第278話 スミュールの屋敷
俺とリーシャがシルヴィの影に入ると、シルヴィが部屋を出た。
そして、宿屋を出ると、暗くなった町を歩いていく。
夜ということもあるが、ここは貴族街なため、辺りに外を歩く人影はない。
「このまま歩いて大丈夫か?」
俺はシルヴィを見上げながら聞く。
『スミュールを監視している者は一人で屋敷の表を見ています。ですので、裏から侵入すれば問題ありません』
シルヴィが俺の問いに念話で答えた。
「ならば、2階にあるリーシャの部屋から侵入しろ」
『旦那様がよく侵入していた方法ですね』
もう無理だけどな。
飛べないもん。
シルヴィはクスリと笑うとそのまま歩いていく。
すると、前方に何度も見たスミュールの屋敷が見えてきた。
シルヴィは屋敷の裏に回ると、軽く塀を飛び越えて、敷地に入る。
そして、リーシャの部屋の窓を見上げた。
『旦那様、飛びますけど、よろしいですか?』
シルヴィは俺の言いつけをちゃんと守って聞いてくる。
「いいぞ」
俺が許可をした瞬間、シルヴィがノーモーションで飛び上がった。
そして、窓の枠に手をかけ、ぶら下がる。
「鍵がかかってるんじゃない?」
リーシャが窓を見ながらシルヴィに聞く。
『当然、かかってますね。ですが、私には何の意味もありません』
シルヴィがそう言うと、窓が開いた。
「本当にどこでも侵入できるわね。私の部屋の窓の鍵は厳重だってのに」
「そうだな」
なお、俺が行く時は開いている。
当たり前か……
『ふふふ、すごいでしょー』
シルヴィは自慢げに笑うと、部屋に入る。
部屋の中は暗くてわかりづらいが、前に来たリーシャの部屋のままだった。
「懐かしいわね」
「本当にな」
俺が廃嫡になる前日もここに来た。
あれから色々あったが、そのすべてが懐かしい。
『旦那様、リーシャ様、もう出てきても大丈夫ですよ』
シルヴィがそう言ってきたので俺とリーシャは影から出る。
「あー、私のベッドね」
リーシャは懐かしさから自分の天蓋付きのベッドに行き、横になった。
「寝るなよ」
「寝ないわよ…………しかし、邪魔ね、あなた」
リーシャがシルヴィを睨む。
「それがここまで連れてきた者への態度ですか? さすがは年中発情女ですね」
「男に媚びを売るしか能のない変態が何を言ってるの?」
「カチーン。偉そうな顔して夜は旦那様に媚び媚びなくせに」
シルヴィがそう言うと、リーシャが起き上がり、剣を抜いた。
すると、シルヴィもどこからともなく、ナイフを取り出す。
「私に勝てると思っているの?」
「その言葉をそっくりそのまま返しましょう。私の幻術の前にはただの猪です」
2人は一触即発だ。
「どうでもいいけど、腹が減ったし、さっさと話して帰ろうぜ。リーシャ、スミュールのところへ案内しろ」
「…………ロイド」
なんだよ?
「…………旦那様は本当にもう少し、人の心に興味を持ちましょう」
また言われたし……
「いいから行くぞ! スミュールが寝てたらどうするんだ!?」
「…………起きていますので安心してください、殿下」
俺達が話していると、ふいに扉が開き、声が聞こえてくる。
扉のところにいるのはおっさんだった。
「あ、お父様」
そこいる男はリーシャの父であるスミュール公爵だった。
「スミュール……よく俺達が侵入したことに気付いたな」
「殿下、お言葉ですが、声が大きすぎます。すぐに侍女が報告に来ましたよ」
リーシャとシルヴィのケンカのせいじゃん。
「お父様、ただいま戻りました」
リーシャがスミュールに言う。
「おかえり…………剣をしまいなさい。そこのメイドもナイフを収めよ。ここをどこだと思っている?」
スミュールがそう言うと、リーシャとシルヴィはそれぞれ武器をしまった。
「スミュール、手紙は受け取ったか?」
「フランドル殿から確かに受け取っております。フランドル家のマリア嬢を側室に迎えたようですね」
リーシャはそこまで書いたか……
「そうだな。その辺のことや今までのこと、そして、これからのことを話したいが、いいか?」
「もちろんです。正直に言えば、今か今かと待っていましたよ」
「そうだな。場所を移すか?」
「応接室に来ていただきたい。妻もそこで待っています」
えー……
あの鉄仮面もいるのー?
「では、そこに移動しよう」
「はい。こちらです」
俺達は応接室に移動する事にし、リーシャの部屋を出た。
そして、近くの階段を降りると、玄関付近にある部屋に入る。
部屋に入ると、とても40歳越えには見えないリーシャの母親がソファーに腰かけており、俺達を見ると、立ち上がった。
「お久しぶりです、殿下。手紙を読みましたので元気なことは把握しておりましたが、無事な姿を見れて、安堵しております」
スミュール夫人はまったく表情を変えずに俺に挨拶をする。
「心配りに感謝する。また、大切なご息女を巻き込んでしまったことを謝罪する」
俺は夫人のもとに行くと、頭を下げて謝罪した。
「そのようなものは不要です。リーシャはすでに私達のもとを離れております」
あ、結婚したことも言ったのか。
「そうか。その辺のことを話そう。スミュール、いいか?」
「はい。どうぞ、おかけください」
俺とリーシャはソファーに座ると、スミュールと夫人も座った。
そして、シルヴィは俺の後ろに控える。
「まず、報告しないといけないことがある。リーシャの手紙にも書いてあったかもしれないが、俺とリーシャはウォルターの水の神殿で正式に挙式した。事後報告になったことと式に招かなったことを謝罪する」
「私としては問題ありません。むしろ、我が家の不出来な娘をもらって頂いたことに感謝します」
スミュールが頭を下げた。
「ウチに不出来な娘はいないわね」
リーシャがはっきりと言う。
「そうだな…………スミュール、めんどくさいが、訂正しろ。俺の妻だ」
「…………本当に申し訳ございません。殿下にふさわしい子だと思っております」
それは本音だな?
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