第066話 侮辱
俺は平原を歩き続け、町が見えてくると、ララの鎖を掴んだ。
「悪いな」
「いえ、いいんです。鎖を持っていただけないと奴隷は逆に危険らしいので」
「そうか。行くぞ」
俺は鎖を持ったまま歩き、門をくぐる。
帰りは門番にチラチラと見られてたりはしたが、止められることはなかった。
「どうする? ギルドに行く? それとも一度宿屋に戻る?」
リーシャが目の前にあるギルドを見ながら聞いてくる。
宿屋は町の中央付近、ギルドは目の前。
誰がどう考えても効率が良いのはギルドに報告してから宿屋に戻ることだ。
だが、一度宿屋に戻って、ララに留守番されるのは無駄が多いが、精神衛生的には楽である。
「いや、今さらだ。ギルドに行こう」
もう俺の性癖は町の皆に晒しているのだ。
いずれ、ルシルの耳にも入る。
それにすぐに出る町だし。
うんうん。
俺は自分の心に言い聞かせ、ギルドに向かう。
そして、ギルドの扉を開けて、後悔した。
ギルドには数人の冒険者がおり、ベンチに座って談笑していたからだ。
俺はギルドに入ると、誰にも目を合わさないようにルシルのもとに向かっていく。
すると、少し距離を取っていたリーシャとマリアが俺に身を寄せてきた。
なんということでしょう!
2人の献身により、ロリコン野郎が好色野郎に!
どっちみち、ダメだろ…………
「よう、ルシル。元気かー?」
俺はルシルの受付に向かうと、ララを凝視しているルシルに声をかけた。
「え? え?」
ルシルはララとリーシャ、マリアとララを交互に見始める。
「気にするな。女の世話をする侍女が欲しかっただけだ」
「そ、そうなの?」
「じゃなきゃ、こいつは生きとらんわ」
リーシャが殺している。
「そ、そう……でも、なんでその年齢の子? 獣人族なのは安いからでしょうが……」
「そういう教育は若い方がいいんだ」
「へ、へー……私はそういうのに詳しくないからわかんないけど……」
こいつ、めっちゃ引いてんな。
「奴隷はこの町だと珍しくないだろ」
「ま、まあね。ただ、その年齢ぐらいはあんまり町では見ないわね」
でしょうね。
朝も今さっきもやけに見られたのはそのせいだろう。
そういう人達だって大っぴらにはしないだろうし。
「気にするな」
「いや、あなたが気にしてない? 元気ないけど……」
「鎖なんか知らんかっただけだ」
「あ、そう…………そ、それより、仕事はどう? タイガーキャットを討伐してくれた?」
ルシルは明らかに動揺している。
だって、敬語を忘れてるし。
「ああ、えーっと、60だな」
俺はもっとあるが、とりあえず、ララ代を取り戻そうと思い、60個の魔石を取り出し始める。
「はい? え…………」
俺がカバンから魔石をどんどんと取り出していくと、ルシルが言葉を失い、ただただカバンから出てくる魔石を見続ける機械となった。
「はい、60個」
俺が60個の魔石を出し終えた頃には魔石が受付から落ちそうになっていた。
「え? 本当に? まだ昼過ぎですよ?」
「すごいだろ」
本当はもらっただけで俺らはずっと座ってたけどな。
なお、明日もそうなる予定。
「おいおい、ロリコンの兄ちゃん、嘘はいけねーぞ」
「そうだぜ。どこから盗んできたものだ?」
後ろからいかにもチンピラっぽい声が聞こえてくる。
俺はチラリと後ろを見ると、ベンチで談笑していたどう見てもチンピラな冒険者達がニヤニヤと笑いながら俺を見ていた。
「嘘ではない。普通にタイガーキャットを狩って入手したものだ」
獣人族の皆がね。
「ははっ! 嘘はもうちょっと上手くつけよ。そんなガキや弱そうな女を連れた貧弱な兄ちゃんには無理だよ」
「どうせ盗んだんだろ。それともその女共に股でも開かせたか?」
股を開かせた?
「――やめなさい、あなた達!!」
ルシルが何かを言っている。
「ほう……つまり俺が自分の女を他の男に売ったと?」
「それ以外ねーだろ」
「何だったら俺が買ってやろうか? てめーでは感じさせられない天国を見せてやるぜ」
男はそう言って、リーシャやマリアを見る。
リーシャとマリアはそう言われると、一歩引いた。
「よ、よしなさい!!」
ルシルはついには立ち上がり、怒鳴った。
「天国か……お前達が行くのは地獄だがな」
俺はそう言うと、人差し指を立てる。
「――ガッ!」
「――ぐっ!」
俺が人差し指を立てた瞬間、男共はベンチから床に崩れ落ちた。
痺れ魔法であるパライズを使ったのだ。
「さて、人の女を侮辱するクズ共、全身から血がなくなるのと、その身をすりつぶされるのだとどっちがいい?」
俺はそう言いながら男共のそばまで行くと、男共を見下ろす。
「や、やめなさい! 冒険者同士の私闘は禁止ですよ!」
ルシルが今度は俺に向かって怒鳴ってくる。
「私闘ではない、処刑だ。妻への侮辱は死あるのみだ」
妻じゃないけど、婚約者だし、一緒だ。
「お、お願いですからやめてください」
「聞けんな。ここで引いたらそれこそ恥だ」
妻を守れない男は男ではない。
そのための武であり、力なのだ。
「これ以上は領主様に報告しますよ!」
「大丈夫。そうなる前にお前を剥製にしてやる」
「――ひっ!」
俺がルシルを見ると、ルシルが怯えて後ずさった。
俺はそれを見ると、クズ共を見下ろす。
「…………ロイド。ここは引きましょう」
俺がどうやって殺してやろうかと悩んでいると、リーシャが身を寄せて、小声で言ってきた。
「…………お前達を売女呼ばわりだぞ。殺す以外にはないだろ」
「…………それは嬉しいし、当然のことだけど、今はマズいわ。ルシルを殺したらこの国を抜けた後もギルドを利用できなくなる」
「…………この屈辱を飲み込めと?」
「…………わたくしを守るためにはそうしなさいと言っているのです。この国を抜けても旅は続くのですよ?」
確かにテールを脱出した後もウォルターまでは数国ある。
その移動中にギルドを使えないのはマズい。
それこそ他国で徴発するというリスクを負わないといけなくなる。
「チッ! ルシル、換金しろ」
「え?」
ルシルが呆ける。
「タイガーキャットの討伐と魔石の換金だ。気分が悪いから早くしろ。俺はさっさと宿屋に戻りたい」
ジャックの本でも読むわ。
「は、はい……えーっと、と、討伐料が銀貨7枚で……」
「5枚だろ」
「あ、はい。ボーナスです」
そういえば色を付けると言っていたな。
「それでいい。7枚なら60個で金貨42枚だ」
「は、はい。それと魔石の換金で金貨12枚……合計で金貨54枚です」
ルシルは震えながらも金貨を取り出し、受付に置く。
俺はそれを受け取ると、カバンに入れた。
「帰るぞ」
「そうね」
「帰りましょう」
「…………はい」
リーシャとマリアは普通だが、ララは怯えていた。
俺はそんなララに繋がれている鎖を持つと、ギルドの出入口に向けて歩いていく。
「あ、あの、この人達は!?」
俺はルシルに聞かれて、床に転がっている冒険者達を見た。
「放っておけば治る」
俺はそう言うと、ギルドを出る。
そして、苛立ちながらも宿屋に帰った。
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