第052話 再会
俺達は森に入ると、調査を始める。
森といっても、パニャの大森林ほど高い木はないため、割かし明るい。
そのまま歩いていると、タイガーキャットを見つけたのだが、俺とマリアが何をすることもなく、リーシャが瞬殺した。
「私の剣に…………」
リーシャはかっこつけて剣を振って、血を払おうとしたが、木が邪魔だったので決めゼリフと共にやめた。
「ジャックも言ってたけど、森で剣は使いにくいわね」
リーシャは眉をひそめながら自分の剣を見る。
正確に言うと、俺の剣なんだけど、完全に取られてしまった。
「それこそジャックみたいに鉈でも持つか?」
鉈でもリーシャなら使いこなせるだろう。
そして、あわよくば、俺の剣を返してほしい。
何となくだが、俺のかっこがつかない気がする。
「鉈ねー…………嫌よ。かっこわるい」
ジャックに謝れって思ったが、ジャックはそういうのと無縁だし、気にしないだろうな。
「ショートソードかエストックでも買うか?」
刃の部分が短いショートソードや突き専門のエストックなら森でも使えるだろう。
「うーん、まあ、安いのがあればでいいわ」
「ウチのアタッカーはお前だから遠慮なく言えよ。俺とマリアは基本的に装備はいらないから」
杖があるし、これ以上はいらない。
「わかった。考えておく…………魔石を回収して、奥に行きましょう」
「そうだな」
俺はリーシャが倒したタイガーキャットを解体し、魔石を回収すると、調査のために森の探索を再開した。
俺達がそのまま歩いていると、リーシャの足が止まる。
「どうした? またタイガーキャットか?」
「いえ…………ロイド、マリア。伏せてちょうだい」
リーシャがそう言って、その場に伏せたため、俺とマリアもその場に伏せた。
「…………どうした? ジャックでも見つけたか?」
俺はパニャの大森林の時と同じだなと思い、声量を落としながらリーシャに聞く。
「…………似たようなものかも。誰かがこの先にいると思う」
よくわかるなー。
「盗賊か?」
「わからない。でも、2人いる…………どうする?」
俺はそう聞かれたので、少しだけ腰を上げ、先を見てみる。
だが、木が邪魔でよくわからない。
「見えんぞ。本当に人か?」
俺は再び、その場に伏せるとリーシャに聞く。
「私もチラッと動くものが2つ見えただけ。でも、あれはタイガーキャットではないわ」
まあ、タイガーキャットは大きいが、四足歩行だしな。
「わかった。慎重に近づいてみよう」
俺達は中腰になると、そーっと、リーシャが言っていた方向に進んでいく。
すると、人の声が聞こえてきたため、俺達は止まり、そのまま伏せた。
「本当に人の気配がしたの?」
「ああ、だが、微弱だ」
声色からして、女と男の声だ。
「気のせいでは? こんな森にアムールの民が来るとは思えないわ」
「普通ならな。だが、お前もタイガーキャットの異常発生は知っているだろう。それの駆除の可能性もある」
「だけど、そうなると厄介ね。これほど気配を消せる人族が森に来ていることになる」
人族……?
「わかっている。もし、人族ならば、早急に処理せねばならない」
処理……か。
もちろん、殺すという意味だろう。
こいつらは俺達に気付いていないし、奇襲で殺すか、この場でやり過ごし、ギルドに戻ってルシルに報告かな…………
俺が脳内で方針を決めていると、リーシャがこちらを振り向き、地面に文字を書き始める。
リーシャが地面に書いた文字は”ティーナ”だった。
あー……確かに女の声は逃げてきた獣人族のティーナだ。
あいつ、俺達と別れた後に森に逃げてきたんだ。
そうなると、もう一人の男は誰だ?
それにせっかく助けてやったティーナを殺すのもギルドに報告するのも気が引ける。
うーん…………
俺が悩んでいると、リーシャとマリアがじーっと俺を見てくる。
これは判断を俺に委ねるということだ。
どうするかねー……
まあ、話を聞いてみるか。
俺としては他国に町のことも獣人族のこともどうでもいいしな。
「もう少し、浅いところに行ってみよう。もしかしたらすぐに帰っただけかもしれ…………」
男がしゃべっている途中で黙った。
俺は無詠唱で相手を痺れさせる魔法であるパライズを使ったのだ。
「さて、話を聞いてみるかね」
俺は立ち上がると、声がした方に歩いていく。
すると、ティーナとティーナと同じような耳と尻尾が付いている男が地面に倒れていた。
「なんでパライズを使ったんですか?」
マリアが俺の後ろで聞いてくる。
「さっきの会話から声をかけたら襲ってくると判断した。ティーナはともかく、男の方は絶対に襲ってくる」
そして、リーシャに首を刎ねられる。
そうしたら話にならない。
「間違いなく、ティーナね。こっちの男も獣人族。どうする?」
腰を下ろし、倒れている2人を確認したリーシャが俺を見てくる。
「話を聞いてみる。せっかく助けてやったティーナをギルドに売るのもな…………マリア、ティーナだけを回復させろ」
「わ、わかりましたー」
マリアがティーナのもとに行き、腰を下ろす。
「ティーナさん、襲ってこないでくださいよー…………キュア!」
マリアが回復魔法をティーナにかけると、ティーナがピクリと動き、ゆっくりと身を起こした。
「この魔法を食らうのは3回目だけど、ホント、最悪な魔法ね。痺れるわ、動けなくなるわできつい……」
3回目?
俺は2回しかかけていない。
あっ…………俺があげた罠の魔法陣に触れたな。
ドジな奴。
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