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第007話 一難去ってまた一難


「ひえー、殿下、安全運転でお願いしますぅ!」

「言ってる場合か!!」


 俺は緊急回避をしながら執拗に追ってくる空賊の砲弾から逃れていた。


「クソッ! 数が多い!」


 こんな小舟相手に5隻の中型飛空艇が迫ってきている。


「こっちも砲弾を撃てないの!?」


 好戦的なリーシャが聞いてくる。


「んなもんはこんな船には積んでない!」


 大砲は重くなるから小さい船には積まない。


「だったら突っ込みなさい! 白兵戦を仕掛けましょう!」

「アホか! 突っ込んだら防御障壁に当たってお陀仏だわ!!」


 飛空艇は船の周りに防御障壁が張ってある。

 これがないと、甲板に出られないし、そもそも木製の船では上空の風に耐えられない。


「殿下ー! また砲弾が来ます――キャッ!!」

「クッ!」

「クソッ!」


 空賊が撃った砲弾がこの船の防御障壁に当たった。

 その衝撃が俺達の身体を襲い、体勢が崩れる。


「もうダメだー! 賊に捕まって、辱めを受けるくらいなら!」


 マリアがナイフを取り出し、躊躇なく自分の首に当てる。


「バカぶどう! 諦めるのが早いわよ!」


 リーシャがマリアからナイフを取り上げた。


「か、返してください……って、痛っ!」


 マリアがリーシャからナイフを取り返そうとしたが、リーシャに頭を叩かれてしまった。


「あんたは黙ってなさい! ロイド、逃げ切れる!?」

「こっちの船の方が速いが、向こうの砲弾で撃墜の方が早そうだ。良かったな。辱めは受けんぞ」


 墜落だ。


「嫌だー! 墜落死は嫌だー!! 私は子供や孫に囲まれてベッドの上で死ぬんだー!!」


 俺もそれが良いよ。


「あなたの魔法は!?」

「ないことはないが、その場合、防御障壁を張れない」


 いくら俺でも飛空艇の操作、防御障壁で精一杯だ。


「つまり?」

「撃墜は時間の問題」


 無念…………


「こらー!! なんとかしろ黒王子! 何のための黒魔術だよ!! 私は処女のまま死ぬ気はないぞ!! 子供を産むんだー!! 子孫を残すんだー!!」


 うるさい聖女様だよ…………


「どうするの!?」


 リーシャが聞いてくる。


「こうなったら着陸するしかない」

「着陸!? 止まったらそれこそ的じゃない!?」


 着陸するには止まらないといけない。

 普通はそこから降下する。


「スライディング着陸だな」

「いける?」

「それしかない。空賊は地までは追ってこないし、追ってきても俺達なら返り討ちに出来る」

「よし! 白兵戦よ!」


 それはないと思う。

 なんでこんな小舟を狙ったかはわからないが、空賊は襲って、降伏させた船から積み荷や女を奪うのがセオリーだ。

 空賊は船の操作は巧みだが、個人の力が弱いため、着陸した船は危険が大きいから襲わない。


「お前ら、俺に掴まれ!」


 俺がそう言うと、リーシャが俺の上半身に抱きつき、マリアが俺の下半身に抱きついた。


「衝撃に耐えろよ!」


 俺はそう言うと、舵を下に向ける。

 すると、船が下に傾いた。


「ひえー! 落ちてるー! 漏れそー!!」


 ホント、うるさい奴…………


「白兵戦、白兵戦、白兵戦…………」


 リーシャはリーシャで怖いし。


「行くぞー!」


 俺は地面というか森が見えてくると、飛空艇の操作に回していた魔力を防御障壁に回した。

 すると、飛空艇に木々が当たり始め、衝撃がどんどんと強くなっていく。

 そして、とてつもない衝撃が俺達を襲うと、胃の中にあるものが出ていきそうな感覚になり、意識が遠のいていくのがわかった。




 ◆◇◆




「――殿下ー、殿下ー。起きてくださーい」


 俺は自分の体を揺すられる感覚で目が覚める。

 目を開けると、そこには黒髪の少女が心配そうに俺の顔を覗いていた。


「マリアか……お前、頭巾は?」


 マリアは修道女が被る頭巾をしていたのだが、今は長い黒髪が見えている。


「頭巾ではなく、ウィンプルですよー。火がついたんで捨てました」


 燃えたか…………


 俺は上半身を起こし、マリアと周囲を見る。

 マリアの修道服はあちこちに穴が開いており、ボロボロだ。

 周囲もまた木々が倒れたり、木材が散らばったりしている。

 そして、数十メートル先には煙が出ている小型の飛空艇が見えていた。


「無事に着陸したか……」

「無事でもないですし、墜落ですぅ……」


 墜落だったら生きてねーわ。


「痛っ……」


 俺は思わず痛みで腕を抑える。


「まだ動かないでください。ヒールをかけましたが、腕と足が折れてました」


 マジかよ……


「痛いのはリーシャが握っていた右腕とお前がしがみついていた右足だな」


 お前らのせいじゃね?


「き、気のせいですー。それよりももう一度、ヒールをかけます…………ヒール!」


 マリアは焦った顔で誤魔化すと、俺に向かって手を掲げ、ヒールを使ってくれる。

 すると、痛みが徐々に消えていった。


「おー! さすが聖女様だな」

「えへへ、そうですかー?」


 こいつって、謙遜しているようで絶対に否定しないんだよな……


「リーシャはどうした? 船の下か?」


 この場には俺とマリアしかいない。


「船の下って死んでるじゃないですか…………いえ、殿下よりも先に起きられたんですが、周囲を見てくるって言って、殿下の剣を奪ってどっかに行きました」


 俺はそう言われて、再度、周囲を見渡す。

 周囲は木しかない。

 はっきり言えば、ここは森だろう。


「どっかって…………どこだよ?」

「さあ? 私は迷っちゃうからやめてくださいって止めたんですけど、殿下にヒールをかけないといけませんでしたし、そうこうしているうちにいなくなっちゃいました」


 あいつは団体行動ができないのだろうか?


「ハァ…………空賊は?」

「わかりません。何も見えませんし」


 マリアが上を見上げる。

 木に囲まれたここでは真上しか見えていない。


「飛空艇は森に着地できんし、撒いたと思っていいな。しかし、なんで襲われたんだろうか? 小型の船なんかを襲ってもどうしようもないだろうに」


 下手をすると、成果よりも砲弾の料金の方が高い。


「さあ? 空賊の考えていることなんかわかりません」


 俺もわからん。


「とにかく、リーシャが戻ったら森を抜けよう」

「はい。ちなみに、殿下。ここってどこですか?」

「知らんわ」

「えー…………まさかと思いますが、遭難です?」


 それしかないだろ。

 マジでここ、どこだよ?


お読み頂き、ありがとうございます。

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