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第029話 指名依頼


 冒険者としての初仕事をした翌日。

 俺達は朝食を食べると宿屋を出て、ギルドに向かった。


 ギルドは相変わらず、美人の受付嬢の所には列ができていたが、ブレッドの所は空いていたのでそこに行く。


「よう、ホント、人気ねーな」


 俺はブレッドの所に行くと、軽口を言う。


「いつものことですよ」


 ブレッドが苦笑した。


「仕事を頼む」

「はい。その前に皆様の冒険者ランクがEランクに上がりましたので冒険者カードを更新いたします。提出を」

「早いな……1日しか働いてないのに」


 俺達は冒険者カードを出し、受付に置く。


「FからEはすぐですよ。それに昨日の仕事はDランク、Cランクの仕事ですからね」


 そんな仕事を初対面の俺らにくれてありがとう。


「では、こちらが新しいカードになります」


 そう言って、新しく出した3枚のカードは前のカードと何ら変わらなかった。


「一緒じゃん」

「いえいえ、裏面をご覧ください」


 俺はそう言われたのでカードの裏を見てみる。

 すると、Eランクと書かれていた。


「…………もっとないの? ランクが上がるとカードに装飾が付くとかさー」

「予算が……」


 あっそ。


「ふーん……まあいいわ。それで仕事は?」

「はい。こちらになります」


 ブレッドはそう言って、一枚の紙を受付に置く。

 俺はそれを手に取ると、確認する。


【魔術の結界張り 金貨100枚】


 うーん……


「それはロイド様への指名依頼になりますね」


 ブレッドが追加情報を教えてくれる。


「誰からの指名だ」

「領主様です」


 領主……


「昨日の変人の推薦か?」

「はい。ジェイミー様の推薦です」


 あの変人、ジェイミーって言うらしい。

 余計なことを……


「断れるか?」

「出来たら受けて頂けると……」


 チッ!

 これは断れんな……


「わかった」

「ロイドさん、受けるんですか?」


 俺が了承すると、マリアが心配そうに聞いてくる。

 俺達の状況からこの国の貴族との接触は絶対に避けるべきである。


「まあな。報酬も悪くない。ブレッド、領主の家に行けばいいのか?」

「はい。領主様の家はこの町の中央です。大きな屋敷ですのですぐにわかると思います」

「了解。行ってくるわ」


 俺は了承すると、すぐにギルドを出た。


「逃げる?」


 ギルドを出ると、すぐにリーシャが聞いてくる。


「それは悪手だ。普通に行こう」

「それもそうね。これまで上手くやれてたのにねー」


 リーシャが笑った。


「しゃーない。上手くいきすぎだろ」

「まあね」

「どういうことです?」


 マリアが聞いてくる。


「行けばわかる。さっさと終わらせて次の町に行こうぜ。さっさとこんな国を抜けたいわ」


 俺は町の中央にある領主の屋敷を目指すことにした。


 しばらく歩くと、高い壁に覆われた屋敷が見えてくる。

 俺はそのまま歩き、槍を持った門番が立っている鉄製の門に向かった。


「ここは領主様の屋敷です。用のない者は入れません」


 門に近づくと、門番が注意してくる。


「俺はロイド。ギルドから来た。指名依頼だそうだ」


 俺はそう言って、冒険者カードを見せた。


「確かに……領主様より伺っております。どうぞ中へ」


 冒険者カードを確認した門番はそう言うと、門を開ける。


「ご苦労」


 俺は堂々と門をくぐると、歩いていく。

 すると、屋敷の入口の前に執事服を着た初老の男性が姿勢を正して待っていた。


「お待ちしておりました、ロイド様、リーシャ様、マリア様。わたくしはこの屋敷の執事長をしているネイサンと申します。以後、お見知りおきを」


 うーん、立派だ。

 前にジャックを執事にしてやるって言ったが、これは無理だな。

 ジャックがこんなことをしたら多分、笑っちゃう。


「どうも。領主は?」

「中でお待ちです。どうぞ」


 ネイサンは玄関の扉を開き、俺達を屋敷に招き入れてくれる。

 そして、そのまま歩いていき、奥の扉まで行くと、ネイサンが扉をノックした。


「領主様、ロイド様とその奥方様をお連れしました」

「入ってもらってください」


 中から女の声が聞こえた。

 多分、まだ若いな。


「どうぞ」


 ネイサンは扉を開けると、俺達に中に入るように促す。

 俺は促されるまま部屋に入った。


 部屋は領主の執務室のようで部屋の奥には作業用のデスクが置いてあり、手前には応接用のソファーとテーブルが置いてあった。

 そして、ドレスを着た若い女がソファーに座ったまま、待っていた。


「どうぞ、お座りになって下さい」


 女領主は座ったまま、俺達に対面に座るように促してくる。

 俺はさっさとソファーまで行くと、腰かけた。

 リーシャもまた俺の隣に座る。


「わ、私は立ってます……」


 身分の低いマリアが遠慮する。


「いいから座れ。2号さんだろ」

「あ、はい……そうでした」


 マリアは大人しくリーシャの隣に座った。


「依頼を受けてくださり、ありがとうございます。私はこの地方を治めるルイーズ・ウィリアムです」

「伯爵か?」

「そうです」


 まあ、この規模ならそのくらいだろう。

 だからマリアが遠慮したのだ。


「どうぞ」


 ネイサンが俺達の前に紅茶を置く。

 俺はカップを手に取ると、すぐに飲んだ。


「まあまあだな」

「そう? 良い茶葉を使っているけど、少し香りが薄いわ。使いまわしは良くないと思う。お客様に出すのは常に新しくしておかないと」


 リーシャがそう言うと、領主の口元が少し引きつった。


「2人共ー、いちいち貶すのはやめましょうよー」


 お茶に手を付けていないマリアが困ったように言う。

 マリアはお茶を飲むことができない。

 何故なら、毒とか入ってた時のために回復魔法が使えるマリアは飲んではいけないのだ。


「正直な本音を言っただけよ」

「正直は美徳だなー」


 嘘ばっかりついてるけど。


「も、申し訳ありません……」


 マリアが領主に向かって、頭を下げた。


「い、いえいえ。構いません。少し、古かったのかしら?」


 領主はそう言って、自分の分の紅茶を飲む。

 なお、俺はまったくわからない。


「それで? 依頼とは?」


 俺はお茶もリーシャのマウント取りも興味がないので早速、本題に入ることにした。


「そうですね……」


 領主がカップをテーブルに置いた。


 すると、部屋のドアが急に開き、武装した数人の兵士が剣を抜いた状態で入ってくる。

 そして、俺達に剣を向けてきた。

 どうやら、カップをテーブルに置くのが合図だったようだ。


「ひえっ!」


 剣を向けられたマリアがビビって、リーシャに抱き着く。


「まさかエーデルタルトの王子と貴族がこの国に来るなんてね」


 領主は再び、カップを手に取り、優雅に飲みだした。


お読み頂き、ありがとうございます。

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[気になる点] なんか主人公達がこの依頼をめっちゃ嫌がってたのが不思議だったけど、 こうなることが判ってたってことか
[一言] 全くこの夫婦(仮)は……隠す気あんのかね……。 ……バレバレだったんですねぇ、夫婦はバレてることも分かってたんですねぇ… マリアがトラブル呼び寄せたのかな……?
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