第291話 今後
すべてを終えた翌日。
俺達はスミュールの屋敷に向かうと、一部屋を借り、そこで滞在することとなった。
「旦那様ー、辛いですー」
俺達は先程、昼食を食べ、部屋に戻ってくると、シルヴィが布団に倒れて、愚痴をこぼす。
「良い感じだったぞ。さっきの昼食批判は素晴らしかった」
シルヴィは先程の昼食の時に『この家ではこんな不味いものを客に出すんですね』と言っていた。
空気が完全に凍っていた。
おかげでスミュール夫妻はマリアもティーナも眼中にない。
「きついですってー。私、最悪の女じゃないですか……」
「スミュールなんかどうでもいいだろ。もっと頑張れ」
「ついていく主を間違えたー……」
間違えていない。
「なんでかしら? 可哀想とまったく思えないわ」
「普段の行いのせいでしょうね」
「正直、言いそうよね」
他の女子3人が半分呆れながら言う。
「私の味方がいない……いいもん。仕事放棄だ」
シルヴィはそのまま布団を被って寝てしまったので俺達は食後のお茶を楽しみながらまったりと過ごすことにした。
そして、しばらくすると、部屋にノックの音が響く。
すると、シルヴィがベッドから飛び起きた。
「私が」
シルヴィは髪の毛を跳ねさせながらそう言うと、扉に向かう。
「何でしょう?」
シルヴィが扉越しにノックした者に用件を尋ねた。
『私だ。宰相殿が殿下にお会いしたいと言っている』
この声はスミュールだ。
「会おう」
俺がそう言うと、シルヴィが頷き、扉を開く。
すると、スミュールと共に頭がハゲた爺さんが部屋に入ってきた。
もちろん、宰相である。
「お久しぶりでございます、殿下。リーシャ嬢もお元気そうで何よりです」
宰相が頭を下げてくる。
「お前も元気そうだな」
「いえいえ、もう引退したいですよ。そうもいかなくなりましたがね」
そりゃそうだ。
今、宰相に引退されては困る。
「では、私はここで。宰相殿、また」
「そうですな」
宰相が頷くと、スミュールは部屋を出ていき、扉を閉じた。
「話があるんだったな?」
「はい。ですが、その前にご結婚おめでとうございます。リーシャ嬢だけでなく、マリア嬢もらしいですね?」
「そうなるな。不満か?」
「いえ。とても素晴らしいことだと思います。亡きオーレリア様も喜んでおられるでしょう」
オーレリアとは俺の母親の名である。
「そうだと願いたいな」
「殿下は苦労をかけましたからきっとそうですよ」
相変わらず、チクリと言ってくるな。
「マリアのことで苦言の一つでも言うかと思った」
「まさか。殿下がお選びになられたのなら私は反対しません」
まあ、こいつは派閥とか関係ないか。
「座れ。話をしよう」
「はっ!」
宰相がテーブルまで来ると、シルヴィが椅子を引き、宰相を座らせた。
「イアンから事情は聞いたか?」
「はい。昨夜に話を聞き、重臣達と先程まで会議をしておりました」
これは寝てないな。
「どうなった?」
「陛下と王妃様は残念でしたが、致し方ありません。提案通り、イアン殿下を次の王と致します」
重臣共も納得したようだ。
「それでよい」
「殿下は副王でよろしいですか? というより、そうなっていただかないといけません」
「遊んで暮らそうと思ったが、やはりそうはいかんか」
「陛下と王妃様がいなくなり、経験もなければ、それを教えられる者がおりませんのでイアン殿下御一人では厳しいです。王と王妃がいなくなった今こそ、皆が一致団結せねばなりません。殿下にも働いてもらわなければ」
派閥があるからなー。
「まあ、わかった。それで具体的な今後の予定はどうする?」
「まずは葬儀です」
「遺体がないぞ」
「もちろん形だけのものです。イアン殿下の就任式と同時に行いますので殿下も参加してください」
そりゃ参加するが、遺体のない葬儀かよ……
「テールはどうする?」
「すでにカークランドが南部の前線に軍を配置し始めております。当然ですが、侵攻は中止で動きを見せるテールへの牽制です」
「テールは来るか?」
「それは何とも……ですが、負けることはありません」
まあ、負けないだろうな。
あとはジャックとラウラの妨害工作次第だろう。
「俺の行方不明の件は?」
民衆はともかく、貴族共は俺が王都にいないことはわかっていただろう。
「それは元々、否定しておりましたから問題ありません。リーシャ様と共に親善の使者としてウォルターに行っていたということで良いでしょう」
「そんなところか……」
それを発表しないのはおかしいけどな。
まあ、バカ王子が拗ねて家出したんだろうと思うか……
「皆、すでに動き出しております。殿下も早急に城にお戻りください」
「わかった。リーシャとマリアはどうする?」
「すでにご結婚なされておりますし、当然、ご一緒です」
「俺の部屋か?」
3人は狭いぞ。
シルヴィは実家があるのでどうとでもなるが、ティーナもいる。
「それもそうですな…………先日、ぼやがあったところで申し訳ございませんが、エリンの離宮をお使いください」
嫌味ジジイめ……
「まあよい。そこをもらうわ」
「では、そのように。馬車を用意してございます」
「はいはい」
俺達は城に戻ることにし、スミュール宅を出ると、馬車に乗り込む。
そして、馬車に揺られながら今後の忙しさを想像して嫌な気持ちになった。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
来週が最終話になります。
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