第071話 誘拐
俺とリーシャは階段を降りると、何も言わずに不安そうな顔で俺達を見ているニコラを無視し、宿屋を出た。
そして、ギルドに向かう。
「人が多いわね」
リーシャが歩きながら町を見渡す。
「明後日の奴隷市の客だ。今日から明日にかけて集まってくるらしい」
「ふーん、どいつもこいつも怪しく見えてくるわね」
通りすぎるのは冒険者が多い。
もちろん、ほぼ男だ。
「嫌な国だな、ホント」
「本当ね」
俺達は周りを見ながら歩いていると、ギルドに到着した。
ギルドに着き、中に入ると、数人の冒険者が受付にいたが、すぐに隣の酒場に行ってしまった。
俺達はまっすぐルシルのもとに行く。
「あら? どうしたの? 報告し忘れか何か?」
ルシルが意外そうな顔で聞いてきた。
「ルシル、マリアがいなくなった」
「…………こっちに来なさい」
俺の言葉を聞いたルシルは真顔になり、すぐに立ち上がると、受付の奥にある扉まで歩いていく。
俺とリーシャは受付を回り、受付の中に入ると、ルシルが扉を開け、中に入っていった。
それを見た俺達もすぐに中に入った。
部屋の中は棚が並んでおり、書類や本が大量に収納されていた。
「本当は入れちゃダメなんだけどね。緊急の用件っぽいから特別よ。絶対に誰にも言っちゃダメ」
多分、部外者がここに入るのは禁止事項なのだろう。
「言わんから安心しろ」
「それで? マリアさんがいなくなったとは?」
ルシルが聞いてくる。
「そのまんまだ。俺とマリアが買い物に行った帰りに誘拐された」
「犯人は見たの?」
「見てない。マリアは俺の後ろにいたんだが、裏道の角を曲がったら消えた」
「…………マリアさんが逃げたのでないなら誘拐ね」
マリアが逃げる意味はない。
「俺達のことが領主にバレた可能性は?」
「おそらくだけど、領主様の犯行ではないわ。今さらだからあなた達エーデルタルトの貴族がなんでここにいるのかは聞かないけど、もし、領主様が犯人ならマリアさんだけを誘拐するのはおかしい。あなたやリーシャさんも襲われているはず」
それもそうだ。
ましてや、リーシャは宿にいたんだ。
リーシャが襲われてないのはおかしい。
「じゃあ、暴漢か?」
「その可能性はあるわ。もしくは…………」
ルシルが言い淀んだ。
「言え」
「この時期になると、たまにあるんだけど、地元じゃない冒険者を攫って、奴隷商に売るっていう事件がある」
奴隷商に売る?
「この町はそれが許されるのか?」
「許されないわ。実を言うと、この場合だと被害者は奴隷商の方なの。奴隷商は高値で女性を買うんだけど、奴隷として認められてない女性は普通に解放されるわ。だから奴隷商が詐欺にあうって感じ」
「そんなもんは売られた本人に確認すればいいだろ」
「薬とかで誤魔化すのよ。意識を朦朧とさせる薬を飲ませれば、はいとしか言えないからね」
そんな薬を作るな!
「それで? マリアが売られた可能性があると?」
「暴漢の可能性もないこともないけど、白昼堂々とはしないと思うわ。しかも、男連れは狙わないでしょう」
狙うなら女一人だわな。
そうしない理由はそのリスクよりも高い報酬があるから。
「訴えることはできるか?」
「できると思う。今から急いで奴隷商に行ってみるわ。あなた達はイルカ亭で待機してて」
「俺達も行くが?」
「来ないで。はっきり言うわ。あなた達、この町の船を奪う気でしょ」
ルシルは感づいていたらしい。
「何故、そう思う?」
「わかるわよ。あなた達は敵国であるこの国を脱出したい。だからこの町に来た。じゃなきゃ、こんな海しかない町に来ないわよ」
まあね。
「俺達を軍に突き出さないのか?」
「知ったことじゃないわ。ギルドと国は無関係。ただあなた達がこの国でお尋ね者になるだけ」
「犯罪行為は共有されるんだろ?」
「されるけど、エーデルタルトとテールが敵対していることは誰だって知っている。ギルドだって国同士の争いに首は突っ込まないわよ。戦争に巻き込まれちゃうじゃない」
ギルドとしてもめんどくさいわけか。
「ならいい。命が助かったな」
「やめてよ…………とにかく来ないで。あなた達が来ると面倒なことになる」
ルシルに任せるか。
ジャックもこいつを頼れって言ってたしな。
「わかった。すぐに行ってくれ」
「ええ」
俺達は部屋を出ると、ギルドから出て、宿屋に戻ることにした。
道中、俺もリーシャも一言も発せずに歩き、宿屋に到着する。
宿屋に入ると、ニコラが立ち上がり、俺達を見てきた。
「あ、あの、夕食は?」
ニコラが言いにくそうに聞いてくる。
「3人分を用意してくれ」
「…………はい」
ニコラは心配そうな顔をするが、何も聞いてこない。
教育ができた店員だと思うわ。
俺達は階段を上がると、部屋に入り、椅子に座った。
ララが何かを聞きたそうにしているが、何も聞いてこない。
俺達はそのまま黙って待っていると、ニコラが食事を持ってきたので3人で食べる。
その間も誰も何もしゃべらず、重苦しい空気の中、夕食を食べると、そのままルシルを待ち続けた。
そして、しばらくすると、部屋にノックの音が響く。
『あのー、ルシルさんがいらっしゃってますけど』
ニコラが扉越しにルシルの来訪を告げてきた。
「通してくれ」
「はい…………」
ニコラが返事をし、ちょっとすると、ルシルがノックをして部屋に入ってきた。
暗い表情で……
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