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第041話 奴隷


「それでお前はなんだ? 奴隷っぽいが、ご主人様のおつかいか?」


 俺は泣きながらウサギ肉を食べる少女に聞く。


「私は奴隷じゃない…………いや、奴隷、だった……逃げてきた」


 なーんだ、じゃあ、殺しても良かったんじゃん。


「よく逃げれたな」

「たまたま足の鎖の鍵がかかってなかったんだ」


 そういえば、少女の足首には金属製の輪がついている。


「ふーん……それで逃げてきたのか……なんで逃げたんだ?」

「え? なんでって……」


 少女がびっくりしたような顔をする。


「いや、働けよ」

「そうよ。別に逃げなくてもよくない? ちゃんと仕事をしなさいよ。こんなところに着の身着のままよりずっとマシでしょ」


 ホント、ホント。


「あ、あの、ロイドさん、リーシャさん、多分、御二人が想像している奴隷とこの人は違うような…………」


 マリアが困ったように言う。


「そうなの?」


 リーシャがマリアに聞く。


「はい。御二人の想像する奴隷は商人の荷物持ちだったり、お偉い方に奉公する奴隷でしょう?」

「そうね」


 俺もそれ。


「そういった奴隷は特別な能力があったりして、厚遇されている奴隷です。御二人はそういった奴隷しか知らないのでしょうが、下には下がいるんです」

「下ねー……」


 俺は少女を見る。

 確かに特別な能力があるようには見えない。

 ただのその辺にいる女って感じ。

 まあ、獣人族ってだけでレアだけど。


「獣人族は優遇されないのか?」


 俺は少女に聞いてみる。


「されない……むしろ、ひどい目に遭う」

「ひどい目ねー……さっきの身のこなし的にも優遇されそうなもんだけどなー」


 戦争でもなんでも使えそうだ。


「あなた達、外国人? 私達を知らない?」

「知らん。俺らの国にはいない」


 そういやエーデルタルトにはなんでいないのかね?


「獣人族がいない…………エーデルタルト?」


 おや、わかるらしい。


「そうだ」

「だから反応が変なのか……」


 変だったらしい。


「どこが変だ?」

「この国では私達は差別されている。人でもない獣でもない汚らわしい存在」

「そうなの? お前らって汚らわしいのか……」


 確かにみすぼらしいし、汚い。


「違うっ!!」


 少女が立ち上がり、怒鳴ってきた。


「…………いや、お前が言ったんだろう。情緒不安定か?」

「あ、そうか…………いや、そういう風に言われてるってこと」

「ふーん、初めて聞いた。ウチにはいないからなー……そういや、なんでいないのかね?」


 俺はリーシャとマリアに聞いてみる。


「さあ?」

「私達、嫌われているんですかね?」


 えー、何もしてないのにー。


「違う。この辺りにいる獣人族は基本奴隷だ。だからエーデルタルトにいない」

「いや、ウチの国にも奴隷はいるぞ」


 普通にいる。


「獣人族の奴隷の使い方は男は戦争や傭兵、女は性奴隷だ。エーデルタルトは元々軍事力が高く、自分達の武に誇りを持つ国だから戦争奴隷の需要がない。そして、性奴隷はもっと需要がない。以前に何回か貴族に売られたらしいけど、全員殺されかけて、返品されたって聞いている。そこの女のように嫉妬に狂った配偶者が殺しにかかってくるんだって」


 あー…………

 そうなるな。

 側室や妾なら正室の許可を得れば持つことができるが、それ以外は許されない。


「妻を裏切れば当然でしょう」

「ですです」


 なお、浮気相手が貴族だった場合、相手も夫も殺して自分も死ぬという凄惨な事件となる。

 そんなバカをする貴族はさすがにもういないがね。


「なるほどねー。だから獣人族自体がいないわけか。ちなみに聞くが、この国では多いのか?」

「そこそこいる。だけど、奴隷の割合的にはそこまでいない」


 人族の奴隷の方が多いってことかな?


「逃げてきたと言っていたが、アムールの町からか?」

「そうよ」


 ほうほう。


「アムールはここから徒歩でどれくらいになる?」

「徒歩? 半日もかからないと思う」


 おっ! 思ったより近いな。

 今日は宿屋で眠れそう。


「ふむ。いい情報に感謝する。お礼に干し肉でもやろう」


 俺はカバンから干し肉を取り出すと、少女に放り投げる。

 少女は干し肉を受け取ると、干し肉を食べずに俺をじーっと見ている。


「あなた、変わっている。普通は奴隷、しかも、獣人族にこんなことをしない」


 知らんわ。

 俺から見たら奴隷も平民も獣人族も同じ下賎の民だ。

 ましてや、外国の国民なんかどうでもいいにもほどがある。


「そんなどうでもいいことより、アムールの情報を教えろ。奴隷とはいえ、そこにいたんだろ?」

「確かにいたけど、何を聞きたいの? 基本は檻の中だったから詳しくはないんだけど……」


 檻の中?


「奴隷って檻の中なのか?」

「まだ買われていない奴隷だったんだ」


 あー、そういうこと。

 これから売られていく予定だったわけだ。


「アムールは港町だったな? 船はどれだけあった?」

「船ならわかる。私達は船に乗せられて運ばれたから…………船はいっぱいあったけど、ほとんどが漁船だったと思う」


 海に面しているわけだし、漁業が盛んか……


「他の船は?」

「人を運ぶ船や軍の戦艦があったと思う」


 戦艦……

 厄介だな。

 シージャックする時に気を付けないといけない。


「魔導船はあったか?」

「魔導船?」

「知らんか? 普通の船は人力や帆を使って風の力で動く。魔導船は魔力を使って動くんだ」

「うーん…………わからない。獣人族は人族と比べて、身体能力は高い傾向にあるけど、その分、魔法を使えないんだ」


 へー……

 エーデルタルト向きだな。


「帆に変な模様があるはずだ。見てないか?」

「模様…………そういえば、そういう船が数隻あった気がする」


 それだ!


「よしよし。いい情報を聞けたぞ。お前、案内しろ」

「…………恩に報いたいと思うけど、それだけは嫌だ。もうあの町に戻りたくない」


 情けない奴だ。

 自分だけでなく、他の奴隷になっている仲間を助けたいと思わないのかね?


「まあいい。お前はこれからどうする気だ?」

「それは…………」


 何もないのか?

 このまま野垂れ死にかね?

 だったら、性奴隷でもいいからご主人様の寵愛を受ければいいのに。

 奴隷かもしれんが、気に入られれば厚遇されるだろう。


「まあ、お前の人生だ。好きにすればいい」


 人には人の生き方がある。

 俺がこうすればいいのにと思うことも他者はそうは思わない。

 リーシャにしても、マリアにしても、この奴隷と同じ立場なら間違いなく、とっくの昔に自害しているだろう。


「あなた達はアムールに行くの?」

「だな。今から行けば昼過ぎには着けるか…………というわけで俺達は行く。情報の礼に良いものをやろう」


 俺はカバンから紙を取り出し、少女に渡す。


「何これ?」

「それはお前が身をもって体験したパライズの魔法がかかっている護符だ。夜にそれの上にエサを置いておけば、朝には獲物が獲れているぞ…………ああ、間違っても魔法陣には触るなよ。また痺れる羽目になる」


 こんなもんは紙さえあればいくらでも作れる。


「あれか…………」


 少女は嫌そうな顔をする。


「あれだ。まあ、頑張れ」

「ありがとう…………この恩は忘れない」

「どうでもいいな。ああ、そうだ。せっかくだし、お前の名を聞いておこう」

「名前、か……………私の名はティーナだ…………ティーナ、だ」


 ティーナはよくわからないが、泣いていた。


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[一言] 自由の身でエーデルタルトまで行ければ、どっかの家の兵士として働けそう
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