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第050話 かわいくない猫


 ギルドを出た俺達はすぐ近くの門をくぐり、南にある森へと向かう。


「森って近く?」


 南に向かって歩いていると、リーシャが聞いてきた。


「そんなに遠くはない。歩いて1時間ってところだな」


 俺は地図を見ながら大体の距離と移動時間を予想する。


「まあ、これまでずっと歩きっぱなしだから近く感じるけど、普通に遠いわよ、それ」


 ほとんど馬車で移動していた俺達が1時間も歩くのを楽と思えるくらいになったわけだ。

 成長したねー。

 リーシャなんか王都から逃げる時、愚痴ばっかりだったのに。


「馬車の貸し出しとかってないんですか?」


 今度はマリアが聞いてくる。


「リリスでブレッドから聞いたが、ギルドで馬車の貸し出しもあるらしいぞ。ただ、俺らの場合は御者を雇わないといけない。めんどいし、会話がしにくくなるからないかなーと」


 俺は馬には乗れるが、当たり前だが、御者の経験はない。

 それはリーシャとマリアも同様である。


「どこで怪しまれるかわからないしね」


 一番怪しいのはお前の美貌だ。

 町ではフードを被っているが、さすがに外では視界が狭まるから取らないといけない。


「……何?」


 俺がじーっとリーシャの顔を見ていると、リーシャがいぶかしげな表情で聞いてくる。


「お前の常人離れの美貌が一番怪しいと思ったが、こればっかりは仕方がないだろうな」


 それは俺にとって贅沢な悩みというものだ。

 文句は言えん。


「そう……悪かったわね」


 リーシャはそう言うと、フードを被った。


「被るなっての。お前が索敵するんだろ」

「そうね……」


 リーシャは俺とマリアより前に出ると、フードを取る。


「…………怒ってる?」


 俺はこっそりとマリアに確認する。


「…………逆です。顔が赤いのが恥ずかしいんですよ」


 こいつの羞恥のタイミングがわからん……


「そんなことないわよ。真面目に索敵しようと思っただけ」


 リーシャが早口でそう言うと、マリアがリーシャを指差し、苦笑いを浮かべた。


「まあ、頼むわ。お前が頼りだし」


 索敵ができるのはリーシャだ。

 俺もできないこともないが、魔法に関してだけ。


 俺達はその後もリーシャを先頭に俺とマリアが並んで歩いていく。

 しばらく歩いていると、リーシャが左を向いた。


 俺もリーシャに釣られて左を見ると、そこにはでっかい猫が野原でゴロゴロしていた。


「わー! かわいいです! …………サイズはまったくかわいくないですけど」


 マリアが一瞬、嬉しそうな声をあげたが、すぐに冷静になった。

 確かに俺の目にも最初は日向ぼっこをする猫はかわいく見えた。

 だが、サイズが大きい。

 ルシルが言うように虎ほど大きいわけではないが、明らかに町とかにいる猫のサイズではないのだ。


「やる?」


 リーシャが聞いてくる。


「まあ、依頼だしな。かわいく見えるが、一般人からしたら脅威だろう」


 猫はかわいいと思うが、肉食動物だ。

 しかも、あのサイズなら人も襲うだろう。


「わかった」


 リーシャは頷くと、剣をゆっくりと抜いた。

 公爵令嬢だが、剣を抜く姿まで様になっている。


 リーシャが剣を抜くと同時にタイガーキャットもこちらに気付いたようで、身を起こす。

 そして、俺達に向かって、牙をむいた。


「シャーー!!」


 こわっ!

 さっきまでのかわいさが消えている。


「全然、かわいくないですー」


 マリアも同じことを思ったらしく、ビビりながら俺の後ろに隠れた。

 リーシャは特に動揺もせずに数歩前に出ると、剣を構える。

 すると、すぐにタイガーキャットがリーシャに飛びかかった。


「遅いっ!」


 リーシャは目にも止まらない速さで踏み込み、剣を一閃させる。

 そして、あっという間にタイガーキャットが地面に伏してしまった。


 タイガーキャットはピクリとも動かない。


「ふっ! この絶世に挑むとこうなるのよ」


 リーシャが髪を手で払うと、新しい決めゼリフを言う。


「さすがリーシャ様です!」


 マリアが称賛する。

 しかし、あいつ、強すぎじゃないか?

 この前対戦した弟のイアンが雑魚に見えてしまう。

 まあ、俺はそのイアンにすら負けたんだけど……


「討伐依頼って、討伐証明の魔石がいるんだっけ?」


 剣の血を払いながらリーシャが聞いてくる。


「だなー。俺がやるわ。お前がやる仕事ではない」


 戦わせておいてなんだが、貴族令嬢に解体なんてさせられない。


「お願いするわ」


 俺は死んでいるタイガーキャットに近づくと、腰を下ろし、ナイフを取り出した。

 そして、ナイフをタイガーキャットの胴体に滑らすと、魔石を取り出すために解体を始める。


「すみません、殿下……殿下にそんなことをやらせてしまって」


 マリアが申し訳なさそうに近づいてきた。

 まあ、当たり前だが、王族がやることではない。


「女を血で汚すわけにはいかないだろう。俺は気にせん」


 俺は元々気にしない。

 まあ、エーデルタルトは武の国。

 気にするような男はいないだろう。

 それに料理人やそういう仕事を生業としていない貴族令嬢にやらせていいことではない。


「役立たずですみません……」

「お前が一番活躍してるから安心しろ」


 マリアがいなければ、こんなに歩けないし、腹を壊しているかもしれない。

 温室育ちの俺達はヒーラーがいなければ、どこかで野垂れ死にしているだろう。

 というか、俺は墜落……不時着時に骨折してたし、あそこで死んでるな。


「うーん、御二人共もっとケガを…………いや、それは違うか」


 うん、違う。

 絶対に違う。


お読み頂き、ありがとうございます。

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[一言] ヒーラーの重要性とか、殿下かなり理性的発言ばかりだし。決断力、実行力、適応力なにもかも高水準だし、まじで王なにか隠してそうやな。
[一言] 何と言うか、面白いです。薄っぺらのようでそうではない、そして、追放された理由なんかも何かあると伺わせられてます。
[一言] 馬車じゃなくて馬借りるのは
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