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第067話 下水さんと上手くやるコツは気にしないこと


 俺は宿屋に戻ると、ベッドの上に座りながらジャックからもらったサイン本を読んでいた。

 マリアとララはテーブルにつき、お茶を飲んでいる。

 そして、リーシャはベッドに座って壁に寄りかかっている俺にしな垂れかかっていた。

 正直、非常に邪魔だが、ご機嫌そうなので何も言わない。


「ジャックの本だと、冒険者はまともっぽいんだけどなー……」


 俺はジャックが仲間と共にモンスターの群れから町を守っているシーンを読みながらつぶやく。


「ジャックもこの本は上澄みと言ってたではありませんか。それにジャックの仲間ならAランクやBランクでしょう。テールの低級冒険者とは違いますわ」


 リーシャはそう言いながら本を持っている俺の指に自分の指を絡ませる。

 お嬢様しゃべりだし、完全に出来上がっている。

 多分、マリアとララがこの場にいなかったらそういう感じになっていると思う。


「本当ですよねー。自分の奥さんを売るという発想がありえません。どういう教育を受けたらそんな発想が思いつくんでしょうね」


 マリアが自分で淹れた紅茶を飲みながら呆れている。


「ジャックが色んな風習があるって言ってたが、ありえんよな。ウチの貴族がそんなことをしたら断頭台だわ」


 聞いたこともない。


「その前に夫を殺して自害ですよ! 想像しただけでも恐ろしいです!」


 マリアが嫌な顔をする。


「……あのー、テールにもそんな風習はないと思いますけど」


 ララがおずおずと発言する。


「あなた達を性奴隷として売っているだけでロクなもんじゃないですよ!」

「…………あの、単純な疑問なんですけど、エーデルタルトには娼館とかないんですか?」


 10歳のガキが何を聞いてんだ?

 ませてんなー……


「普通にあるぞ」

「え? でも……」


 ララはリーシャやマリアをチラチラと見る。


「貴族は通わんが、平民にはそういうのも必要だろう。酒と娼館を禁じたら暴動になる」


 それに金になる。

 俺的にはそういう職業があってもいいと思う。


「最低ですけどね」

「要らないですよ、あんなもん」


 このように貴族令嬢は娼婦が大嫌い。

 理由は旦那を奪われる可能性が少しでもあるから。


「まあ、既婚者が娼婦になるのは禁じられている。とはいえ、夫が戦争や事故で死んだ場合、女一人で残った子供を育てるには金が要るだろう? そうなったら身体を売るのも一つの手だ。これを否定はできん」


 何らかの技術があればいいが、そうでない者が多い。

 そうなった時に手っ取り早く金を稼ぐには身体を売るのが一番だ。

 領主や国がこれを禁じたら母子共々への死刑宣告に等しい。


「そ、そうなんですか…………私は故郷以外の他国といえば、この国くらいしか知りませんけど、色んな国があるんですね」

「らしいぞ。この国ではお前らに人権はないが、他の国ではあるっぽいし、こんなクズ国家はともかく、色んな国を見るのもいいんじゃないか?」


 それこそ冒険者になるのも手だ。

 こいつの実力は知らないが、姉を見る限り、こいつも動けるだろうし。


「興味はありますけど、まずは国に帰りたいです」


 まあ、こんな目には遭えばなー……


「3日後までの辛抱だから少しの間は我慢しろ」

「いえ、我慢なんて…………ご主人様達には良くしてもらってます」


 お茶飲んでるだけだしなー。

 仕事なんかないし。


「殿下ー、市場を見に行ってもいいですかー?」


 マリアがカップをテーブルに置き、聞いてくる。


「まーだ何か買うのか?」

「日に日に商品が変わりますし、まだ夕方まで時間があるじゃないですか。暇なんです」

「俺、外に出たくないんだけど…………」


 ララを鎖で繋いで歩いたせいで、今日はもう外に出たくない。


「マリア、私も行くわ。ロイドはララとお留守番ね」


 リーシャはそう言うと、俺から離れ、ベッドを降りた。


「お前らだけで大丈夫か?」

「問題ないわよ」


 不安だなー。


「マリア、リーシャが剣を抜かないようにしろよ」

「…………努力します」


 不安だなー。


 俺は不安としか思えない好戦的なリーシャを見ていると、リーシャは外套を手に取り、テーブルに向かった。

 すると、リーシャはテーブルに座っているララに近づき、身を屈めて、顔を近づける。

 そして、リーシャが小声で何かを言うと、ララがこれでもかというくらいに強く首を縦に振った。


「じゃあ、ロイド、行ってくるわ」


 リーシャはララから離れると、外套を羽織り、俺に手を振る。


「んー」

「………………殿下、夕方までには戻りますので」


 マリアは呆れきった顔でリーシャを見ていたが、すぐに視線を俺に向け、手を振ってきた。


「いってこい」


 俺がそう言うと、2人は部屋を出ていった。


「ララ、リーシャに何を言われたんだ?」


 俺はララと2人っきりになると、だいたいの予想はついていたが、一応、確認してみる。


「ご主人様に何かしたら殺すそうです。近づくな、触るな、私の男を取るな、だそうです」


 10歳のガキにすらこの態度…………


「気にするな。あいつは昔からあんなんだ」

「ハ、ハァ……? あんなにきれいな人なのに……」


 絶世の美貌、下水の性格さんだもん。


「放っておけ。あれでもまだ機嫌が良い方だ。本来なら絶対にこの場にお前を残さん」

「そうですか…………あのー、1つ聞いてもいいですか?」

「いいぞ」

「ご主人様は奥様のことを愛してらっしゃいますか?」


 なんだその質問…………


「そらそうだろ。なんでそんなこと聞く?」

「いえ……ご主人様はたまに奥様のことを鬱陶しそうに見られます。でも、先ほどは随分とお怒りでしたし、どうなのかなと思いまして」


 こんなガキでも女だなー……

 色恋ばっかり。


「子供の頃から知ってる奴だからな。ずっとあんな感じだったら鬱陶しくもなる。とはいえ、まあ、大事な存在であることも確かだ。国に残れば悠々自適な生活が送れたのにわざわざついてきてくれたしな」


 まあ、微妙に嫌がっていたが……


「そうなんですかー…………」

「お前もそのうちわかる。さっさと大人になって、結婚しろ。そして、子供でも産んで適当な人生を歩め。伝説の冒険者が言うには人生は楽しまないと損らしいぞ」

「損……ですか……」

「俺はさっさとウォルターに行きたいわ。昼まで寝て、魔術の研究をする生活を送りたい」


 もっと良いベッドで寝たいわ。


「ご主人様は今でも楽しそうです…………」

「そうかもなー」


 冒険は楽しい。

 子供の頃に憧れた冒険だ。


 だが、これ、冒険か?

 逃亡する犯罪者の気分だわ。

 早くテールを出よ……


お読み頂き、ありがとうございます。

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[良い点] むしろそういう負の面も含めてお互いを受け入れられなくては、恋人ならともかく夫婦なんて無理じゃないかな
[一言] あの冒険者達に明日はあるのか
[一言] 〉〉逃亡する犯罪者の気分だわ。 図々しさなら王族級なのは間違いないね! 自分が立派な逃亡犯なの忘れていやがるよ!
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