最終話 最後の大問題
俺達は城に戻ると、ものすごい忙しい日々を送ることになった。
王と王妃の葬儀にイアンの戴冠式、さらには毎日のように挨拶と説明を求める貴族への対応……
正直、嫌になっていた。
だが、良いこともあった。
それは結局、テールとの開戦を免れたことだ。
テールはジャックとラウラの妨害工作により、開戦の準備が整わず、防衛戦へと移行した。
それを確認したカークランドは直ちに軍を返した。
これにより、お互いに軍を引いたのだ。
これを戻ってきたジャックとラウラに聞いた。
そんな2人だったが、すべてが終わったことを伝えると、エーデルタルトを離れてしまった。
ジャックは本を書くための旅を再開し、ラウラはまだやることが残っているのでエイミルに戻っていったのだ。
なお、ラウラが城を出る前にリーシャが釘を刺していたので多分、戻って来るとは思う。
そして、そんな忙しい日々を送り、数ヶ月が経った。
さすがに前のように忙しいわけではないが、やることはかなりある。
しかも、つまらない。
結論としては、副王に飽きた。
「ミール辺境伯かウォルターでぬくぬく生きる方が良かったかもしれんな……」
俺は自宅と化したエリンの離宮にある自室でお茶を飲みながらぼやく。
「ウォルターはまだいいけど、ミールは嫌ね。でも、つまらないことには同意する」
リーシャがお茶を飲みながら同意した。
「私は平和ですし、楽でいいですけどね。漂流の心配も遭難の恐怖もありません」
マリアが満足そうにうんうんと頷きながら言う。
「まあ、もうそんなことは起きないだろう。ところで、どっかに出かけないか? というか、逃げない?」
「いいわね。城は飽きたし、うざい挨拶ももういいわ」
うんうん。
わかる、わかる。
「逃げるってどこに逃げるんですか? ウォルター辺り? 飛空艇は嫌ですよ」
「それもそうだな……航路かね?」
「さっきの『もうそんなことは起きないだろう』という発言が一気に不穏なものになりましたよ……」
確かに……
遭難しそうだ。
「国内か? ロクなところがないだろ」
「南部は嫌だし、北にでも行ってみる? 海があるわよ」
海ねー……
「気分転換にはいいかもな…………シルヴィ」
「何かね?」
俺のデスクの豪華な椅子に座り、ふんぞり返っているシルヴィが偉そうに聞いてくる。
「北に何かあったっけ?」
「無視……辛い…………」
めんどくさいんだよ。
「いいから何かあったか?」
「海と羊がいる牧場ですかね? のどかですよ」
つまんね。
「ティーナにでも追いかけさせるか?」
「ティーナは牧羊犬じゃないわよ」
「そうかー? 喜んで追いかけそうだぞ」
「そんなわけないでしょ」
俺とリーシャはリーシャのそばで立っているティーナを見る。
「お、追いかけませんよ。当然です」
追いかけそうだ。
「他に案もないし、気分転換には良いかもね」
「そうだな。まあ、考えておこう」
俺達はその後もまったり休日を過ごし続ける。
すると、ふいに部屋にノックの音が響いた。
「ん?」
「誰かしら?」
「さあ?」
今日の仕事はないはずだ。
「誰だ?」
俺は扉に向かって声をかける。
『兄上ー? 私です。ちょっといいですか?』
イアンだ。
あいつがここに来るのは珍しい。
「入っていいぞ」
俺が許可を出すと、扉が開き、微妙に申し訳なさそうな顔をしたイアンが部屋に入ってきた。
「ゆっくりと過ごしているところをすみません」
イアンは俺達のテーブルに近づきながら謝ってくる。
「それは別にいいが、何の用だ? 呼ばれたら行くぞ」
兄かもしれないが、お前が王だろ。
弟に頭を下げるのは嫌だし、陛下とも呼んだことないけど。
「実はちょっと問題が起きていまして……」
「問題? 横領でもしたか? そういうのは堂々とし、自分は悪くないという態度でいくといいぞ」
王様なんだから開き直らないと。
「そんなことをするわけないでしょ。兄上じゃないんだから」
副王の給料が安いんだよ。
「じゃあ、何だよ?」
「実は他国から親善の使者が来ているんだよ」
他国?
珍しい。
「俺に用ってことか? ウォルターか?」
でも、この前、ヒラリーが来たような……
「いや、違う国」
「エイミル?」
「ううん」
「じゃあ、ジャスか」
他にない。
「それも違う」
「はい? 他にウチの国に親善の使者が来そうな国ってあるか?」
「いや、私もそう思うし、なんでこの国に来たんだろうって思った。だけど、使者の顔を見たら納得した。というか、びっくりした」
嫌な予感がする。
それもものすごい嫌な予感がする。
『――ュリー様、お止めください!』
『…………はロイド殿下の部屋でございます!』
部屋の外が騒がしい。
「賊かな?」
「賊……ではないかな」
イアンが渇いた笑みを浮かべた。
「一応、確認しておこう。こんなところまで来る無礼なわがままババアはどこの国の使者だ?」
「わがままババアって言ってんじゃん……兄上は知っていたんだね…………ギリスのパーカー伯爵代理らしい」
俺がイアンの言葉を聞いてやっぱりかと思っていると、バンッとノックもなしに扉が開かれる。
そこにはこの離宮で働いているメイド2人にしがみつかれているアシュリー叔母上が立っていた。
「叔母上、ここは私の家みたいなものなんですが?」
俺は無礼すぎる叔母上に苦言を呈する。
すると、メイド2人は叔母上から離れた。
「この離宮は私のものだ」
そういえば、叔母上はエリンの離宮を自分勝手に使っていたな。
「他国に嫁いだんだから大人しくしてください。というか、親善の使者でしょ。親善の意味をわかっていますか? 他国の城内を我が物顔でうろつくことではないですよ?」
こんなのを使者にしたのは誰だよ……
まあ、ギリス王だろうけど。
「ぐちぐちうるさい奴だな。昔、おしめを代えてやったのを忘れたか? …………あれ? イアンだったか?」
「覚えてるわけないだろ!」
「知りませんよ!」
俺とイアンが同時に怒鳴った。
「うるさいガキ共だ。せっかくうるさい兄上が死んだから戻ってきてやったのにそのガキ共がうるさくなってやがる」
一番うるさいのはお前だ。
「もういいです。それで何の用ですか?」
「親善の使者だよ。ほれ、お前ら、ウォルターで式を挙げて、ウチの王妃に髪飾りのお礼の手紙を送っただろ。その後、エーデルタルトで政変が起きて、お前が副王になったっていうから王妃が王に親善の使者を送れって命令したんだ。王妃の奴が祝福するって言うんで手紙を預かってきた」
叔母上はそう言うと、リーシャとマリアに手紙を渡す。
「それだけ?」
「後は様子を見てこいって言われた。まさかあのハゲが現役とは思わんかったな」
宰相ね。
「用事は済んだな? じゃあ、帰れ。ここに叔母上の居場所はない」
面倒なことが起きる前に帰ってくれ。
「そうだな。じゃあ、帰るわ。私的にはアシュリー号をぶっ飛ばしたかっただけだし、家には幼い子供達を残している……あ、そうそう。子供で思い出した!」
思い出すな!
わざとらしすぎだわ!
「……何です?」
「はい、これ」
叔母上が俺に手紙が入っているだろう封筒を渡してくる。
「王妃からか?」
「うんにゃ」
「じゃ、ギリス王からか?」
「なんでお前に送るんだよ。王からの手紙はイアンに渡した」
そりゃそうだ。
でも、そうであってほしかった。
「…………じゃあ、誰?」
「裏面を見てみろ」
俺は叔母上にそう言われて、封筒の裏を見てみる。
そこには【ヘレナ・パーカー】という差出人の名前が書いてあった。
「…………うん」
「いやー、おかげで文字の勉強までしてくれたぞ。愛って素晴らしいな。そう思うだろう?」
叔母上が笑顔で俺の肩に手を置いてくる。
「イアン、お前、4歳の子は好きか?」
もしかしたらもう5歳かも。
「兄上は何を言っているんですか?」
イアンが呆れた顔をする。
『シルヴィ!!』
『申し訳ございません、旦那様…………詰みでございます。おそらくアシュリー様はギリス王を利用したのでしょう。多分、ギリス王からイアン様への手紙にはそのような縁談話が書かれているかと…………』
問題を先送りにしたのは間違いだったか……
『どうにかならんか? 手紙をすり替えるとか?』
『無理です。もういっそ正式に断っては? 所詮は遠方の地です』
確かにギリスの地は遠い。
『お前、俺に従妹をないがしろにしろと言うのか? 一族だぞ』
しかも、女の子。
『あのー……私も一族で又従姉なんですけど……ないがしろにしまくってません?』
お前はどうでもいいんだよ。
『いいから良い感じにしろ。リーシャが何も言わないかつ、ヘレナが傷つかない良い感じのやつだ』
『そんなものはありません。ですが、ご安心ください、旦那様! 何があろうと、このシルヴィがお守りします!』
お前も問題を大きくする原因の一つなんだがな……
『誰かさんに刺されないように気を付けるしかないか』
『旦那様、旦那様! リーシャ様の方をご覧ください。素敵な笑顔ですよ!』
無理。
怖いもん。
俺はこれからのことを考え、頭が痛くなった。
…………そうだ!
ウォルターに逃げよう!
~Fin~
本作はこれにて完結となります。
これまでブックマークや評価して頂き、ありがとうございました。
執筆中、大変、励みになり、ここまで書くことできました。
拙い文章で誤字脱字等も多くあり、ろくに感想返しもできませんでしたが、これまで支えてくださって、本当に感謝しております。
約2年半の連載でしたが、ここまで書けることができたのは皆様の応援のおかげです。
ありがとうございました。
また、皆様方の応援もあり、書籍を出すことができ、さらにはコミックにもなりました。
大変ありがたい限りですし、皆様には本当に感謝しております。
これからも書き続けますし、変わらぬ応援をして頂けると幸いです。
それと本日より新作を投稿しております。
ジャンルはハイファンタジーですので読んで頂けると幸いです。(↓にリンクあり)
今後ともよろしくお願いいたします。




