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第076話 良い子じゃないけど、すやすや


 俺達4人は獣人族の基地をあとにし、森を抜けると、立ち止まった。


「ほれ、俺の外套はベンが羽織れ」


 俺は外套を脱ぐと、ベンに渡す。


「ああ」


 ベンは外套を受け取ると、羽織り、フードを被った。


「怪しいが、犬耳よりマシだな」


 まあ、いつものリーシャの格好と変わらん。


「じゃあ、私の分はティーナが羽織りなさい」

「ええ」


 ティーナもまたリーシャから外套を受け取ると、羽織り、フードを被る。


「まあ、こんなものね」

「あなたがいつも外套を羽織ってた理由がわかるわ。あなたは目立ちすぎる」


 リーシャは外套を取ったため、身体のラインがよくわかる服にタイツを履いているとはいえ、短いスカート姿だ。


「女は着飾らないとダメよ?」

「…………あなたはそのレベルじゃない気がする」


 そりゃ絶世さんだもん。


「作戦決行は住民が寝静まった後だが、とりあえず、町の西まで行くぞ」

「気配を消す魔法は?」


 リーシャが聞いてくる。


「今回はなし。捕まっている連中が俺達に気付かなくて、いきなり目の前に現れてびっくりするということになる」

「叫ばれたら面倒ね」


 隠密行動に適した魔法ではあるが、今回は使えない。

 使う時はマリアと合流し、船を奪う時だ。


「そういうこと。行こう」


 俺達は町に向かって夜の平原を歩き出した。


「この前もだったし、今回も夜にコソコソかー……モンスターから町を救うみたいなイベントはないのかしら?」


 確かに空賊狩りの時も夜、今回も夜。

 コソ泥の気分だわ。


「次に行く国のエイミルに期待だな」

「そうね。あとは民度が良いことを願うわ」


 ホント、ホント。

 人攫いが普通にいる町なんか嫌だわ。


 俺達はその後も歩き続け、町を目指す。

 そして、1時間くらい歩くと、町が見えてきた。


「迂回するぞ。あっちだ」


 俺達は南門を避け、西に向かって歩く。

 しばらく歩くと、町の西の外壁に到着した。


「ねえ、外からだとどこが奴隷商の店かわからなくない?」


 確かに壁から町の中は見えないからここがどこかわからない。


「ちゃんと町を出る前に目印を置いておいたよ」

「目印?」

「奴隷商の店の裏に魔法の護符を置いておいた。それを感知すればいい」


 俺はリーシャのような獣の勘は持ち合わせていないが、魔力感知はできる。


「ジャックがやってた感じ?」

「そんなもん…………ここだな」


 俺がそう言って、立ち止まると、全員が壁を見上げる。


「この向こうか……」


 ベンが壁に手を置き、つぶやいた。


「さっきも言ったが、皆が寝静まってからな。それまでは待機」


 俺はカバンからシートを取り出すと、地面に敷き、腰を下ろす。

 すると、リーシャも俺の隣に座ったのだが、俺の膝を枕にして寝ころびだした。


「寝るな」

「疲れたのよ。本当はお風呂から上がった後に寝るつもりだったんだから」


 そういえば、こいつ、バスタオル一枚でワインを飲んでたな。

 本来ならワインを飲み終わったら寝るつもりだったのだろう。


「ちゃんと起こしたら起きろよ…………ってもう寝た」


 リーシャはスースーと寝息を立てていた。


「あ、外套を返すよ……」


 ティーナは外套を脱ぐと、寝ているリーシャの身体にかける。


「どうも」

「これは本当に私と同じ女なのだろうか? 顔もスタイルも違う。匂いさえ良い匂いだった」


 ティーナがまじまじとリーシャの寝顔を見る。


「貴族様だぞ。しかも、本来なら王妃様だ」


 というか、外套を嗅ぐな。


「本来ならねー……」


 ティーナが思案顔をする。


「俺も返そう。お前は普通の匂いだな」


 ベンも外套を脱ぐと、俺の横に置いた。


「嗅ぐな。というか、良い匂いって言われたら引くわ」

「確かにな……」


 ベンが苦笑する。


「作戦の流れを説明しておくぞ」


 俺はそう言うと、ベンとティーナを手招きする。

 すると、2人は俺の前まで来て、腰を下ろした。

 そして、ティーナが寝ているリーシャを見る。


「いいけど、王妃様は?」


 王妃様じゃないっての。


「リーシャはわかっている。というか、こいつは見た敵を斬るだけだ」

「恐ろしい王妃様もいたもんだなー……」


 それは俺も思う。


「それで流れは?」


 ベンも呆れた表情でリーシャを見ていたが、何事もなかったように聞いてきた。


「まず、時間になったら俺がこの壁に穴を空ける。そうすると、奴隷商の店の裏だ。夜とはいえ、奴隷という高級品を扱っている店だから当然、警備の者がいる。お前達は迅速に警備を黙らせろ」


 あの屈強のハゲかもしれないが、こいつらならやれるだろう。


「お前の魔法でできんか? ほら、俺達を痺れさせたやつ」


 パライズな。


「俺は魔法の使用をなるべく控える。この壁の破壊に獣人族が捕らわれている鉄格子の切断。さらにはその後に船を奪わないといけない。そして、最後には魔導船を操縦しないといけないんだ」


 魔導船を奪ったのに魔力が尽きて操縦できませんはシャレにならない。


「なるほど。確かに魔力を温存すべきだ」

「そうね。私達がやるわ」


 2人は納得したようだ。


「基本的には雑魚はお前達やリーシャに任せる。警備を始末したら店の中だ。構造はララに聞いているな?」

「ああ。通路が2つあって左側だったな。右側は店の者の控室らしい」


 右側は知らんかった。


「ねえ、先に店の者をやらない? そうしたらゆっくり救助できる」


 ティーナが提案してきた。


「ダメだ。ここに穴を空けるんだが、店の裏だからぱっと見はわからん。だが、横から見たら丸わかりだ。巡回の兵士に見つかったら面倒なことになる。最低限のことだけをして、迅速に終わらせる」

「そう……じゃあ左ね」

「ああ、左に入ると、通路の両面が鉄格子になっていて、そこに男の獣人族もいる。だが、後回しで良いな?」


 俺は一応、ベンに確認する。


「そうだな。悪いが、ジュリー様が優先だ」


 全員を助けるつもりだろうが、優先順位がある。


「奥に特別な奴隷の部屋があり、ジュリーもマリアもそこだろう。まずはそこに行き、その後に帰りながら女、男の獣人族を回収する」

「それでいい」

「そうね」


 ベンとティーナは頷いた。


「全員を救助したらそこでお別れだ。俺達は港へ行き、お前達は森に帰還する。一応、もう一度言っておくが、俺の魔法が発動するからな」

「それは聞いたが、着火の魔法だったか?」

「ああ、あちこちで火がつく。ついでに言うと、南門付近の壁が爆発するからな。頑張れ」


 ぼやで兵を起こし、爆発で南門に集める。


「おい!」

「爆発は聞いてない!」


 ベンとティーナが怒る。


「確実にお前達に兵を向けさせるためだ。メルヴィンが問題ないって言っただろ」

「爆発のことを言わなかったところに悪意を感じるな」

「うんうん」


 まあ、言わなかったのはわざとで合ってる。


「とにかく、そういうことだからさっさと船まで行って逃げろ。俺的には微妙に挑発とかしてくれると嬉しいな」

「迅速に逃げよう」

「そうね。女性や子供を先頭にして早く離れたほうがいい」


 無視すんな。


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