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第074話 会合


 夜の平原を歩き、森が見えてくると、森の前に2人の人影が見えてくる。


「あ、お姉ちゃんと奥様」


 ララも気付いたようで声を出した。


「リーシャは仕事が早いなー……」


 俺はもう森に着いていたリーシャに呆れながらも2人に近づく。


「ララ!」

「お姉ちゃん!」


 俺達が森まで来ると、ティーナとララが数時間ぶりの感動の抱擁をし始めた。


「クズ共は?」


 俺は姉妹の感動の抱擁を尻目にリーシャに聞く。


「開口一番がそれ? 私に抱擁はないの?」


 感動の姉妹に感化されてやがる……


 俺はリーシャに近づくと、リーシャを抱きしめた。


「怪我はないか?」


 俺がそう聞くと、ドシャッという音と共にリーシャが俺の背中に両腕を回し、頭を俺の胸に置く。


「ええ。あの程度は相手にならなかったわ」

「どうした?」

「荒野にさらしたわ」


 まあ、あの雑魚共ではリーシャの相手にはならんわな。


「お前に任せて悪かったな」

「いえ、良いのよ…………私が殺したかったからね」


 極悪令嬢だなー……


 リーシャはゆっくりと頭を上げると、俺を見上げ、目を閉じた。

 俺はリーシャの要求通りに口づけをする。


「見ちゃダメ!」


 俺達の横で感動の抱擁をしていたはずの姉妹の姉の方が妹の目を押さえる。


「いや、この人達、私やマリア様が寝ている横で普通に…………」


 うるさい犬共だなー。


「リーシャ、それでこれは何だ?」


 俺はリーシャから離れると、地面に落ちている袋を見る。

 これはリーシャが持っていたものだが、さっきの抱擁の際に地面に落としたものだ。


「マリア代」


 ひどいことを言うなーっと思いながら袋を拾うと、中身を見てみる。

 中身は大量の金貨だった。


「多いな……」

「500枚だって」


 あいつ、そんなにするのか……

 いや、貴族ということを考えると安いが、ララの後だとめっちゃ高く感じる。


「これはマリアにやろう」

「いいんじゃない? 喜ぶでしょ」


 絶対に喜ばない。

 安いって怒り出すと思う。


「それで? 今はどういう状況だ?」

「私がここに来た時はティーナとベンがいたわ。キツネ女に会わせろって言ったら確認してくるって言って、ベンが森に入っていった」

「事情は?」

「マリアが売られたことだけは言った」


 最低限だな。

 まあ、それでいいだろう。


「わかった。あとは俺が話す」

「ん」


 リーシャが頷いた。


「ねえ、マリアさんが売られたって本当なの?」


 ティーナが聞いてくる。


「ああ。ギルドの人間が確認したから本当だ。だからお前らと一緒に奴隷商の店に行って助ける。喜べ、絶対に失敗するお前らの作戦が成功するぞ」

「は?」


 ティーナが真顔で聞き返してきた。


「――それはどういう意味だ?」


 俺がティーナを見ていると、森からベンが出てくる。


「そのまんま。詳しくはキツネ女に話してやる。キツネ女は?」

「会うそうだ。ついてこい」


 ベンがそう言って背中を見せると、森の中を進んでいった。

 俺達も森に入り、ベンのあとを追う。

 そして、しばらく森の中を歩くと、獣人族の基地に到着した。


 基地は相変わらずボロボロのテントが見えるが、人の気配はない。


 俺達は基地である広場を歩いていくと、前にも来た小屋の前までやってきた。


「ヒルダ様、例の者達を連れて参りました」

「うむ! 入れ」


 小屋の中から偉そうな女の声が聞こえてくると、ベンが小屋に入る。

 俺達も小屋に入ると、小屋の奥にキツネ女が一人で座っていた。

 しかも、この前のボロボロの服ではなく、きれいな民族衣装を着ていた。


 俺とリーシャがキツネ女の前まで来ると、ベンがキツネ女の横に控え、ティーナとララが出入口の前に立つ。


「よく来たのう。まあ、座れ」


 俺とリーシャはキツネ女にそう言われたので床に腰を下ろした。


「お茶くらいないのか?」

「もう数がほとんどない。買ってきてくれと頼めば良かったわ」


 お茶があったわけね……


「お前がヒルダか?」

「そうじゃ。先に確認だが、マリアとかいうあの娘が奴隷商に売られてたというのはまことか?」


 ヒルダはニヤリと笑いながら聞いてくる。


「ああ」

「そうか…………おぬしらには悪いが、妾は嬉しく思うな」

「どうして?」

「決まっておろう。これでようやく対等になった」


 まあ、そうだな。

 これまでは俺達の立場が圧倒的に上でこいつらは俺達の言うことを聞くしかなかった。


「対等ねー……」

「ああ、対等じゃ。これでようやく腹を割って話せる。まずは自己紹介といこう。妾はヒスイの国の第二王女のヒルダじゃ」


 やはり王女様か。


「俺はエーデルタルトの第一王子であるロイド・ロンズデールだ。こっちは婚約者のリーシャ・スミュール公爵令嬢」

「やはり王子か……」

「わかるか?」

「妾も王族じゃからな。それにおぬしの女は2人共、臣下の礼をとっておった」


 妻を名乗るリーシャはともかく、マリアはなー……


「まあ、そういうことだ」

「のう、何故、エーデルタルトの王子や貴族令嬢がこんなところにおる? テールは敵国じゃろ」

「俺達は飛空艇でウォルターまで行くつもりだった。だが、空賊に襲われ、墜落…………いや、急遽、不時着したんだ。じゃなきゃ、こんな国には来ない」

「なるほどのー……それはツイてない」


 ツイてないと言われると、マリアの顔が浮かぶな。


「お前らは誘拐か?」


 今度は俺がこいつらの事情を聞く。


「そうじゃ。親善のために隣国に向かう途中で捕まった。それでこんな所まで連れてこられたわ」

「王女が簡単に捕まるなよ」

「簡単ではないわ。数百人の兵がいた。じゃが、向こうには魔術師が何人もおった。おかげで近衛隊はこのベンとメルヴィンを残して全滅じゃ」


 こいつらは魔法に対抗するすべがないからな。


「隣国とやらの裏切りか?」

「違う。あれは奴隷狩りじゃ。この国にはそういう生業を専門とする商売人がおるのじゃ。妾達の天敵じゃな」


 奴隷狩りか……

 ホント、ロクな国じゃないな。


「それで? お前の妹が奴隷商に売られ、お前がここにいる理由は?」

「妾と妹は別の船じゃった。ララや他に捕まった者も同じじゃな。妾達は運良く船が沈んだから助かったが、あやつらはあの町に着いて、あの様じゃ」

「別に俺達はお前らの船を奪わんぞ。俺らが欲しいのは魔導船だ。俺達は帆船を動かせない」

「そうか…………ご明察の通り、船は沈んでおらん。妾達が反逆し、奪ったのじゃ」


 だろうね。

 この広場に人がいないのは大半の人間が船にいるから。

 こいつらの装備やヒルダの服がきれいなままなのも泳いでこの森に来たわけではないから。


「お前達が奴隷を救出した後にどうやって国に戻るかをあえて聞かなかったんだぞ」


 ララ曰く、こいつらの国は別大陸にある。

 奴隷を救出してもここから逃げるすべがなければ、どうしようもない。

 いずれ軍に捕まるだけだ。


「妾はおぬしがそれを聞いてこないのが怖かった。それで気付いた。こいつらは妾達を使い捨てにするつもりだとな」

「その通り。さっきベンやティーナに言ったが、お前達の作戦は必ず失敗する」


 絶対に上手くいかない。

 断言できる。


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[良い点] 頭のいい王族。これが王族貴族の頭の回し方か。 必要最低限の言葉で推察しすぎ。
[良い点] >「これはマリアにやろう」 wwwwwww 「ついでにティーナにはこれをやろう」と言って、 金貨20枚渡してみたい。絶対ビンタされるな
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