表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/257

第006話 運は大事


 俺は快適な空の旅を楽しんでいた。

 飛空艇を飛ばしはじめてから結構な時間が経過しているし、もう国境を越え、エーデルタルトからは出ただろう。


 俺がこのまま何事もなく目的地につけばいいなーと思っていると、甲板の階段から修道服を着た少女が慌てて出てきた。

 少女は甲板に出ると、周囲を勢いよく見渡し、俺がいる操舵室を見上げてきた。

 そして、絶望を感じているかのように顔をゆがめる。


「何をしているんですかー!?」


 マリアは俺に向かって叫ぶと、走って操舵室にやってくる。


「お客様、危険ですので客室にお戻りください」


 俺は乗務員のような口調で告げる。


「で、でで、殿下! ハイジャックって嘘ですよね!? 王宮を放火なんてしてませんよね!?」


 あー……リーシャが説明したのか。


「マリア、本当だ。愛の逃避行のためには仕方がなかったのだ」

「腹いせでしょうが!!」


 まあね。


「しゃーないだろ。あれは事故だ」

「殿下、今からでも遅くないです! 自首しましょう! これ以上、罪を重ねるのはやめて、罪を償いましょう!」

「嫌だわ。もう絶対に後戻りできん」


 放火、逃亡、ハイジャック。

 どう考えても無理。


「殿下ぁー……主よ、この黒魔術師に救いを!」


 主の救いなんかいらねーわ。


「まあ、諦めな」


 俺がそう言うと、マリアがガクッと肩を落とす。

 なお、リーシャはいつの間にか甲板に出ており、甲板の先で仁王立ちしている。


「あ、あの、ついでにお聞きしますが、私が性奴隷になるって本当です?」


 なんだそれ?

 あ、教国の話か!

 あのバカ、そこまでしゃべったんか……


「教国は良い面もあれば悪い面もあるということだ。まあ、さすがに貴族であるお前が性奴隷になることはないと思うが、似たようなことを要求されることはあるかもな」


 遠回しに誘う感じ。


「ですかー……」


 マリアが本当に落ち込んでいる。


「それでも破格な出世になることは確かだぞ」

「嫌ですよ! なんで夫以外の男性に身体を許さないといけないんですか!? そんなことをされたら自害ですよ、自害!」


 この国は貞操観念がきついからなー。


「だったら病むまでヒールだな」

「それも嫌ですよ! 私はポーションじゃないです!」


 そりゃそうだ。


「じゃあ、諦めな。後で実家に送ってやるよ」

「あー……なんでこんなことにぃー……」

「親父さんに良い人を探してもらえ」

「それができたら修道女になんかになってませんよー……食べ物も美味しくないし」


 教会は清貧を謳っているから質素だもんな。


「俺が王様になってたら妾にしてやるんだがなー」

「せめて、側室って言ってくださいよー」


 と言われても男爵令嬢ではなー……

 身分的に無理な気がする。


「まあ、ウォルターの伯父上に頼んでもいいし、弟に手紙も出してやるよ」

「…………あー、黒王子と下水令嬢なんか助けるんじゃなかった…………あ、でも、そうなると、私は教国で…………あれ? 詰んでる?」


 詰んでるな。


「お前ってそういうところがあるよな」

「どういうところ!?」


 こう、なんかやることなすこと上手くいかない感じ。


「大丈夫だって。昔、お前にもらった賄賂もあるし、臣下だからな。ちゃんと守ってやるって」


 実際、あのワインは美味かったしな。


「なんであなた方ってそんなに楽観的なんです?」


 マリアがそう言って、甲板の先で仁王立ちしているリーシャを見た。


「うじうじ悩んでも解決はしないからな」

「ハァ……こうなったらウォルターで出世するか……」


 実家に帰る気はないらしい。


「そうしろ。お前の回復魔法ならいける」

「よーし! 出世して良いところに嫁ぐぞー!」


 なんでだろう?

 こいつが口に出すと、そうなる気がしない。


「そういえば、ウォルターに着いたら殿下はどうされるんです?」

「考えてない。適当に暮らして、陛下が死んだら帰る予定」


 陛下はすでに50歳を超えている。

 あと2、30年で死ぬんじゃね?


「すごい不敬ですね」

「あんなのに敬意は払えん。弟に期待。副王くらいにしてもらって悠々自適に暮らしたい」

「へー……うーん、それだったら妾じゃなくて側室になれるかな?」


 早速、良いところとやら探してやがる。


「それはかなりの賭けだぞ」


 なれなかったらド田舎のミール貴族だ。


「うーん、保留にします。可能性が出てきたらにします」


 何様だ、こいつ?


「勝手にしろ。それよりもあそこでいつまでもかっこつけてる下水を連れてこい。今後のことを話す」


 あいつ、いつまであそこにいる気だ?


「はーい」


 マリアは操舵室を離れると、リーシャのもとに向かう。

 そして、リーシャを連れて戻ってきた。


「話は終わった?」


 リーシャが聞いてくる。


「ああ、マリアも納得した」

「…………納得はしてませんけどね。諦めただけです」


 マリアがやさぐれたようにつぶやいた。


「これからどうするの?」


 リーシャがマリアを無視して聞いてくる。


「このままウォルターを目指したいが、さすがにハイジャックした飛空艇では空港には入れない。どっかで着陸し、徒歩だな」

「徒歩かー……まあ、仕方がないわね。マリア、所持金は?」

「所持金? チケットを買ったし、もう金貨が数枚程度です」


 貧乏だなー。

 まあ、俺とリーシャは金貨どころか銅貨もないけど。


「その辺は徴発で何とかしよう」

「ああ……栄えあるエーデルタルトの王子と貴族令嬢が野盗に……」


 野盗じゃねーわ。


「ロイド、一度、どこかで降りられない? さすがに服や装備を整えた方が…………ん?」


 リーシャが途中でしゃべるのをやめ、上空を見る。

 俺も何かが頭の上を通っていた気がしたため、上空を見た。


「今、なんか黒い物が見えなかった?」


 リーシャが聞いてくる。


「見えましたね…………」


 マリアも気付いたらしい。


「んー……」


 俺はリーシャの問いに答えずに黒い物が飛んできた右方向を見る。

 すると、数隻のドクロマークを掲げた飛空艇が見えた。


「――って、嘘だろ!」

「どうしたの…………え?」

「はい? なんです、あれ? エーデルタルトの追手ですかね?」


 俺が右方向を見て声を出すと、リーシャとマリアも釣られて右方向にいる数隻の飛空艇を見た。


「追手よりタチが悪いな…………あれは空賊だ」


 普通の軍隊はまず警告を出す。

 それをせずに襲ってくるのは空賊だけだ。

 というかドクロマークが描いてあるし、間違いない。


「空賊!? なんでそんな奴らがこんな小舟に!?」

「知るか! この中によほど運がない奴がいるんだろ!」


 俺とリーシャが叫ぶ。


「ごめんなさーい! それは私ですぅー!」


 だろうな…………


 俺とリーシャは憐れみを込めた目でマリアを見た。


お読み頂き、ありがとうございます。

この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。


よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新作】
その子供、伝説の剣聖につき (カクヨムネクスト)

【新刊】
~書籍~
左遷錬金術師の辺境暮らし 元エリートは二度目の人生も失敗したので辺境でのんびりとやり直すことにしました(1)
i955340

35歳独身山田、異世界村に理想のセカンドハウスを作りたい ~異世界と現実のいいとこどりライフ~(2)

~漫画~
廃嫡王子の華麗なる逃亡劇 1 ~手段を選ばない最強クズ魔術師は自堕落に生きたい~

地獄の沙汰も黄金次第 ~会社をクビになったけど、錬金術とかいうチートスキルを手に入れたので人生一発逆転を目指します~(2)

【販売中】
~漫画~
地獄の沙汰も黄金次第 ~会社をクビになったけど、錬金術とかいうチートスキルを手に入れたので人生一発逆転を目指します~(1)

~書籍~
35歳独身山田、異世界村に理想のセカンドハウスを作りたい ~異世界と現実のいいとこどりライフ~(1)

地獄の沙汰も黄金次第 ~会社をクビになったけど、錬金術とかいうチートスキルを手に入れたので人生一発逆転を目指します~(1)
地獄の沙汰も黄金次第 ~会社をクビになったけど、錬金術とかいうチートスキルを手に入れたので人生一発逆転を目指します~(2)
地獄の沙汰も黄金次第 ~会社をクビになったけど、錬金術とかいうチートスキルを手に入れたので人生一発逆転を目指します~(3)
地獄の沙汰も黄金次第 ~会社をクビになったけど、錬金術とかいうチートスキルを手に入れたので人生一発逆転を目指します~(4)

廃嫡王子の華麗なる逃亡劇 ~手段を選ばない最強クズ魔術師は自堕落に生きたい~(1)
廃嫡王子の華麗なる逃亡劇 ~手段を選ばない最強クズ魔術師は自堕落に生きたい~(2)

最強陰陽師とAIある式神の異世界無双 〜人工知能ちゃんと謳歌する第二の人生〜(1)

【現在連載中の作品】
週末のんびり異世界冒険譚 ~神様と楽しむ自由気ままな観光とグルメ旅行~

左遷錬金術師の辺境暮らし ~元エリートは二度目の人生も失敗したので辺境でのんびりとやり直すことにしました~

バカと呪いと魔法学園 ~魔法を知らない最優の劣等生~

35歳独身山田、異世界村に理想のセカンドハウスを作りたい ~異世界と現実のいいとこどりライフ~

最強陰陽師とAIある式神の異世界無双 〜人工知能ちゃんと謳歌する第二の人生〜

廃嫡王子の華麗なる逃亡劇 ~手段を選ばない最強クズ魔術師は自堕落に生きたい~

地獄の沙汰も黄金次第 ~会社をクビになったけど、錬金術とかいうチートスキルを手に入れたので人生一発逆転を目指します~

【漫画連載中】
地獄の沙汰も黄金次第 ~会社をクビになったけど、錬金術とかいうチートスキルを手に入れたので人生一発逆転を目指します~
がうがうモンスター+
ニコニコ漫画

廃嫡王子の華麗なる逃亡劇 ~手段を選ばない最強クズ魔術師は自堕落に生きたい~
カドコミ
ニコニコ漫画
― 新着の感想 ―
[一言] 言われてみれば、 空賊って聞かないよな なんで森や山なら盗賊山賊と言うのに、 空や宇宙では空賊宙賊と言わず、 海賊呼ばわりなんだろうな 予想では日本のお話で、 最初に空や宇宙に出る盗賊を登…
[一言] チャンス到来……お金が向こうからやってきたw
[良い点] 自覚あるところが面白いというか不憫というかかわいそうかいわいいというか笑
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ