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廃嫡王子の華麗なる逃亡劇 ~手段を選ばない最強クズ魔術師は自堕落に生きたい~  作者: 出雲大吉
最終章

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273/285

第273話 カークランドとの密約

日曜に更新している本作ですが、来週からは土曜に変更します。


「黒魔術……黒魔術ねー…………」


 まあ、確かに俺もやってたな。


「どうなんです? まさか本当に?」

「カークランド、お前はエーデルタルトに忠誠を誓っているか?」

「その質問は私への……長年、エーデルタルトに仕えてきた当家への侮辱に当たりますぞ?」


 カークランドの言葉に怒気がはらむ。

 問うことはもちろん、疑うことすら侮辱。

 さすがは命を懸けて戦う武家の貴族だわ。


「そうだな。お前は忠臣であり、カークランド家は幾度となく外敵を排除してきたエーデルタルトが誇る侯爵家だ」


 これは本当にそう思っている。


「私もそう自負しております」


 カークランドの目には一点の曇りもない。

 プライドの塊だ。


「別にお前を疑っているわけではない」

「では、何だと?」

「お前が言うように黒魔術を使っている者は確かにいる」

「…………殿下ですか?」


 うん。


「いや、陛下だ。シルヴィ」


 俺がシルヴィの名を呼ぶと、シルヴィがカークランドのもとに歩いていく。

 そして、どこからともなく書類を取り出すと、カークランドに渡した。


「………………」


 カークランドが黒魔術の顧客リストを黙って読み込んでいく。


「殿下、これは真でしょうか?」


 カークランドが書類を見たまま聞いてきた。


「お前が予想した通り、俺はウォルターにいた。そこで俺の伯父であるウォルター王が呪いをもらっていたのだ。しかも、俺にまで刺客が来た。調査の結果、犯人は教国の強硬派とかいう派閥なことが判明したため、討ちにいったのだ。そこでそれを見つけた」

「このリストが偽物の可能性は?」


 普通はそれを疑う。

 だからシルヴィは俺を教国まで連れていったのだ。


「経緯を話すと、先に陛下が怪しいと思ったのは王家を見張っていたそこのシルヴィだ。そして、怪しいと思い、教国を調査し、陛下が黒ということが判明した」

「…………イーストンか」


 カークランドがシルヴィを見上げる。

 さすがにこのクラスの貴族になると、イーストンが暗部なことを知っているらしい。


「陛下が俺を廃嫡した理由は俺が魔術師だからだろう。城で黒魔術なんかをやっていれば、魔術師である俺にはすぐにわかる」

「…………殿下はこれがテール侵攻を決めた理由とお考えか?」

「お前もそう思っているだろう。この状況でテールを攻める理由が他にあるのならば教えてくれ」

「他にないでしょうな……」


 だよな。


「カークランド、お前はどうするべきだと思う?」

「臣下の私に判断がつくことではありません」

「その通りだ。これを調べたイーストンも同じ結論に至った」


 いくら正義がこいつらにあろうと、陛下に逆らうのは反逆だ。


「…………殿下はどのようなお考えですかな?」


 わかっているだろうに。


「討つ」

「聞かなかったことにしたいですな……」


 お前が聞いたんだ。


「それでいいぞ。お前に兵を出せと言っているわけではない」

「それはありがたい。拒否しますがね」


 でしょうね。


「カークランド、テールとの開戦はない」

「殿下が陛下を討つからですか?」

「そういうことだ」

「ですが、すでにテールは動き出しております」


 さすがに把握しているわな。


「わかっている。今、俺の配下の者がテールで妨害工作を始めている。それまでに攻め入る準備ではなく、防衛戦の準備を整えろ。今はまだ攻め入る時ではない」

「それは承知しています。テールは大国で強いですから」


 その辺りは俺よりこいつの方が詳しいだろう。


「いずれは滅ぼす」

「はい。テールは大国ゆえに接している国が多いです。そして、それらと仲も悪い。いずれは戦線が拡大し、疲弊するかと思います」


 開戦はその時だ。

 俺達がやらなければならないのはそれまでに国力を大きくすること。


「よろしい。では、そのように動け」

「そうしたいですが、そうなるかは…………」


 こいつの言いたいことはわかっている。


「安心しろ。陛下を討った後に次の王になるのは王太子であるイアンだ」

「…………殿下はそれでよろしいので?」


 疑っているな……


「国が割れるよりかはよかろう。陛下は急病で亡くなり、そのまま順当にイアンが王になる。お前らは万々歳だ」

「イアン殿下の次はイアン殿下の嫡子でしょうか?」


 嫌だねー。

 優秀な臣下がいて嬉しいと思う反面、めんどくさい。


「そんなわけがないだろう。俺の子に決まっている」

「そうでしょうな。スミュールやウォルターを納得させるにはそれしかありません」


 そのくらいのことはわかっているか。


「不満か?」

「いえ……殿下の言う国が割れるのを防ぐにはその辺りが妥協点になると思われます」


 それでも不満は出るだろうが、こいつやスミュールといった頭さえ押さえておけば、どうとでもなる。


「俺はこれから王都に行き、このことをイアンと話す。お前はすぐに動け」


 俺はそう言って立ち上がろうとする。


「お待ちください、殿下」


 ほら、来た。


「何だ? まだ何かを欲するか?」


 俺はそう聞きながら浮かした腰を下ろした。


「そういうわけではありません」


 そういうわけだろ。


「この案ではお前にメリットがないか?」

「そんなことはありません」


 じゃあ、なんで止めたんだよ。


「ハァ……言え。今なら聞いてやるぞ」


 さっさと公爵になりたいって言え。


「いくつか確認したいことがあります」

「なんだ?」

「まずですが、イアン殿下が王位に就くのはわかりました。その場合、殿下はどうなさるおつもりで?」

「副王か? ミール辺境伯は嫌だし」


 田舎は嫌。


「王太子には殿下とリーシャ嬢のご子息がなられるということですね?」

「俺の正室はリーシャだからそうなるな。あ、ウォルターで結婚したぞ」


 祝儀をくれ。


「おめでとうございます。そして、大変めでたいことと存じます。ですが、もし、リーシャ嬢から男子が産まれなかった場合はどうなさるおつもりで?」

「その時はイアンの子でよい」


 こればっかりは仕方がない。

 女王はちょっとね。


「よいのですか?」

「スミュール家の名に懸けて絶対に産むそうだ。まあ、あいつがそう言うなら産みそうだな」

「リーシャ嬢は神に愛された令嬢ですからね」


 最高傑作らしい。


「そういうわけだからリーシャの子が王太子だ。もし無理ならイアンの子でいい。その場合、スミュールは何も言えんし、ウォルターは俺がどうにかしよう」


 また婚姻させればいいだろう。


「わかりました。殿下、ここで一つお約束頂きたいことがあります」

「何だ?」


 公爵になりたいに金貨1000枚。


「殿下とリーシャ嬢の嫡子の正室には私の娘を選んでいただきたい」


 …………公爵の地位よりそっちを取りにきたか。

 何年後の話になると思っているんだ?


「お前の娘って何歳だ?」

「12歳と9歳ですね」

「いや、さすがに上すぎんか? リーシャはまだ妊娠すらしておらんぞ」


 多分……


「別に用意しましょう」

「当たり前だが、その辺の女に産ませた子はダメだぞ」


 いくらカークランドの子でも母親がちゃんとした家柄でないとダメだ。

 しかも、正室が産んだ子が望ましい。


「もちろん、私の正室であるローズが産みます」

「夫人は……何歳だったっけ?」


 12歳の親だぞ。

 というか、こいつの長男は20を超えていたような……


「38歳になりましたな」


 うん、まあ……

 何も言えねー。


「お前は?」

「50歳になりました」


 結構な歳の差だな。

 いや、そんなことはどうでもいい。


「用意できるのか?」


 特にお前。


「カークランドの名に懸けて……ダメなら忘れてください。イーストン辺りが用意するでしょう」

「イーストンは用意するのか?」


 シルヴィに聞いてみる。


「しませんね。イーストンが用意するのはリーシャ様が男子を産めなかった時の保険です」


 やっぱりか……

 こいつら、またスミュールから奪う気だ。

 今度は王妃ではなく、太后だけど。


「どいつもこいつも…………いいだろう。だが、年齢が近いだけではダメなことはわかっているな?」


 シルヴィから目線を切り、カークランドを見た。


「もちろん、承知しております。王妃に相応しい者を用意しましょう」


 意地でもやる気だな。

 貴族はやると言ったら絶対にやる。


「ハァ……カークランド、エーデルタルトへの忠義を示せ。お前には期待している」

「はっ! すぐにでも南部貴族を纏めたいと思います」

「よろしい。俺は明日にでもここを発つ」

「送りましょうか?」


 カークランドが聞いてくる。


「いい。勝手に行く。王都のことはこちらでやるからお前はテールのことに集中せよ。言っておくが、敗北は許されないぞ?」

「テールごときに負ける我らではございません。もし無様に負けたらこの首を差し上げましょう」


 いらねーわ。


『シルヴィ』

『わかってまーす』


 俺は何食わぬ顔でシルヴィに合図を出すと、立ち上がった。


「頼むぞ。では、俺はこれで失礼するとしよう」


 俺がそう言うと、シルヴィが魔法を使い、俺達の姿が消える。


「魔法、か……」


 カークランドは表情を変えずにつぶやいた。


「………………」


 カークランドは座ったまま考え事をしているようでまったく動かない。


「………………」

「………………」


 おい……


「…………カークランド、空気を読みなさい。殿下が帰れないでしょうが」


 シルヴィが姿を消したまま、注意する。


「姿を消すだけだったか……私は魔法を知らないのだからそう言われても困る」


 そりゃそうだ。


「私なら殿下に恥をかかさないように黙って部屋から出ていきます。スミュールもそうするでしょう。これが公爵家と侯爵家の差ですかね?」


 すげーマウント……


「……チッ!」


 カークランドは苦々しい顔で舌打ちをすると、部屋から出ていった。


「ね? 舌打ちが多い男でしょ?」


 一体感がまるでない配下共だな。

 お前ら、仲悪すぎ。


いつもお読み頂き、ありがとうございます。

私が連載している別作品である『左遷錬金術師の辺境暮らし』のコミカライズが連載開始となりました。

ぜひとも読んでいただければと思います(↓にリンク)


本作共々、よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
性格悪すぎで笑っちゃうのよ
めちゃくちゃ王様向きなのねぇ、イアンが早死しない事を祈る。カークランドさんは鞍替えしちゃったし。
これ弟の方が王で大丈夫か? 王単独で敵をまとめて潰せるくらいの武力無いと利用されそうな腹黒さ。
感想一覧
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