第049話 仕事
俺は部屋に戻ると、再び、テーブルの椅子に腰かける。
「奴隷市はいつだって?」
俺が座ると、早速、リーシャが聞いてくる。
「5日後だそうだ。昼が自由市で夜が特別な奴隷のオークションだと」
「となると、盛り上がるのは夜ね。作戦決行は5日後の夜でいいと思うわ」
船を奪うにしても夜の方が都合がいいし、ちょうどいいな。
「それまでどうします? 仕事しますか?」
マリアが聞いてくる。
「そうだな。金的には生きていく分には余裕があるが、贅沢もしたいし、今後、何があるかわからないから貯金は多い方がいい。ギルドで仕事を探そう」
「そうね。ずっと宿に籠りっぱなしも暇だし、怪しまれるわ」
「じゃあ、明日から仕事ですね」
そうなるな。
「明日は朝からギルドに行こう。ルシルの奴が良い感じの仕事を探してくれてるはずだしな。そういうわけで今日はフリー。適当に過ごしていいぞ」
俺はそう言うと、自分のベッドに転がる。
「おやすみですか?」
「いや、眠りはしないが、暇だし」
「…………あっ……わ、私、買い物にでも行ってきます」
このむっつり、いらん気を使うなー。
「アホ。危ないから一人で出るなっての」
「あ、そうですか……」
露骨にがっかりすんな。
「マリア、私も市場に行きたいから一緒に行きましょう」
リーシャが立ち上がった。
「はい。殿下はどうされます?」
行きたくない。
行きたくないが……
「せっかくだし、行くかー……珍しいものがあるかもしれんし」
こいつら2人だけはマズいかもしれん。
「じゃあ、行きましょう」
「ですですー」
しゃーない。
俺はベッドから起き上がると、外套を手に取り、2人を連れて、市場へと向かった。
◆◇◆
市場に行き、昨日と同じように色々なものを見て回った後、宿屋に戻り、ワインと魚料理を楽しんだ俺達は早めに就寝し、この日を終えた。
翌日、朝食を食べ、準備を終えた俺達は朝からギルドに向かう。
ギルドに着くと、10人くらいの冒険者が依頼票が貼ってある板の前にたむろし、依頼を吟味していた。
俺達はそんな冒険者達を尻目に受付にいるルシルのもとに行く。
「おはようございます。海はどうでしたか?」
ルシルがニコッと笑いながら挨拶してきた。
「おはよう。海の風が気持ちよかったし、癒されたな。ただ、魚臭いわ」
「あー、漁港の方に行かれたんですね。ですが、それは仕方がないです。あなた方も食べたでしょうが、大事な魚を獲ってくださっているわけですしね」
それはわかる。
立派な仕事であり、そこに貴賤はない。
「確かにまあまあだったしな」
「まあまあですか……贅沢な人ですね」
実際、高貴な地位であり、贅沢をしてきた。
まあ、最近は全然だけど。
「そんなことより、仕事がしたい。いい感じの仕事はあったか?」
俺は挨拶もそこそこに本題に入った。
「ええ。見繕いましたよ。本当はたかがEランクにこんなことはしないんですが、特別です」
ルシルがぶつくさと一言二言、余計なことを言う。
「不祥事、不祥事」
「ギルド職員が冒険者を領主に売るって最低だと思うわ。いや、もちろん、もしもで一般論の話ね」
俺とリーシャが独り言を言う。
「これだから貴族は嫌いなんです…………」
貴族?
何のことだろう?
俺達は冒険者だ。
「…………一緒にしないでくださーい」
一緒だよ、泥水ワイン。
「で? いい感じの仕事は?」
「はい、好きに選んでちょうだい」
ルシルはそう言って、依頼票を受付に置いた。
俺はそれを手に取り、リーシャとマリアにも見えるように見る。
【町の水路の掃除 銅貨5枚】
【孤児院の子供達への座学 なし】
【タイガーキャットの討伐 銀貨5枚】
【森の調査 金貨5枚】
【ケガ人等の治療 一人当たり金貨1枚】
俺はまず、最初の2枚をポイッとルシルの方に投げた。
「捨てないでよ」
ルシルが文句を言ってくる。
「誰がするか。底辺の仕事と慈善事業じゃねーか」
仕事にも貴賤はあるのだ。
そんなもん、スラムのガキかアホにやらせとけ。
「海岸の清掃をしてたくせに」
「そりゃ海を見るついでだ。リーシャやマリアにきったない水路を掃除させろってか? 殺すぞ」
貴族令嬢にそんなことをさせたら俺は最悪な旦那アンド主君の汚名を被ることになる。
「孤児院の子供達への座学は? 立派なことよ?」
「ガキなんか知らん」
ましてや、敵国。
ないない。
第一、そういうのは教会の仕事だ。
「じゃあ、他の3つね。どう?」
うーん……
「タイガーキャットってどんなのだ? 猫か? 虎か?」
「合いの子みたいな感じね。猫よりかは大きいけど、虎よりかは小さい、脅威度や強さもそんな感じ。この辺は魚が獲れるでしょ? そのせいで大量に居着いちゃったの。これは一匹当たり銀貨5枚で何匹でもオーケーよ」
リリスの町でのオークみたいなもんか。
「森の調査って何だ? 俺らは冒険者だぞ? そういうのは専門家に頼め」
「別に生態系の調査とかそういうのじゃないの。人の目撃情報があってね。盗賊かもしれないから見てきてほしいの。そんなに深い森じゃないし、適当でいいわ」
「適当でいいのか?」
「被害が出ているわけでもないし、まだ詳細の調査を必要としている段階ではないわ。だから念のためにってだけ。タイガーキャットの討伐ついでに見てきてくれればいい」
だから金貨5枚程度なのか…………
「ふーん、最後のケガ人等の治療ってなんだ? どっかで事故でもあったのか?」
その割には一人当たり金貨1枚は安い。
「これはあなた達の中にヒーラーがいるから出しただけでおすすめはしないわね」
「おすすめじゃないなら出すな」
「一応よ。儲かる仕事ではあるからね」
「儲かる? 一人当たり金貨1枚って安くないか?」
ケガの程度にもよるが、治療費って、もうちょっと高いと思う。
「今度、奴隷市が開かれるでしょ? 要はそれ用に見栄えを良くするための治療」
あー、なるほどね。
女目当てって言ってたもんなー。
ケガがあるより、ケガがない方が絶対に高く売れるだろう。
「奴隷だから安いのか……」
「そういうこと。おすすめしないのはマリアさんが女性だから」
無理だ。
貞操観念ガチガチの貴族令嬢にできることではない。
下手をすると、奴隷に自害用のナイフを渡しそうだ。
しかも、そこまで儲からん。
「なしだな。そこまで金に困っているわけでもないし、胸糞案件はいいわ。森を見てくるついでに虎猫狩りをしてくる」
森は嫌だが、深くないらしいし、ちょっと見て帰ろう。
「はい。じゃあ、お願いね。これが地図だから」
俺達は地図を受け取ると、ギルドを出て、森に向かうことにした。
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