第270話 シルヴィを待つ
話し合いを終えると、リーシャは風呂に入り、そのままいつもの素っ裸で寝てしまった。
俺はすっかり冷めたお茶を飲みながら他の3人の帰りを待つことにした。
しばらくすると、マリアとティーナが帰ってくる。
「ただいまでーす」
「ただいま」
2人は楽しそうに部屋に入ってきた。
「どうだった?」
俺は上機嫌な2人に聞く。
「やっぱりすごいですねー」
「本当ね。びっくりよ」
田舎者の2人だからな。
こんな発展した町を見ることは少ないだろう。
「良かったな」
「はい…………って、本当に寝てるし」
マリアが呆れて、ベッドで寝ているリーシャを見た。
「話が終わったからな……マリア、お前にも伝えておくが、俺は王位に就かない」
「…………いいんですか?」
マリアが不安そうな顔で聞いてくる。
「自分の地位より、国家を取る。俺が王位に就けば、国が割れる。今の状況でそれは非常にマズい」
「それはわかりますが……」
マリアだって、そんなことはわかっているだろう。
「イアンと話していないから決定事項ではないが、イアンが次の王でリーシャの子がその次になる」
「そのためにここに来たわけですね?」
「そういうことだ。カークランドに話し、先に周りを固める」
先にイアンに話した場合はイアンがカークランドを始めとする派閥共を説得するだろう。
だが、それでは時間がかかりすぎる。
ジャックとラウラが妨害工作をしてくれるようだが、どこまで引っ張れるかは未知数だ。
「わかりました。私は殿下に従うだけですので問題はありません。ですが、カークランド侯爵が素直に頷くとは思えません」
「わかっている。なんとかしてみせる」
俺が話すしかないが、最悪は位を上げて、公爵にでもしてやろう。
あいつの望みはそれだろうし。
「頑張ってください。殿下、お茶を飲まれますか?」
マリアがホッとし、嬉しそうな顔で聞いてきた。
「もらうわ」
もう飲んだけど、要らないとは言えないから飲むしかない。
「では、すぐに準備します」
マリアは上機嫌でお茶を淹れ始める。
「私の仕事がないなー……」
ティーナが手持ちぶさたでお茶を準備しているマリアを見ていた。
「ティーナ、座れ」
「いいの?」
「別に構わん」
俺がそう言うと、ティーナがさっきまでリーシャが座っていた椅子に座る。
「お茶を淹れるのって私の仕事かと思ってたけど、微妙に違うのよねー」
ティーナがテーブルに頬をつきながら首を傾げた。
「夫にお茶を淹れるのは妻の仕事なんですよー」
マリアがお茶を準備しながらエーデルタルトの風習を教える。
「へー……」
「そういう流行りだから気にするな」
「ふーん……マリアさん、上手だね」
ティーナがマリアの手つきを見て、褒めた。
「ありがとうございます。まあ、子供の頃からやっていますからね」
「年季が違うのか……お茶もだけど、礼儀作法が難しいんだよね」
国も種族も違うからな。
「そのうち慣れるし、慣れたら自然にできるようになりますよー」
「まあ、高い給料をもらって、しかも、それが税金って考えると頑張るしかないか」
真面目な奴だ。
「そういうのを覚えるのもいいが、運動もしろよ。リーシャの護衛でもあるんだから」
「それはやってる。というか、そっち方面で活躍したいよ……」
ぶっちゃけ、あんまりそういう方面は訪れない。
というか、訪れたらダメだ。
「どうぞー」
マリアは俺の分のお茶と共にティーナの分のお茶をテーブルに置く。
「悪いな」
「ありがとう」
「いえいえー。シルヴィさんが帰ってくるまでゆっくりしてましょう」
そうするか……
俺達はお茶を飲みながらシルヴィが戻ってくるのを待つことにした。
◆◇◆
俺達がまったりと過ごしていると、夕方になった。
それでもシルヴィは戻ってこなかったのでリーシャを起こし、先に夕食を食べることにする。
夕食を食べ終えてもシルヴィは戻ってこず、ついにはリーシャが再び、寝てしまい、ティーナも自室に戻っていった。
その後もマリアが風呂に入り、上がっても帰ってこなかったため、マリアを先に休ませ、俺も風呂に入ろうと思い、備え付けの風呂場に行く。
俺は脱衣所で服を脱ぐと、浴室に入り、身体を流した。
そして、浴槽に入り、旅の疲れを癒す。
「あー……疲れた。シルヴィの奴、おせーし」
何してんだ?
『遅れてすみません……』
急に耳元でシルヴィの声が聞こえてきた。
「んー? 戻ったのか?」
『はい』
「どこにいる?」
どこから念話をしているのかわからん。
『風呂場の外で待機しております。ごゆっくり疲れを癒してもらって構いません』
そういうわけにはいかないだろう。
俺は時間がないので浴槽から出ると、脱衣所に出る。
すると、シルヴィがタオルを持って、待っていた。
外ってそこかい。
普通に部屋かと思ったわ。
「よこせ」
「どうぞ」
俺はシルヴィからタオルを受け取ると、身体を拭いていく。
「それで? どうだった?」
「はい。まずですが、カークランドはこの町にある屋敷に滞在しております」
「それは良かった。しかし、時間がかかったな?」
もう寝る時間だ。
「カークランドの屋敷に潜入したんですが、そこで色々と調査をしていたのです。あと、盗み聞きですね」
シルヴィが得意なやつだ。
「カークランドは怪しい黒魔術でもやってたか?」
「いえいえ。あれは根っからの軍人です。絶対にそのようなことはしないでしょう。まあ、不正は色々と見つけましたけどね」
まあ、そうだろうな。
言いたくないが、貴族共は皆、多かれ少なかれ不正をしているだろう。
王族だってしている。
「それで脅して、こっちにつかせるか?」
「それは悪手です。そんなものに屈する男ではありませんし、関係が最悪になります」
それもそうだな。
「他に何か掴めたか?」
「対応に苦労しているようでしたね。あと、舌打ちがすごかったです」
シルヴィが嫌そうな顔をする。
「父上のことと派閥か?」
「そうですね。陛下の独断とどんどんと瓦解していく派閥に頭を悩ませているようでした」
「あいつも大変だな」
俺はそう言いながら身体を拭き終えたタオルをシルヴィに渡した。
すると、シルヴィはタオルを受け取り、代わりに俺の着替えを渡してきたので服を着だす。
「私が見る限り、カークランド自身も悩んでいる様子でした。話すなら今かと……」
「わかった。すぐにでもカークランドに会おう」
「それがよろしいかと思います」
風呂は帰ってからもう一回入ろう。
「ところで、シルヴィ・イーストン」
「何でございましょう、殿下」
「お前、よく人の着替えを見ながら会話をして、平静でいられるな?」
貴族令嬢のくせに。
「今さらでしょう。私はあなたをずっと見ていたのですよ?」
王にふさわしいかの見極めのためだっけ?
どこまで見ていたんだろう?
「そうか……シルヴィ、俺はお前の能力を非常に買っている。これからもよく仕えよ」
「もったいないお言葉でございます。このシルヴィ、身命を賭して殿下にお仕えいたします」
うんうん……
こいつは絶対に手元に置いておかないといけない存在だ。
優秀な能力はもちろんだが、何をどこまで知っているのかわからん。
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