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廃嫡王子の華麗なる逃亡劇 ~手段を選ばない最強クズ魔術師は自堕落に生きたい~  作者: 出雲大吉
最終章

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第283話 イアンの部屋に侵入


 影の中でシルヴィが着替え終えると、俺は影を出た。


「…………ちゃっかり見てから出る旦那様であった」


 シルヴィが小声でそう言いながら自らの影から出てくる。


「…………うっさい。さっさと防音の魔法を使え」


 騒いでたら昨日のスミュールの屋敷みたいに誰か来るだろ。


「…………旦那様がお願いします。帰りのことを考えますと、魔力を温存しておきたいです」


 それもそうだな……


「…………ブルーム」


 俺は防音の魔法を使い、部屋の音が外に漏れないようにする。


「ありがとうございます。では、旦那様はそこのテーブルでお待ちください。私がイアン殿下を起こします」


 シルヴィにそう言われたので備え付けのテーブルに向かうと、椅子に座り、イアンが寝ているベッドの方を見る。


「殿下、殿下。起きてください」


 ベッドではシルヴィが俺に背を向け、イアンを起こしていた。


「殿下ー、朝ですよー」


 朝じゃねーよ。


「水でもぶっかけろ」

「そうはいきませんよ……あ、殿下、おはようございます」


 どうやらイアンが起きたらしい。


「んー? もう朝か?」


 イアンの眠そうな声が聞こえる。


「さようでございます。早速ですが、お客様がお見えです」

「客…………貴様、何者だ?」


 おや、シルヴィに気付いたぞ。


「ただの侍女でございます」

「貴様の顔を知らんし、我が家にそんな足を出した者はおらん」


 そりゃそうだ。


「申し訳ございません。私の主の趣味でございます。申し遅れました。私はシルヴィ・イーストンでございます」


 シルヴィが名乗った。

 だが、俺の趣味ではない。


「イーストン家の者か……このような朝から何用だ?」


 朝じゃない。


「お客様をお連れしました。というか、私の主でございます」

「何? それはどういう意味だ?」


 まだやってんの?


「イアン、いい加減に寝ぼけを治せ。俺の姿が見えんか?」

「え? 兄上!? 兄上じゃないですか!? 何をしておられるのです!?」


 ようやく気付いたか。


「どうでもいいからさっさと布団から出てこい。それともメイドに起こしてもらわないと起きられないのか?」

「私はそのような子供ではありません」


 イアンがそう言いながらベッドから降りる。


「リーシャ様批判ですねー。あと、大人の男性の方がメイドに起こしてもらうのを喜びますよー」

「お前はちょっと黙ってろ」

「はーい」


 シルヴィが返事をすると、俺のもとに来る。


「兄上、一体どうしたのです。こんな朝…………夜じゃん」


 イアンが窓を見て、ようやく今が夜なことに気付く。


「悪いな。表立って訪ねられないのだ。いいから来い。大事な話がある」

「はい」


 イアンはテーブルまで来ると、シルヴィが椅子を引き、座った。


「久しぶりだな。元気にしてたか?」

「お久しぶりです。元気だったんですけど、誰かさんが弱くて廃嫡になったせいで大変ですよ」


 ちょっと俺より剣術に優れているからって調子に乗ってるな。


「多分、俺が勝ってもいちゃもんをつけて廃嫡だろうよ」

「でしょうね」


 イアンが何の迷いもなく、頷く。


「事情は?」

「カークランドから文が届きました」

「信じたか?」

「覚えがありすぎますので。そもそも私は子供の頃から陛下にお前が王になることは絶対にないと言われておりました」


 最初にそう教えられて育ったわけか。


「よく納得したな」

「そういうものだと思っておりましたから。私だけでなく、重臣共もそのように振る舞います。教育に関してもそうです。同じような成績でも兄上には皆、厳しかったですからね。私は楽なものでした」


 口うるせー奴らだと思っていたが、俺だけか……


「王になろうとは?」

「思ったこともありませんよ。なるとしたら兄上に何かあった時です。私は兄上を補佐し、エーデルタルトを確固たる強国にするのが使命でした」


 うんうん。

 相変わらず、素直な弟だ。


「不満はなしか?」

「正直に言えば、リーシャは欲しかったですね。最初だけですけど」


 さすがは絶世のリーシャ。


「ほう? 最初だけとは?」

「剣術の演習でボコボコにされ、鼻で笑われた時に殺意に変わりました」


 わかる、わかる。

 さすがは下水のリーシャ。


「そうか……あと、悪いな、マリアももらった」


 イアンはマリアに妾にならないかと誘っている。


「らしいですね。よくもまあ、側室にするものです」

「お前はしようとは思わなかったのか?」

「男爵家の者を側室に入れる度胸はありませんね」


 情けない奴だ。


「お前、正室はどうなっているんだ?」

「同級生のクリスティンに申し込む予定でした」


 …………誰だ?


「…………旦那様、南部貴族のイングルビー伯爵令嬢でございます」


 俺が何とか思い出そうとしていると、シルヴィが教えてくれる。


「なるほど。良いところではないか」


 知らんけど。


「立ち消えましたけどね」

「何故だ?」

「私が王位に就く場合は相手が伯爵では足りません」


 足りないかもなー……


「どこから取る?」

「まだ決めておりません。それどころではないですからね」


 この状況ではそうか……


「今、思うと、お前とこういう話をするのは初めてだな」

「兄上のせいでしょう。私のことに興味がなさすぎです」


 まあな。


「年が近いと、仲が悪くなるもんだろう」

「普通はそうでしょうね。ましてや、後継者争いもあるんですから。ですが、兄上は魔法やリーシャに傾倒し、まったく私を見ておりません。それどころか父上のことすら興味がないでしょう?」

「悪いな。実を言うとその通りだ。いや、その通りだった…………少し反省している」

「…………何かあったんですか?」


 色々あったよ……


「旅に出て、それはそれは苦労したんだ。そこで人として成長したんだな」


 うんうん。


「殿下はリーシャ様の誕生日すら覚えていないレベルで他人に興味を持たれていなかったのです。現在は反省中です」


 シルヴィがばらす。


「えー……」


 イアンがめちゃくちゃ引いていた。


いつもお読み頂き、ありがとうございます。

私が連載している別作品である『最強陰陽師とAIある式神の異世界無双』のコミカライズが連載開始となりました。

ぜひとも読んでいただければと思います(↓にリンク)


本作共々、よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
意外と兄弟仲悪くないのね
さすが下水。 仮にも王族をボコって鼻で笑うのはヤバすぎる
イアンと協力して、本人が王になりそう。結局
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