第286話 イーストン家
俺達は作戦を決めると、部屋で思い思いに時間を過ごした。
すでに辺りは暗くなっており、夕食も食べ終えた。
今、リーシャとマリアは食後のお茶会をしているし、ティーナもそこでメイドの仕事をしていた。
俺はベッドに寝転がり、本を読んでいる。
そんな俺のそばにシルヴィが控えていた。
「シルヴィ、父上の黒魔術の程度はわかるか?」
俺は本を閉じると、シルヴィを見上げる。
「申し訳ございませんが、そこまでは調査できておりません。もし、陛下が魔力探知を使えるようになっていることを考えると、あまり踏み込めないのです」
それもそうか……
「どんなもんかねー?」
「おそらくですが、レノー程度とは予測できます。あそこから技術を学んでいるわけですし」
「確かにな……だったら敵ではないか」
「ただ、陛下は権力がございますし、そういう資料や魔法書を仕入れるのは容易です。というか、殿下の部屋にも怪しげな本がありますし、油断は禁物です」
確かに俺の部屋に普通に置いてあるな。
それを読まれている可能性もある。
「お前はあそこの3人を守ることを考えろ。最悪は影に入れろ」
「かしこまりました。特にマリア様ですね」
「そうだな」
リーシャもティーナも自分でどうにかしそうだが、マリアは厳しいだろう。
「では、そのように……旦那様、そろそろ時間です」
「ああ……じゃあ、行くかね」
俺がそう言ってベッドから起き上がると、リーシャとマリアも立ち上がった。
「皆様、準備は整いましたか?」
シルヴィが聞いてきたので頷く。
リーシャ、マリア、ティーナも頷いた。
「では、私の前にお立ちください」
俺達はシルヴィに指示された通りにシルヴィの前に立つ。
「ではではー、多少、狭いと思いますが、少しの間ですので我慢してください。えーい!」
シルヴィが謎のかけ声をしながら魔法を使うと、俺達の体がシルヴィの影に沈んでいった。
影の中は本当に狭いため、、俺達4人はひしめきあっている。
「狭いです……」
「ちょっとロイド、もうちょっとそっちに行ってよ」
「無理言うな」
「今、私の尻尾を掴んだのは誰!?」
俺。
ふわふわしてたな。
『では、出発します』
シルヴィは騒いでいる俺達を無視して、部屋を出た。
そして、宿屋を出ると、城の近くにある自分の家に向かう。
「満月ね……」
リーシャが上を見上げながらつぶやいた。
「そうだな」
確かに大きくて丸い月が怪しく光っている。
「不気味ですねー」
マリアも月を見上げた。
「満月になると、狼男が現れるらしいよ」
ティーナも月を見上げると、奇妙なことを言ってくる。
「狼男? ベンじゃん」
「いや、そういうのじゃなくて、完全な狼なんだけど、二足歩行で大きいやつ。ウチの国では満月の日に子供は外を出歩いたらダメって言われてる。狼男に食べられるから」
伝承というか、子供への戒めかね?
「そういうのがあるんだな……」
「そうね。まあ、月を見たらそれを思い出しただけ。ところで、ロイド、さっきから尻尾を掴んでいるのはあなた?」
「違う」
本当に違う。
「あ、ごめんなさい」
マリアが謝った。
「微妙に変な気分になるからやめてくれる?」
「すみません。さっき殿下が掴んでいるのを見たら触りたくなって……」
「さっき掴んでいたのはあなただったのね……」
ティーナが睨んでくる。
「この前、リーシャが枕にしてたのが気になったから」
「人族ってなんでこれが気になるんだろ……」
だって俺らにはないもん。
『皆様ー、楽しまれているところ、申し訳ありませんが、あそこが私の家になります』
俺達が狭い影でひしめきあいながら話していると、シルヴィが念話で伝えてきた。
確かに前方には城が見えているし、そのすぐそばにはイーストン家の屋敷が見えている。
シルヴィはそのままその屋敷に向かって歩いていくと、門を開け、敷地に入った。
そして、正門まで来ると、ノックもせずに扉を開く。
「ただいま戻りました」
屋敷に入ると、玄関には一人の男が立って待っていた。
この屋敷の主あるイーストン公爵である。
「おかえり。殿下は?」
「下に……皆様、もう出てもいいですよ」
シルヴィが俺達を見下ろしながらそう言ってきたので俺達は順番に影から出る。
「久しいな、イーストン」
俺は影から出ると、イーストンに声をかけた。
「はっ! 殿下がご無事で何よりでございます。また、色々と苦労をかけてしまい、申し訳ありません」
イーストンが跪いて謝罪してくる。
「よい。それよりも父上のことをよく知らせてくれた。お前達の忠義は大変喜ばしい」
「いえ……私達にはどうすることもできませんでした」
そりゃ、無理だわ。
「知らせてくれただけで十分だ。俺達が何故ここに来たのかはわかっているな?」
「はい。承知しております。お手伝いしたいとは思いますが、臣下の身ではどうしようありません。シルヴィを使ってください」
シルヴィは既に死んでおり、イーストン家の人間ではない。
「わかった。お前達はその後のことを考えろ。そして、イアンを助けよ」
「はっ! すべてはエーデルタルトのために!」
「よろしい。では、案内しろ」
「はっ! こちらにです」
イーストンは立ち上がると、俺達に背を向け、歩いていった。
そして、正面にある階段のそばにある部屋の扉を開ける。
「こちらになります」
イーストンがそう言って部屋に入っていったので俺達も続いて部屋に入っていった。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
12/9に発売する本作のコミカライズ2巻ですが、書影が公開されました。
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