第027話 かっこよさ-100
俺達は二手に分かれて仕事をすることにした。
リーシャとマリアは解体をする職員を連れて出ていったので、俺はブレッドから魔法研究をしている魔術師の家の地図をもらい、ギルドを出た。
俺はギルドを出ると、地図を見ながら歩く。
この町は人が多く、屋台なども充実しており、活気がかなりある。
だが、魔術師の家に向かって歩けば歩くほど、人が少なくなってくる。
「ここか?」
俺はぼろい石造り家を見る。
家は古く、あちこちにひびが入っていたり、欠けてたりしている。
これが金貨20枚も払う魔術師の家かね?
俺は大丈夫かなと少し心配になりながらも古臭いドアをノックする。
「誰だ?」
ドアの向こうから声が聞こえた。
「ギルドからの依頼を受けた魔術師だ。金貨20枚のやつ」
俺がそう言うと、バンッと勢いよくドアが開かれた。
「おー! やっときたか! ふむふむ……」
中から出てきたのは結構な年齢っぽいおっさんだ。
おっさんはボロボロの服を着ており、マジで汚い。
そんなおっさんがジロジロと俺を見ていた。
「なんだ?」
「ふむ。確かに魔術師じゃな。まあ、入れ」
おっさんが家に招き入れていく。
家の中はベッドとテーブル、本棚がある程度であり、床には本や書類、魔術の器材なんかが散乱していた。
「掃除しろよ」
「めんどうじゃ。そんなことに時間を使うくらいなら研究に使う。ほれ」
おっさんは机の上に汚いコップに入れた水を置く。
「水を出す礼儀はいいから身なりを整えろよ…………お前、金はあるのか?」
本当に金貨20枚も払えるのか?
「金ならいくらでもある。貴様は中々の魔力を持ってそうだし、色も付けてやる」
金はあるけど、この家でこの身なり…………ただの変人だな。
「まあいい。それで魔力供給と聞いているが、何をするんだ?」
「簡単だ。こいつに魔力を注いでくれ」
おっさんはそう言うと、床から変な丸い水晶を拾って渡してきた。
「なんだこれ?」
「これは魔晶石だ。一言で言えば、魔力を貯蓄できるマジックアイテムだな」
「そんなもんがあるのか?」
「ああ。これは私の師が開発したものでな、飛空艇なんかに常備されている」
なるほどね。
魔力切れを防げるのか……
「これ、高いだろ」
「金貨1000枚だったか? 忘れた」
たっか!
しかも、忘れとる……
「ふーん、これに魔力を込めればいいんだな?」
「そうだ。まあ、座りながらでいいからやっておいてくれ」
おっさんはそう言うと、机ではなく、地べたに座り、何かの書類を読みだした。
「お前みたいなのがいるから魔術師が変な目で見られるんだよ」
俺はそう言いながら椅子に座り、魔晶石とやらに魔力を込め始める。
「どうでもいい。人生は100年もない。時間が足らないんだ」
魔術に人生を捧げる気か?
俺も魔術は好きだが、それは無理。
「お前、優秀な魔術師なのか?」
「見ればわかるだろ。ワシより優れた魔術師は師匠以外に見たことがない。まあ、他の魔術師との交流があまりないのもあるが……」
確かにこのおっさんはかなりの魔力量を持っていることがわかる。
「ふーん、空間魔法を教えてくれないか? 報酬はそれでいいから」
「空間魔法? そんなもんは知らん。何の役にも立たんだろ」
つっかえねー。
まあ、引きこもりにはいらんか。
「魔導書とかないのか? この町に使える奴とかは?」
「ない。知らん」
ダメだこりゃ。
こいつ、優秀な魔術師かもしれんが、相当、偏っている。
「じゃあいいわ。ほれ。これでいいか?」
俺はおっさんに向かって魔晶石を放り投げる。
「――なっ! おいっ!」
おっさんは運動神経が悪いらしく、慌ててキャッチした。
「終わったぞ。金貨20枚を寄こせ」
「もう終わったのか……?」
おっさんは魔晶石を見る。
「その程度ならすぐだ」
「うーむ…………確かに。これは当たりを引いたな」
おっさんはそう言うと、床に散らばっている書類をかき分けだす。
すると、そこからまたもや魔晶石が出てきた。
「5個あったはずだから全部頼む」
そんなにあんのか……
「金貨100枚だぞ」
「うーむ、手持ちでは金貨50枚しかない」
おっさんは腕を組んで悩み始める。
「じゃあ、2個だな」
「よし! 特別に何かの魔法を教えてやろう!」
「いや、だから空間魔法だっての」
「なんでそんなもんがいるんだ? あんなポンコツ魔法」
それはお前が引きこもりだからだろ!
普通に便利な魔法だ!
俺もいらないって思ってたけど……
「俺は旅の冒険者なんだ。しかも、女連れ。荷物がいくらあっても足らん」
冒険者道具に加えて生活用品もいる。
今はまだリーシャもマリアも我慢しているが、そのうち、絶対に爆発する。
だって、あいつら、貴族だもん。
「なんじゃ……そんなことか。そういうことなら早く言え」
おっさんはそう言いながら四つん這いになると、ベッドの下に手を入れ、ガサゴソと何かを探し始めた。
そのせいでホコリが舞っている。
「掃除しろっての……」
金があるんだったら引っ越してメイドでも雇えばいいのに。
「うるさいのう……これだから所帯持ちは……おっ! あったぞ!」
おっさんは何かを見つけたようでベッドの下からカバンを取り出した。
カバンは茶色のカバンだと思うが、ホコリと変色でかなり薄く見える。
しかも、あちこちにほころびが見えていた。
「…………それは?」
「魔法のカバンじゃ」
まあ、話の流れからそうなんだろうと思うが、汚すぎないか?
「どうしたやつだ、それ?」
「ワシがこの地に引っ越した際に使ったやつだ。ワシはもうこの地から動かんからこれをやろう」
「お前、この町の出身じゃないのか?」
「ワシは王都出身じゃ。5年くらい前にここの領主にスカウトされてのう……好きな研究をしていいから来いって感じじゃ。まあ、たまにめんどくさい依頼が来るが、好きにやらしてもらってるし、もう動くのもめんどくさいからここでいい。そういうわけじゃからこれで依頼料を払おう。ほれ」
おっさんはカバンのホコリを手で払いながら説明すると、俺にカバンを渡してくる。
俺はそれを受け取るが、ちょっと嫌だ。
「きったねー」
「わがままを言うな。冒険者にはお似合いじゃ」
まあ、そうかもしれんが、リーシャとマリアは嫌な顔をするだろうな。
「これはどのくらい入るんだ?」
「もらいものだから知らん。少なくとも、この家のものは全部入ったぞ」
適当だなー。
とはいえ、この家にはベッドも本棚もあるし、容量は期待できそうだ。
俺はカバンを肩にかけてみる。
「うえー、みすぼらしいな……」
「冒険者が何を言っとるんじゃ」
そうだけどさー……
「まあ、報酬はこれと金貨20枚でいいぞ」
「金貨も取るのか……」
「金ならいくらでもあるんだろ? 俺はない」
「貴様、本当に女連れか? よくそんなんで女を連れて旅なんかするな……」
ほっとけ。
「うるさいな。いいから他の魔晶石を寄こせ。この部屋はホコリっぽいから早く終わらせたいんだよ」
「貴様も領主と同じようなことを言うな……」
こいつ、領主をこの家に招いたんか?
バカじゃね?
いや、不潔のバカだったな……
俺は残りの魔晶石に魔力を込め終えると、さっさとぼろ屋から出ることにする。
そして、依頼料の金貨20枚を受け取り、装備すると一気にみすぼらしくなる呪いのカバンを肩にかけ、ギルドに戻ることにした。
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