第285話 女性関係はいばらの道
俺とシルヴィはイアンとの話を終えると、宿屋に戻った。
宿屋に戻ると、リーシャとマリアはすでに寝ていたので俺も風呂に入って就寝した。
そして、翌日、遅くに起きた俺達は朝食を食べ終えると、部屋のテーブルにつき、昨日の話をしていた。
「じゃあ、イアン殿下は了承したのね?」
リーシャが聞いてくる。
「ああ。あいつは既にエーデルタルト王を名乗り、父を討つように命じてきた」
「大義名分はこちらということね?」
「そういうことだ。俺達は王に命じられ、敵を討つだけ。親殺しや謀反人の汚名は受けん」
まあ、病死にするんだけどね。
「なんかすごいね……ロイドもだけど、弟さんも親を殺せるんだ……」
ティーナが微妙な顔をする。
「ティーナ、私達は生まれた時から贅沢をし、何の苦労もせずに育ったわ。これはすべて国民の血税が使われている。だからこそ、私達は心も体も国家に捧げなければならないのよ……私は国家のため、そして、ロイドの為なら親も斬れるわ」
リーシャがそう言うと、ティーナはマリアを見る。
「もちろんです。何が大事で何が重要かです。これは逆も然りで、親も国のためなら子を斬ります」
マリアも平然と答えた。
「私は貴族にはなれないわ。どんなことがあっても親もララも斬れない」
「ティーナ、それでいい。普通はそうだし、それが正しい。お前らからしたら俺達は優先順位が少しおかしいだけだ」
「ロイドは国家の為なら奥さんも斬れるの?」
「………………」
嫌なことを聞くな……
「あれ?」
俺が何も答えないと、ティーナが首を傾げる。
「さて、これで準備は整った。後は国家の大逆人を討つだけだ」
「そうね。それですべてが終わる」
「イアン陛下ばんざーい」
俺達はティーナの言葉を聞こえなかった振りをした。
「今なお、玉座に座る大逆人は王城にいます。いかが致しますか?」
シルヴィが聞いてくる。
「もちろん乗り込む。俺とシルヴィだけでいいんだが……」
俺がそう答えながらチラッとリーシャを見ると、リーシャが剣を抜き、掲げた。
「まあ、リーシャもかね?」
「よろしいかと思います。マリア様はいかがなされますか?」
「え? じゃあ、行きます」
仲間はずれは嫌らしい。
「では、この5人で参りましょうか」
「まあ、いいけど、当然のように私も頭数に入っているんだね……」
ティーナが俺達を見渡しながらつぶやく。
「当然でしょ」
「活躍の場がようやく来たぞ。良かったな」
活躍したら褒美でもやるかね。
「確かにお茶汲みよりかは良いけどね……でもさー、どうやってお城に行くの? ロイドは王子様だし、正面から堂々と行く?」
「多分、堂々と行ったら何かと理由をつけて捕まるな。捕まらなくても父上には会えないだろう。やはり忍び込むしかない」
投獄はないと思うが、どこかに幽閉されて暗殺かね?
「城って厳重じゃないの?」
「ものすごく厳重だな。ジャックが忍び込めないレベルだし」
「ダメじゃん」
「ダメじゃない。実を言うと、城に忍び込むのはどこに忍び込むより楽だったりする」
カークランドやスミュールの家に忍び込むよりも遥かに楽。
「え? なんで? 厳重じゃないの?」
「城というのはいざという時のために抜け道があるんだよ。敵に包囲された時とかに脱出するためだ」
「へー……なるほどー。つまり、そこから逆に忍び込むってことね。それ、どこ?」
「こいつの家」
俺はニコニコ顔のシルヴィを指差す。
「シルヴィさんの家? えーっと、イーストン公爵家だっけ?」
「そうだ。イーストンの家は城の裏にあるんだが、イーストンの家の地下と城の謁見の間の横にある秘密の部屋が繋がっている」
もちろん鍵はかかっており、城側からしか開けられないが、シルヴィはどうにかできるだろう。
何せ、すでに何回も忍び込んでいるようだし。
「そうなんだ……ちなみに、それって私が知っていいやつ?」
「ダメ。これを知っているのは国王、王妃、王太子の3人だけ。イアンですら知らない」
まあ、リーシャとマリアはジャスのコンラートが抜け出した時に教えたから知っているが……
あ、多分、ラウラも聞いていただろうから知ってるわ。
あいつには悪いが、やっぱり捕まえるしかないな。
「へー……あれ? 私、知ったらマズいことを知った?」
「そうだな」
「ますます辞められなくなった……」
もう無理だよ。
一生、リーシャに仕えな。
「悪いようにはせんから安心しろ。何だったらララも巻き込んでもいいぞ」
「それは拒否する」
嫌らしい。
「まあ、なるようになる。ちゃんと高い給金は払ってやるから安心しろ」
「まあ、それでいいけどさ……でも、そのイーストン家に抜け道が繋がっているってすごいね。別に他意はないんだけど、イーストン家が裏切ったらどうすんの?」
「裏切らない相手がイーストンだったの。それほど王家からの信頼が厚いと思ってくれ」
俺がそう言うと、シルヴィがドヤ顔で胸を張る。
「この人?」
「こいつ」
「すごく胡散臭いんだけど」
まあな。
「失礼です。後輩メイドのくせに」
後輩メイドって何だよ。
胡散臭いのはそういうところだわ。
「あ、ごめん。でもまあ、これまで問題がなかったのならいいのか……」
「問題は何回かあったぞ」
結構あったと聞いている。
「そうなの?」
「俺の爺さんは婚約者がいるのにその抜け道を使って、コソコソと女と会ってた」
「えー……」
ティーナが引いた。
「そのコソコソ会ってた女が俺の婆さんだな。つまり、イーストンの令嬢」
「あ、結婚したんだ……だったら良いんじゃないの? 知らないけど」
「その婚約者が私のお祖母様だけどね」
リーシャがポツリとつぶやく。
「うわー……最悪じゃん。あー……だからここの仲が悪いんだ」
ティーナがリーシャとシルヴィを見比べた。
なお、リーシャは黙々とお茶を飲み、シルヴィはニコニコと笑っているだけだ。
共に仲が悪いことを否定しない。
まあ、実際、お互いに死ねばいいのにと思っているくらいには仲が悪い。
「たまーにそういうことがあった。身内の恥だが、これを否定すると、爺さん婆さんを否定することになるから非常にデリケートなのだ」
だって、そうじゃなかったら俺らは生まれてないし。
「そうやって肯定するから王族は女好きって言われるのよね……」
「………………」
ティーナ、助け舟を出せ!
「ロ、ロイドはそんなことない……うーん」
ティーナは助け舟を出そうとしたが、リーシャ、マリア、シルヴィを見渡して悩み出した。
なお、ティーナに見られている3人は何もしゃべらない。
「そんなことないんだけどなー」
「そうですね。昨日、イアン殿下と仲良く愚痴られてましたものね」
シルヴィが余計なことを言う。
「誰の愚痴かしら?」
リーシャがカップをテーブルに置いて、俺を見てきた。
「親かな?」
「リーシャ様、演習とはいえ、旦那様とイアン殿下をボコボコにするのは感心しませんよ」
チクるな、バカ。
「ちゃんと手を抜いたけどね」
傷付く……
「あ、あの! シルヴィさんの家から忍び込むのはわかったけど、いつ行くの?」
空気を読んだティーナが話を遮って聞いてくる。
「旦那様、いかがなされますか? 早い方が良いとは思いますが……」
「そうだな……とはいえ、昼間はないな。今夜でいいだろう」
昼間は文官たちを始め、人が多い。
夜中にこっそりと忍び込む方がいいだろう。
「かしこまりました。では、夜に私の家に参りましょう」
「ああ。それまでは待機な。身体を休めるなり、英気を養うなり勝手にしてくれ」
「では、そのように……」
空気が読めるティーナのおかげで俺はそんなに責められることもなかった。
だが、本当に空気が読める奴は女性関係の話題になると、途端に一言もしゃべらなくなるマリアだろう。
とっても可愛い奴だと思う。
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします!




