第287話 謁見
イーストンが入った部屋は壁中に本棚が置かれた書庫の様なところだった。
「ここか?」
俺は部屋を見渡しながら聞く。
「はい。ここの棚になります」
イーストンはそう言うと、正面右端にある本棚を持ち上げ、どかす。
すると、本来は壁があるところに地下へ降りる石造りの階段があった。
「旦那様、ここを降り、まっすぐ行けば、王城でございます」
シルヴィが階段の前に立ち、告げてくる。
「そうか……では、いよいよだな」
「はい。私についてきてください」
シルヴィはそう言うと、灯りとなる光球を浮かび上がらせた。
「行くぞ」
俺がリーシャ、マリア、ティーナに言うと、3人は頷いた。
「いってらっしゃいませ」
イーストンが頭を下げると、俺達はシルヴィを先頭に階段を降りていく。
階段を降り終えると、人が一人通れる程度の幅の通路に出た。
「俺がここを通る羽目にはなるとはな……」
存在は聞いていたが、使う予定はなかった。
「これが最後になるでしょう」
いや、町に抜け出すのに便利そう。
俺達はシルヴィを先頭に一列となって進んでいく。
シルヴィの光球があるとはいえ、薄暗いし、わずかにひんやりと冷たい。
俺達がそのまままっすぐ進んでいくと、正面が行き止まりとなっており、そこには上に登るハシゴが設置されていた。
「これか?」
「はい。ここを登れば、謁見の間の横にある秘密の部屋に出ます。では、私が最初に登りましょう。旦那様はその次」
「俺が最後の方が良くないか?」
「マリア様ですか? ティーナさんですか?」
ん?
「何が?」
「下着を見たい方です」
あ、そういうことね。
確かに俺が下だと、そうなるか。
スパッツを穿いているリーシャはともかく、マリアとティーナは見えるわ。
「別にそんな意図はない。俺が先頭で行こう」
「では、私に続いてください」
シルヴィがそう言いながらハシゴを掴み、登っていった。
俺もその後に続き、登っていく。
ふと、上を見上げると、スカートの短いシルヴィがいるが、いつものように暗くて見えない。
俺達がハシゴを登っていくと、上にいるシルヴィが見えなくなる。
俺もそのまま登っていくと、ハシゴがなくなり、すでに上に到達したシルヴィが手を伸ばしてきた。
「悪いな」
俺がシルヴィの手を掴むと、引っ張ってきたので上の部屋に上がる。
その後もリーシャ、マリア、ティーナも上がってきたので部屋を見渡す。
部屋は非常に狭く、扉があるだけで何もない。
「そこの扉を開ければ謁見の間です。旦那様、お気付きですか?」
シルヴィが主語を言わずに聞いてくるが、わかっている。
魔力が満ち溢れているのだ。
「謁見の間にいるな」
「こんな夜更けに何をしているのかはわかりませんが、好都合でしょう」
確かに父上の寝室に行くのはめんどくさい。
ここならすぐに帰れるし、都合がいいだろう。
「いよいよだ。行けるな?」
俺は4人に確認する。
「もちろんでございます」
「私はいつでも大丈夫」
「私もです」
「私もね」
4人共、大丈夫のようだ。
しかし、どうでもいいけど、俺以外は全員女だな。
ジャックを連れてくれば良かった。
「行くぞ」
俺はそう言って扉を開ける。
扉を開けて、中に入ると、そこは確かに謁見の間であった。
そして、謁見の間に入った瞬間、より一層の魔力を感じた。
「これは……」
「普通の魔力ではありませんね」
確かに普通じゃない。
かなりの高魔力だし、嫌な感じがヒシヒシとする。
「ロイド……あれ」
リーシャがそう言って指差したのでその方向を見ると、玉座に座っている人影が見えた。
俺は歩いて、謁見の間の真ん中に立つと、正面を改めて見る。
玉座に座っている人物は確かに俺の父親であり、エーデルタルトの王だった。
だが、そんな父上は玉座に座りながら頭を抱え、うずくまっている。
俺はそんな父上のもとへ向かった。
「父上……?」
俺が近づいて声をかけても父上は反応しない。
「どうしたの?」
後ろにいるリーシャが聞いてくる。
「わからん…………父上、私です。ロイドです」
「ロ、ロイド……?」
父上が反応したが、声がおかしい。
父上の声はこんなに低くない。
「旦那様、お下がりをっ!」
シルヴィがそう叫んだ瞬間、俺の身体が後ろに引っ張られていく。
すると、父上が剣を振り、俺が元いた位置を斬った。
「ケガは!?」
俺が尻餅をついていると、リーシャが聞いてくる。
どうやらリーシャが引っ張ったらしい。
「当たっていないから問題ない。それより……」
俺は立ち上がると、父上を見る…………いや、見上げた。
「陛下ってこんなに大きかったっけ?」
「いや、俺とたいして変わらないはずだ」
だが、父上は俺より頭3つ分は大きい。
「ぐっ……」
父上が剣を捨て、頭を抱えだした。
「えっと、何これ?」
「これほどの高濃度の魔力に身体が耐えられていないのでしょう。これは末期ですね。末期なんですけど……」
シルヴィが言いたいことはわかる。
早すぎるのだ。
父上がいつ黒魔術に手を出したのかはわからないが、こうなるには最低でも数ヶ月はかかるし、それまでに症状が現れる。
だが、俺が最後に会った時もこうなっていなかったし、それ以降に重臣共と会っている時もこんなことにはなっていなかったはずだ。
「ロ、ロイド……」
またもや、父上が頭を抱えながらつぶやいたので俺達は距離を取った。
「何ですか?」
「に、に……」
に?
「死ねっ!」
父上が頭を抱えたままはっきりとしゃべった。
「何かしましたかね?」
俺がそう聞いても答えない。
それどころかその場で頭を抱えてうずくまりだした。
「ダメだこりゃ」
「旦那様、私がやります」
シルヴィがナイフを取り出し、父上のもとに向かう。
「シルヴィ、待ちなさい。何か嫌な予感がする」
リーシャがそう言ったのでシルヴィが足を止めた。
すると、父上の身体からこれまで以上の魔力を感じ始める。
「チッ!」
「くっ!」
俺は杖を取り出すと、父上に向ける。
シルヴィも手を掲げた。
「「炎よ!」」
俺とシルヴィが同時に火魔法を使うと、うずくまっている父上のもとに飛んでいき、燃え上がる。
「マリア様、私の影にお入りください! リーシャ様、ティーナさん、構えて!」
シルヴィがそう叫ぶと、マリアがシルヴィの影に入り、リーシャとティーナが剣を抜いた。
すると、俺とシルヴィが放った火が消えていき、立った状態の何者かが現れた。
「ティーナのせいだな」
「ティーナのせいね」
「この後輩、余計なことを……」
俺達はチラッとティーナを睨む。
「わ、私のせいじゃ……私のせいかなー……」
火魔法が消え、姿を現したのは全身が黒い毛で覆われた狼男だった。
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