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第038話 一流


 俺達が歩き続けていると、日が完全に昇った。

 朝の涼しさと太陽の組み合わせが気持ちいい。

 ただ、寝てないせいで目がちょっと痛い。


 俺は前を歩くジャックを見て、この辺りだなと思い、立ち止まる。

 俺が立ち止まったので当然、リーシャとマリアも立ち止まった。


「どうした?」


 ジャックもまた、急に立ち止まった俺達を不審に思い、立ち止まった。


「さて、ジャック、この辺でお別れといこう」

「ん? 次の町に行くんだろ? リリスの町には寄らんだろうが、行く方向は一緒だろ。リリスまでお守りをしてやるぞ」


 Aランクのお守りはありがたい。

 ありがたいが……


「いや、この辺でいい。ロクにモンスターも出ないし、仕事が終わったのならもういい」

「ふーん……お前さん達は本当にすごいな……」


 ジャックが感心したようにつぶやく。


「マリア、わかるか?」


 俺はそういうことが詳しくないマリアに聞いてみる。


「さすがにわかります。ジャックさん、私達を殺す気ですよね?」


 マリアがそう言うと、ジャックがニヤリと笑った。


「ははは。まあ、わかってしまうか」


 ジャックは隠すことも誤魔化すこともしない。


「そりゃな。あの二流の考えそうなことだ」


 ルイーズは確証があったかは知らないが、今回の犯人の予想ぐらいはしていただろう。

 そうなると、俺達に最悪の汚点がバレてしまう可能性がある。

 だったら処分する。

 軍を使わずに後ろから刺す方法で。


「ホント、二流だわな」


 ジャックはそう言いながらニヤニヤと笑い続ける。


「一応、忠告しておくと、やめた方が良いぞ。俺の魔力が減っているとはいえ、まだ十分にやれるし、リーシャも余力は十分にある」


 いくらAランクとはいえ、戦闘に特化した俺達に勝てるわけがない。


「ははっ。そりゃそうだ。無理無理。特に絶世の嬢ちゃんがやべーわ。一緒に空賊を狩ったが、容赦なさすぎ。バレた時点でやんねーよ…………それにまあ、処分はお前達だけじゃないだろう」


 ルイーズにとったらジャックも知られたくないことを知っている関係者か……


「さすがにAランクは処分されないんじゃないか?」

「普通はそうだ。ギルドから疑われるし、良いことなんかない。だが、あの二流はダメだろう。リスク管理がまるでできていない」


 そんなことができてたらあの賊と恋人にはならないか。


「じゃあ、お前もリリスには戻らんのか?」

「いや、戻る。報酬をもらわなければならんからな。まあ、俺には俺のやり方がある」


 ふーん……


「だったら俺達は空賊の飛空艇で逃げたって言ってくれ」

「ああ、それな。なんで逃げなかったんだ? 俺はてっきりそうするのかと思っていた」


 普通ならどう考えてもそうする。


「それはルイーズもわかっている。だから多分、追跡用の飛空艇を用意しているだろうよ」

「ふーん……………本当は?」


 ジャックが目を細める。


「空はもう飽きた」

「怖いですー。墜落はもう嫌ですー」


 不時着な……


「あー……お気の毒に。そりゃそうなるか。とすると、お前さん達、これからどうするんだ?」

「歩くしかない」

「きっついぞ、それ」


 そんなもんはわかっている。

 だが、空はない。


「長旅は覚悟の上だ。だからお前やブレッドがありがたかった」


 色んなことを教えてくれたし、相談にも乗ってくれた。


「恩は売っておくものだな。おかげで命拾いした」


 こいつらは俺達を騙した。

 貴族は不敬を働いた者を許さない。

 だが、それ以上の功績がこいつらにはある。


「殺しはせん。お前が引退したら雇ってやると言っただろう」

「それ、マジなん? 俺、衛兵?」

「そうはならんな。お前に兵士は無理だ」


 どう見ても兵士って感じではない。


「庭師でもいいぞ。得意だ」


 鉈で伐採か?

 さすがにない。


「いや、密偵でもやってもらう」

「…………怖いねー」


 ジャックから笑みが消えた。


「お前が得意とする分野はそれだろう? お前がどこの国の密偵かは知らんが、もっと良い条件で雇ってやるぞ」

「くっくっく……先に言っておこう。エーデルタルトとは何の関係もない国だ。まあ、引退したらだな。実際、本を書き終えたら年齢的にもそっちの仕事も引退だ」


 どこの国の密偵だろう?


「テールを調査中だったか?」

「ああ、そうだ。最初は王都にいたんだが、情報を集めていると、この地域が少し変だったんでな、調査しに来たらこんなくだらないことに巻き込まれた」

「くだらないか?」

「くだらない。二流の尻ぬぐいに本にも書けない賊狩りだぞ」


 確かにつまらんな。


「ご愁傷様」

「まあ、でも、良い出会いもあった。引退後の仕事を見つけることができたしな」


 ジャックが笑う。


「良かったな」

「ああ。もし、この先、俺の力が必要ならギルドに伝言を残せ。それで伝わる」

「そんなこともできるのか?」

「できる。ギルドにはギルドのネットワークがあるからな。とはいえ、俺が別の仕事中だったらどうにもならんから確実とは言えんぞ」


 まあ、そうだろう。

 こいつの仕事的には町にいないことの方が多そうだ。


「ふーん、まあ、何かあれば頼るわ」

「そうしろ。それと将来の主様のためにアドバイスだ。お前らはこの先、北の町に行く気だろう?」


 俺達は一昨日の夜に地図を見ながら今後のことを相談していた。

 その結果、北にある大きな町に行くことに決めていた。


「そうだな。贅沢がしたいわけではないが、田舎は嫌だ」

「わがままだねー。じゃあ、俺からの具申だ。西のアムールに行け」

「アムール?」


 西にそんな名前の町があった気もするが、そこまで大きな町ではなかったと思う。


「なんでだ?」

「そこは港町なんだよ。海がある。空路がダメなら海路を使って、さっさとこの国を脱出しろ。正直に言うが、お前らはこの先、絶対にバレる」


 はっきり言うな……

 しかし、海路か……

 大丈夫か?

 俺、泳げないんだけど……


「国外への便があるのか?」

「アムールは国内の便しかない」


 となると…………今度はシージャックだな。


「まあ、この国ではお尋ね者になっても構わんか……」

「そういうことだ。適当な魔導船でも奪え」


 魔導船は魔力で動く船のことだ。

 操作は飛空艇とほぼ一緒だから俺でも動かせる。


「わかった。そうする」

「ああ……じゃあ、この辺でお別れといこう。お前らのことは適当に誤魔化しておく。それと俺はこのまま道を進んでいくが、お前らは道から逸れてアムールに向かえ。このままだと賊を討伐し終えた騎兵隊に遭遇するぞ」


 それもそうだな。

 戦闘はなるべく避けたいし、騎兵隊は勘弁だ。


「了解」

「じゃあな。お互い、また生きてたら会おう」


 ジャックが手を上げた。


「大丈夫。俺もお前も死なん」

「はっはっは。そうだな。俺はまだお前から酒を奢ってもらっていないし、死ねんわ」


 そういえば、そんなことも言ったな。


「今はないから今度な」

「期待しないで待っておくぜ」


 俺達はこの場でジャックと別れ、道を逸れて、西に向かって歩き出した。




 ◆◇◆




 俺は道を逸れて平原を歩く3人の後ろ姿を見つめている。

 大中小の3人の姿はもうかなり小さくなっていた。


「迷わず、行きやがった……相変わらず、決断力に優れてるねー……絶世の嬢ちゃんはこえーし、ちっちゃい嬢ちゃんは取り入るのが上手い」


 俺は思わず、笑みがこぼれた。


「お前らは忘れているというか、認識すらしてなかったんだろうが、俺はお前らと会っているんだぜ?」


 俺は聞こえないのはわかっているが、遠くにいる3人に向けて言う。


 ロイド殿下が言うように俺は密偵だ。

 だからエーデルタルトに行った時も密偵の仕事をしていた。

 その時に商人に化けて、あいつらが通う貴族学校にも潜入したことがある。


「黒王子に下水令嬢にぶどう令嬢か……」


 禁止された黒魔術をやっていると評判の王子、絶世の見た目と下水の性格と評判の公爵令嬢、王都の貴族学校には珍しい男爵令嬢。

 あの時から変わっている3人だとは思っていた。


「しかし、エーデルタルト王は何を考えているんだろうか?」


 あの王子が廃嫡?

 あれは洞察力も決断力もある。

 何が不満なんだ?

 弟のイアン殿下とも接触したが、特別優秀には感じなかった。


「再就職のために調べてみるか……」


 放火の件も気になるし、次はエーデルタルトに行くかね。


「まあ、その前にっと……」


 俺は後方から近づいてくる騎兵隊を見つめる。


「将来の主のために働かなくてはな!」


 俺は背中のカバンから槍を取り出した。

 かつて、ドラゴンをも倒した槍だ。


「殿下が言うようにあの女は本当に二流だ。ドラゴンスレイヤーであるAランク冒険者をたったあれだけの兵で討てると思っているんだからな」


 俺は本当につまらない仕事を受けたなーと思いながら騎兵隊に向かって歩いていった。


ここまでが第1章となります。


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[良い点] きれいなだけの王族とは違う、腹黒泥に塗れた冒険者が似合う元王族貴族
[一言] ジャックが本気なら1人2人は処理して安全に逃げることもできたろうな
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