた。


「いい感じだな…………お次は爆破だ」


 俺は今度は爆破の魔法を発動させる。

 すると、遠くでドーンという爆発音が聞こえてきた。


「よし、成功!」

「大きくない?」

「大きいですよね?」


 リーシャとマリアが顔を見合わせる。


「ちょっと強かったな。まあ、これくらいやった方が良い…………おっ! 兵士達が走っていったぞ」


 俺の目には港を警備している兵士達が町の方に走っている姿が見えている。


「行く?」

「ああ。行くぞ」


 俺達は今が好機だと思い、防波堤を走り、漁港の方に向かった。

 そして、漁港を抜けると、コソコソと基地に近づいていく。


「誰もいなくない?」


 リーシャがそう言うように基地には誰もいない気がする。


「獣人族が上手くやってくれたのかもしれん。チャンスだ。行くぞ!」


 俺達はコソコソするのをやめ、基地に侵入すると、まっすぐ魔導船の方に向かう。


「あの小型でいい」


 俺は走りながら小型の魔導船を指差す。


「了解」

「やっとですー」


 俺達はそのまま走っていくと、無事、お目当ての小型の魔導船のもとに来た。


「お前達は先に乗れ。あ、マリア、落ちるなよ」

「落ちませんよ!」


 マリアは反論しながらもリーシャと共に慎重に船に乗り込む。

 俺は船と港を繋いでいるロープを外していき、すべてのロープを外し終えると、船に乗り込んだ。


「追手を防ぐために他の船を燃やす?」


 船に乗り込むと、先に乗っていたリーシャが聞いてくる。


「もう魔力がないし、目立つことは避けよう。このまま出航だ」

「了解」

「あいあいさー」


 俺は急いで操舵室に向かった。

 操舵室に着くと、舵を握り、魔力を通した。

 魔導船の操作方法は飛空艇と一緒なのだ。


「出航!」

「イエス、キャプテン!」


 ノリの良いマリアが笑顔で手を上げる。

 なお、絶世のリーシャさんは甲板の先で仁王立ちしていた。


 俺は魔力を通し、魔導船を操作する。

 すると、魔導船が動き出し、港から徐々に離れていった。


「よっしゃ! 上手くいったぜ!」

「さすがです、殿下!」


 いやー、マリアがいるといいなー。


「このまま一度、陸地が見えなくなるまで離れる。そこで休みだ。休憩しないと、魔力が持たん」

「はーい」


 俺は魔導船を操作し、どんどんと陸地から離れていく。

 ある程度、離れ、ホッとしていると、俺の背中に誰かが抱きついてきた。

 俺の視線の先にはリーシャが仁王立ちしているし、後ろにいるのはマリアだけだ。


「どうしたー?」

「殿下、ありがとうございます」

「気にするなっての。助けるに決まってんじゃん」

「私ごときは見捨てるべきです」


 まあ、貧乏男爵の娘だしなー。


「関係ないって」

「感謝します……この恩は忠義をもってお返し致します」


 マリアはそう言うが、抱きつくのは忠義ではない。


「どうしたー? 本当はヤラれたりしてたかー?」

「そうだったら海に身を投げます…………でも、触られちゃいました。担がれちゃいました…………」


 いや、別によくね?

 いくらなんでも異性と触るぐらいはするだろ。


「気にするなって。あんな奴ら、野良犬と変わらん」

「怖かったですー……」


 それはそうだろうな。


「悪かったなー……」

「私はもうお嫁には行けません」

「いや、行けるだろ」

「殿下…………妾でもいいです。それ以下の侍女でもいいです。何でもしますからそばに置いておいてください」


 マリアがガタガタと震えながら涙声で懇願する。


「お前…………トラウマが増えてんじゃん」


 マリアは男性恐怖症になってしまったようだ……


「怖いんです…………」

「時間の経過で治ると思うけどなー……」

「治らなかったらどうするんですか!?」


 一生独り身。


「うーん、側室に迎えてもいいんだけどなー…………下水がなー」


 あの嫉妬の塊がうるさい。


「リーシャ様は良いとおっしゃってくれました」

「いつ?」

「リリスの町で大事な話をした時です」


 あー、最初に宿屋に泊まった時かー。

 俺が風呂に入っている時に大事な話をするって言ってたなー。


「そんな話をしたのか?」

「リーシャ様は嫉妬の塊ですが、公爵令嬢です。そういうこともあることは理解されております。殿下が王位に就けば、必ず側室を持たれるでしょうしね」


 まあ、俺の父である陛下だって側室はいる。

 イアンとだって母親は違うしな。

 こればっかりは政治が絡むからどうしようもない。


「お前だから許したのかね?」


 唯一の友人だし。


「私は逆らいませんから。それでも舌打ちをしながら条件をめちゃくちゃ出されました」


 あいつ、本当に性格が悪いな。

 おしとやかさの欠片もない。


「例えば?」

「自分より先に子供を産むなとかです」


 まあ、それはわからんでもない。


「ふーん……」

「後は聞かない方が良いです。あの淫乱は恥を知りません」


 そっちの方の条件も出したのね……

 回数制限とかだろうか?


「まあいい。リーシャに話してみるわ」

「お願いします。私は何も望みません。たかが男爵令嬢ですから」

「はいはい。よし、この辺だな。後は明日だ。さすがに魔力が尽きそうだわ」


 俺は陸地が見えなくなったところで舵から手を離す。

 すると、マリアも俺の背中から離れた。


「今日はもう休みましょう。私も疲れました」


 マリアは緊張とストレスで疲れが溜まっているのだろう。


「軍船なら休憩室がある。そこに行こう」

「はい。しかし、リーシャ様は何が楽しいんでしょうかね?」


 マリアが甲板の先で仁王立ちしているリーシャを見る。


「わからん。飛空艇でもやっていたし、趣味なんじゃないか?」

「あの人、王妃じゃなくて女王になるべきな気がします」


 その場合、俺も陛下もイアンもクーデターされてんじゃん。


「まあいい。リーシャに声をかけて休憩室に行こう。今日はもう寝る。テール脱出記念パーティーはまた今度だ」

「そうしましょう」


 俺とマリアは甲板の先にいるリーシャに声をかけ、休憩室に向かう。

 そして、テール脱出を祝い、次のエイミルの話で盛り上がり、就寝した。


 俺達はようやく敵国であるテールを脱出したのだ。

 事件があったし、大変だったが、終わってみると、楽しかったと思う。


 俺達は緊張の糸が切れたことと疲れにより、安心しきっていた。

 だからすぐにぐっすりと眠り、次の日に備えることにしたのだ。


 休む時は錨を下ろさないといけないという大事なことを忘れて…………


ここまでが第2章となります。


これまでのところで『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると今後の執筆の励みになります。


明日からも第3章を投稿していきますので、今後もよろしくお願いいたします。


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[良い点] 甲板の先で仁王立ち [一言] さすがです姐さん
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[気になる点] 主人公視点だから、ベンとティーナ側がどうなったのか判らないのが気になるな 無事に全員脱出できてたらいいんだけどなー 同じ船で脱出すればいいのに
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