第046話 魚は美味しい
俺達は暗くなった宿屋の女に見送られ、宿屋を出た。
そして、宿屋を出た俺達は同時に宿屋に立てかけられている看板を見上げる。
どう見ても、イルカだ。
「イルカだな」
「イルカね」
「イルカですねー」
俺達の意見は一致した。
「まあいい。市場を見に行こうぜ」
「そうね」
「何か買ってもいいですか?」
マリアが聞いてくる。
「別にいいぞ。宿代が浮いたし、欲しいものがあったら買え。テールに来ることなんて二度とないしな」
来たくないし、来ることは絶対にない。
「はーい」
マリアは嬉しそうに笑った。
俺達は市場に行くと、色んな露天商を見て回る。
露天で売っているものは各地の特産やアムールのおみやげなど様々なものが売られていた。
俺が見たい魔法系のアイテムは売っていなかったのでリーシャとマリアに付き合いながら多くの店を見ていく。
すると、とある店でマリアがじーっと貝殻の置物を見ていた。
「これをくれ」
俺はマリアが見ている貝殻を指差しながら店主に言う。
「あいよ。銀貨1枚だ」
その辺の海岸に落ちてそうな貝殻が銀貨1枚は高いと思うが、マリアが気にいっているようなので文句も言わずに銀貨を払った。
「ありがとうございます」
マリアは嬉しそうに笑う。
「せっかくだしな」
エーデルタルトの貴族令嬢はこういう時に絶対に物をねだらない。
ただ、じーっと見て、主張するだけだ。
そして、それを見て、買わない男はモテない。
めんどくさいが、こんなものだ。
「良かったわね、マリア」
「はい」
「ところで、ロイド、私にはこの貝殻が似合うと思わない?」
慎ましやかさを美徳とする令嬢も既婚者になるとこうなる。
もちろん、答えは一択。
「そうだな。お前に似合わない物はないが、特に似合うだろう。店主、これもだ」
「あいよ。それも銀貨1枚だ」
俺はまたもや銀貨1枚を払う。
そして、その後も市場を見て回り、色んなものを見たり買ったりすると、夕方になったため、宿屋に戻った。
宿屋に戻ると、受付にいた元気を取り戻した宿屋の女に夕食を頼み、部屋で一息つく。
しばらくすると、宿屋の女が夕食を持ってきたため、少し早いが食べることにした。
「魚だな」
「門番の人も海産物が特産って言ってたしね」
まあ、港町だしな。
漁師もいるって言ってたし、魚料理がメインだろう。
「海の魚は泥臭くなくて美味しいです」
我先に食べているマリアが幸せそうに言う。
それを聞いた俺とリーシャも魚料理を食べてみることにした。
「ほうほう…………うん、まあまあ美味いな」
「やはり獲れたては違うわね。エーデルタルトの王都だと、塩漬けか川魚だもの…………うん、確かにまあまあね」
まあ、こんなものだろう。
「清々しいほどに徹底してますね」
マリアが呆れた。
「マリア、ここはテールだぞ?」
「そうよ。敵国」
褒めることはない。
「あなた方は同盟国だろうと同じことを言いそうです……」
まあ、リーシャは言いそう。
俺達はサービスのワインと共に魚料理を堪能すると、風呂に入る。
そして、風呂から上がると、まったりする。
「料理もワインも美味しかったし、部屋もきれい。まあまあ、良い宿じゃないの?」
リーシャは今日もバスタオル一枚でベッドに座っている。
「まあな。Aランクはこういう宿にタダで泊まれるんだからすごいわ」
多分、金貨10枚近くはすると思う。
「ジャックには似合わないけどね」
確かに。
「私はお風呂が良かったです。ルシルさんが言ってたようにこの町は本当に潮風がネックですね。髪がべとつきました」
俺もそれは思った。
リーシャとマリアは髪が長いからもっとそう思うだろう。
「観光にはいいけど、その辺を考えると、海辺は住みたくないわね」
「ですねー」
俺もそう思う。
魚料理は美味しかったし、満足なのだが、べたつきは嫌だ。
後は治安の悪さ。
「市場にも奴隷がいたな」
「いたわね。獣人族。首輪つけてたけど、あれペット?」
商人っぽい男が獣人族の女の首に鎖付きの首輪を付けて歩いていた。
「みたいですね。人権なしって感じでした」
あの扱いならティーナが逃げようと思う気持ちもわからんでもない。
「外国って本当にウチとは違うな」
エーデルタルトではまず見ない光景だ。
「需要ないみたいだしね」
そう言ってたな。
「まあ、確かに戦争奴隷の需要はないだろうな。ウチは軍事力が高いし、手柄を取られたくないんだろうよ」
男なら戦場に出て、手柄を立てるもんだ。
それがエーデルタルトの男子。
「そうね。よくわからない種族に手柄は譲らないでしょう」
「ちなみに聞くが、俺が女の奴隷を買ったらどうする?」
「殺す」
やっぱりね。
即答だよ。
「まあ、買う気もないが、エーデルタルトに獣人族を見ない理由もわかるわ」
「奴隷以外の獣人族っていないんですかね?」
マリアが聞いてくる。
「さあ? ウチは当然ながら、リリスでも見なかったし、いないんじゃないか? というか、獣人族ってその辺に住んでるのかね? それともどっか別の地に住んでいる集落から攫って輸入しているものなのかねー?」
生態がよくわからん。
「調べてみます?」
「別にどうでもいいだろ。俺達には関係ないし。それよりもシージャック計画だわ」
「そうね。明日は朝から海岸清掃だっけ?」
リーシャがちょっと嫌そうに聞いてくる。
「そうだな。まあ、掃除なんか適当にやれ。調べるのは魔導船の有無とシージャックした後のことだ」
追手をどうするかも考えないといけない。
「わかったわ。まあ、見てから考えましょう。ワインをもう1本空けていい?」
「そうだな。歩き疲れたし、ご褒美にしよう」
「あ、じゃあ、ニコラさんに声をかけてきます」
マリアはそう言うと、テーブルから立ち上がった。
「ニコラ?」
「誰?」
俺とリーシャが首を傾げる。
「お二人はもっと他の人に興味を持ちましょうよ。この宿の女の子です。イルカの看板の子」
あー、ニコラって言うんか。
聞いてないから知らんかったわ。
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