第275話 懐かしき王都
テナの町を出発すると、いよいよ王都へと向かう。
テナを出て3日が経っているが、テナと王都を繋ぐ街道は石造りの舗装がされているうえに、あちらこちらに宿場町があるため、非常に楽に進んでいた。
「やっぱりこういう道を進むのはいいな」
俺はマリアと共に周りの風景を眺めている。
「そうですねー。やはり王都がいいですよ」
俺も王都がいいわ。
都会だし、それに10年以上も住んだ町の方がいいに決まっている。
「それにしても全然揺れなくてすごいね」
馬車の御者をシルヴィと代わったティーナが感心する。
「エーデルタルトの街道はちゃんと舗装されているんだよ」
「でも、グレースからテナは普通の土だったよ?」
こら!
「言い直そう。主要な町だけな」
「あ、グレースは主要じゃないんだ」
男爵の領地なんだから当たり前だろ。
「お前、ナチュラルに人を傷つけてるぞ」
無知の恐ろしさ。
マリアに謝れ。
「あ、ごめん」
ティーナがマリアに謝る。
「いえ、いいんですよ。田舎道を舗装する意味なんてありませんからねー」
「う、うん」
ティーナが気まずそうだ。
「旦那様ー、そろそろ王都に着きますんでリーシャ様を起こしてください」
周りはすでに人通りが多くなっており、見たことある風景に変わりつつあった。
確かにそろそろ王都だろう。
「わかった。ティーナ、起こせ」
俺はティーナに命じる。
「えー……旦那さんが起こした方がリーシャ様も喜ぶと思うな」
ティーナが嫌がった。
理由は当然、中々起きないから。
「めんどくせーな。こいつ、寝すぎなんだよ……」
馬車に乗っている間は起きている時間の方が少ないくらいだ。
俺はリーシャのもとに近づくと、身体を揺する。
「リーシャ、起きろ。もうすぐで着くんだと」
「……着いたら起こして」
リーシャが目を閉じたまま答えた。
「準備しろ」
「ハァ……そんなもんはないわよ」
リーシャが嫌々、上体を起こす。
「お前、よくそんなに寝られるな」
素直に感心するわ。
「やることがないんだもん。平和は良いことだけど、たまには盗賊が出てきて欲しいものね。もしくは、町を襲うモンスターの群れ」
絶対に嫌だわ。
「そんなに戦いたいか?」
「最近、まったく斬ってないもの。この剣も寂しがってる」
いや、それ、使うことがほぼないと評判の王家の剣……
そんな魔剣みたいなことは言わない。
……言わないよね?
「旦那様ー、王都が見えてきましたよー 」
御者台にいるシルヴィがそう言うので馬車の前の方に行き、顔を出した。
すると、確かに懐かしき王都が見えている。
「検問は?」
「一般用は人が多そうなんで貴族用の入口に回ります」
王都には一般用の入口と商人用の入口、そして、貴族用の入口がある。
貴族用の入口から入れば、貴族街にすぐに行けるのだ。
もちろん、その分、警備は厳重である。
「それでいい。カークランドの通行証があるからな」
侯爵の名前が入った通行証があれば余裕だろう。
「渡してもらえます?」
「はいよ」
俺はカバンから通行証を取り出すと、シルヴィに渡す。
「一応、幻術で誤魔化しますが、静かにしておいてください」
「わかった」
俺は返事をすると、馬車に引っ込み、待つことにした。
馬車がそのまま進んでいき、しばらく待つと、馬車が止まった。
「失礼。ただいま検問を実施しておりますのでご協力を願います」
さすがに貴族用の入口の兵士は丁寧である。
「急ぐように。こちらはカークランド侯爵閣下の使いです」
「はっ!」
シルヴィがカークランドの名前を出すと、兵士の声が上ずった。
カークランドは軍務のお偉いさんだからこいつらの直属の上官なのだ。
「使者ということですが、どちらに?」
「スミュール公爵家です。それがどういう意味かわかりますか? これ以上は聞かない方がいいですよ? はい、これが閣下自らの名前が入った通行証です」
「…………はっ! 失礼しました! どうぞ、お通りください!」
一兵士が対処できることではないわな。
その辺の貴族でも無理だ。
許可を得たので馬車が進み出すと、シルヴィが顔を出してくる。
「旦那様、無事に王都に入れました。このままスミュール家に向かいますか?」
「待て……一度、宿屋に向かえ」
「かしこまりました」
シルヴィは頷くと、顔を引っ込めた。
「私の家に行かないの?」
リーシャが聞いてくる。
「手紙は送ったが、スミュールの状況がわからん。それに王都を探る必要がある。シルヴィに調べさせてからにしよう」
「それもそうね。ここまで来たら焦ることもないわ」
テールの方はジャック達とカークランドがどうにかしてくれるだろう。
あとは確実にこっちの事を進めないといけない。
「旦那様ー、貴族街の宿屋でいいですかー?」
シルヴィが聞いてくる。
「もちろん、それでいい」
せっかく貴族街に来たのに庶民用に行くこともない。
「はーい。では、向かいまーす」
シルヴィが返事をし、そのまま進んでいくと、馬車が止まった。
「少々、お待ちをー」
シルヴィは御者台から降りると、宿屋に入っていく。
すると、すぐに戻ってきた。
「空いてましたので3人部屋と2人部屋を確保しました。というか、ガラガラだそうです」
この状況で王都に来る貴族が少ないのかもしれないな。
「わかった。じゃあ、少し休もう」
「旦那様達はお休みください。私は馬車を後ろに回した後にそのまま調査に向かいます」
本当に働き者だわ。
「頼む」
「はーい、お任せをー」
俺達は馬車を降りると、宿屋に入り、部屋で休むことにした。
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