表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/271

第004話 出世?


 純粋なぶどう令嬢を騙した俺はそのまま馬車に乗り、ゲルクの町を目指した。

 そして、夕方にはゲルクの町に到着し、宿屋の前で降りる。


「ありがとうございました。あなたは王都に戻ってください。でも、この事はくれぐれも内密ですよ」


 マリアはそう言って、御者の手を握った。


「わかってます。では、私はこれで」


 御者は馬車の荷台に乗ると、馬を操って帰っていった。


「あんな純粋な田舎娘も賄賂を使うようになったのねー」


 リーシャがマリアと御者のやり取りを見て、感心したように頷く。

 マリアが御者の手を握ったのは金貨を握らせるためなのだ。


「田舎の方が賄賂まみれですよ。じゃなきゃ、私みたいなのは王都の貴族学校に通えません」


 そういや、男爵令嬢程度のこいつが栄えある王都の貴族学校にいるのは変だな。


「どこも賄賂ねー」

「そういうものですよ。ある種、私が皆さんに配っていたワインだって賄賂です」


 そういう意図があったのか……

 でも、確かにあれがあったから馴染めたのかもしれない。

 マリアはぶどう令嬢とあだ名され、笑われていたが、皆に好かれていたし、身分や地位で差別されることもなかった。


「あなたも大変ねー」

「いえいえ。おかげさまで教会に入れました。良いところには嫁げませんでしたけどね」


 まあ、マリアの親父のフランドル男爵的には良いところに嫁いでほしくて王都の貴族学校に入れたんだろうな。


「そういう人生もありよ。私なんて…………いや、夫の前で愚痴はダメね」


 もう全部言ってるわ。


「そ、そんなことよりもお疲れでしょう。中へどうぞ。御二人にとっては貧相かもしれせんが、この町で一番良い宿だそうです」


 マリアは不穏な空気を察し、俺達を宿に勧めてきた。

 俺達はマリアに勧められたまま、宿に入る。

 そして、マリアが宿の受付をすると、部屋に案内されたので部屋に入った。


「御二人は外に出ないでください。私は隣の部屋で寝ますが、何かあれば起こしてくれて結構です」


 ホント、良い子だわ。


「悪いわね」

「いえいえ、お食事は部屋で食べて構わないそうなので後で持ってきます。私は空港に行ってチケットを買いますので」

「マリア、悪いのだけど……」


 リーシャが言いにくそうにマリアを見る。


「わかってます! 私にお任せを! 御二人のチケットも買ってきます!」


 ホント、べんり…………良い子だわ。


「お願いねー」

「よろしく」

「はい!」


 マリアは元気よく返事をすると、部屋から出ていった。


「さて、ここまでは上手くいったわね」


 マリアが部屋から出ると、リーシャが真っ黒な顔で笑う。


「そうだな」

「これからどうするの? このままだと、教国に行っちゃうわよ」

「あそこはマズい。下手をすると、こっちの情報が伝わり、強制送還もありうる」


 教会は世界中の国にあるため、ネットワークが強い。

 そのため、俺達の放火アンド逃走がバレる可能性が高い。


「じゃあ、当初の予定通りにハイジャックね。飛空艇に乗ったらジャックして、別のところに行きましょう」

「そうだな」


 マリアがいてくれて助かったわ。


「しかし、マリアに悪いわね…………せっかく教国で出世だっていうのに」


 一応、下水にも友人への罪悪感はあるらしい。


「そうでもない」

「ん? なんで? エリートじゃないの」


 リーシャが意外そうな顔をする。


「これは死んだ母上から聞いた話だがな、教国への修行には2種類あるらしい」


 母方の実家があるウォルターは教国から割かし近いため、情報が入ってきやすいのだ。


「2種類?」

「一つは本当の意味でのエリート。つまり、幹部候補だな。もう一つは使い捨て」

「つ、使い捨てって?」

「そのまんま。ずっと働かせっぱなし」


 修行といえば、喜んで働いてくれる。

 特に夢見る人間は……


「本当?」

「らしいぞ。あとは…………まあ、お前は知らなくていい」


 女に言うことではない。


「それだけでわかったわ」


 まあ、生臭坊主共だもん。


「遠方の国の貧乏男爵の娘はどっちだと思う?」

「使い捨ての奴隷」


 奴隷とは言ってないが、まあ、似たようなものだろう。


「お前さ、変だと思わなかったか?」

「あなたにこの話を聞かされて気が付いた。護衛が御者一人っていうのはない」


 そう、大出世だというのにマリアには護衛が御者しかいなかった。

 確かに王都周辺は野盗もモンスターも少ないが、絶対に出ないというわけではない。

 それなのに護衛は1人。

 しかも、男。

 普通、貴族令嬢には女性をつけるものだ。


「アウトだろ」


 どう考えても教会はマリアを重視していない。


「そうね…………なんで教えてあげなかったの?」

「言えるわけないだろ」

「それもそうね…………あのキラキラした目が怖い」


 純粋な子は怖いわ。


「マリアは貧乏男爵の子とはいえ、ウチの貴族だ。ゴミとして教会にくれてやるわけにはいかない」


 これが本当の出世なら俺も喜んで送ってやるし、祝福もしよう。

 だが、奴隷はない。


「じゃあ、マリアも連れていく?」

「そうなるな……ウォルターについたら伯父上に頼めばいい」


 この国に帰りたいなら帰してもいいし、マリアが望むならウォルターに仕えてもいい。

 あいつの回復魔法の実力ならどうとでもなる。


「わかったわ。マリアには悪いけど、そこまでは付き合ってもらいましょう」

「ああ、それよりもハイジャックの計画を練るぞ」


 俺がそう言うと、リーシャが顔を近づけてくる。


「そうね。どうするの?」

「確実なのは船に乗り込んだら俺の睡眠魔法で乗員乗客を眠らせて外に出す。それで俺が操縦する」

「魔力は持つ?」

「大丈夫だ」

「じゃあ、それでいきましょう」


 俺とリーシャはその後も細かなハイジャック計画を練っていく。

 そうしていると、マリアが食事を持って戻ってきた。


 俺達はマリアが食事を持ってきたので話をやめ、夕食を食べることにした。

 そして、3人で昔話に花を咲かせながら夕食を食べ終えると、早めに休むことにする。


「あ、あの、殿下、リーシャ様、ここは壁が薄いので気を付けてください」


 マリアは顔を赤らめてそう言うと、さっさと自室に戻っていった。


「どういう意味?」


 リーシャが聞いてくる。


「お前、そこの壁を殴ってみろ」


 リーシャが首を傾げながら壁を殴ると、壁の向こうから『痛っ』というマリアの声がした。


「あー……そういう意味。相変わらず、こういう色恋が好きな子ね」


 リーシャはようやくわかったようだ。


「魔力を回復させないといけないから寝るぞ」


 俺はそう言って、自分のベッドに入る。


「私も足が痛いわ」


 リーシャも自分のベッドに入った。


「やっすいベッドだなー」

「ホントよね」


 俺達はわがままを言いつつも疲れたので寝ることにした。


お読み頂き、ありがとうございます。

この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。


よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新作】
宮廷錬金術師の自由気ままな異世界旅 ~うっかりエリクサーを作ったら捕まりかけたので他国に逃げます~

【新刊】
~書籍~
左遷錬金術師の辺境暮らし 元エリートは二度目の人生も失敗したので辺境でのんびりとやり直すことにしました(1)
左遷錬金術師の辺境暮らし 元エリートは二度目の人生も失敗したので辺境でのんびりとやり直すことにしました(2)

週末のんびり異世界冒険譚 1 ~神様と楽しむ自由気ままな観光とグルメ旅行~

~漫画~
廃嫡王子の華麗なる逃亡劇 1 ~手段を選ばない最強クズ魔術師は自堕落に生きたい~

【販売中】
~書籍~
廃嫡王子の華麗なる逃亡劇 ~手段を選ばない最強クズ魔術師は自堕落に生きたい~(1)
廃嫡王子の華麗なる逃亡劇 ~手段を選ばない最強クズ魔術師は自堕落に生きたい~(2)

【現在連載中の作品】
その子供、伝説の剣聖につき (カクヨムネクスト)

週末のんびり異世界冒険譚 ~神様と楽しむ自由気ままな観光とグルメ旅行~

左遷錬金術師の辺境暮らし ~元エリートは二度目の人生も失敗したので辺境でのんびりとやり直すことにしました~

バカと呪いと魔法学園 ~魔法を知らない最優の劣等生~

35歳独身山田、異世界村に理想のセカンドハウスを作りたい ~異世界と現実のいいとこどりライフ~

最強陰陽師とAIある式神の異世界無双 〜人工知能ちゃんと謳歌する第二の人生〜

廃嫡王子の華麗なる逃亡劇 ~手段を選ばない最強クズ魔術師は自堕落に生きたい~

【漫画連載中】
地獄の沙汰も黄金次第 ~会社をクビになったけど、錬金術とかいうチートスキルを手に入れたので人生一発逆転を目指します~
がうがうモンスター+
ニコニコ漫画

廃嫡王子の華麗なる逃亡劇 ~手段を選ばない最強クズ魔術師は自堕落に生きたい~
カドコミ
ニコニコ漫画

35歳独身山田、異世界村に理想のセカンドハウスを作りたい ~異世界と現実のいいとこどりライフ~
カドコミ
ニコニコ漫画

左遷錬金術師の辺境暮らし ~元エリートは二度目の人生も失敗したので辺境でのんびりとやり直すことにしました~
ガンガンONLINE

【カクヨムサポーターリンク集】
https://x.gd/Sfaua
― 新着の感想 ―
[良い点] 全員キャラがいいな
[一言] 〉「ああ、それよりもハイジャックの計画を練るぞ」 テロ行為に滅茶苦茶手慣れてるーーー!! 王太子様じゃなかったっけ!? 絶対王様は逮捕する為の騎士でなく、息の根を止める為の暗殺者を送り込ん…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ