第261話 人が多い……
俺がなんとかマリアを慰めて起こすと、部屋にシルヴィ、ティーナ、ジャック、ラウラの4人が入ってくる。
「おはよう。先に言っておくけど、私は命令されてやったんだからね。恨むんじゃないよ」
ラウラが先んじて言い訳をした。
「こいつ、自己保身がすごいな……こんな奴なのか?」
俺はラウラの昔の仲間であるジャックに聞いてみる。
「こんな奴だ。すぐに私は悪くないって言って、誰かのせいにする」
嫌なババア……
今は若くて美人だけど。
「まあいいわ。しかし、メイドにエルフに犬、そして、怪しい男。お前ら、ひどいな……」
なんだこのメンツ……
これで外に出たのか?
怪しさがひどい。
「ちゃんと幻術で誤魔化してますよー。殿下には私達が私達に見えているでしょうが、他の人には普通の人に見えています」
言われてみれば、確かにシルヴィはカトリナではない自分自身の顔を晒していた。
「そうなのか?」
俺はマリアに確認してみる。
「はい。ジャックさんはそのままですが、女性3人は普通の町人って感じです」
へー。
「じゃあいいか。シルヴィはともかく、エルフと獣人族は目立ちすぎる」
エーデルタルトには人族しかいないのだ。
「…………じゃあ、連れてこないでよ」
ラウラがボソッと文句を言うが、リーシャに見られると、すぐに黙り、目を逸らした。
「外はどんな感じだ?」
「普通。別に何もないな」
俺が聞くと、ジャックが答える。
「旦那様、南部はほとんどがイアン殿下派閥の貴族の領地です」
もちろん知っている。
「面倒ごとが起きる前に脱出したいが、情報も欲しいんだよな……」
特にイアン派閥の情報が欲しい。
イアンと会う前に情報を仕入れておかないといけないのだ。
「俺か?」
俺の言葉を聞いたジャックが自分の顔を指差す。
「1人で大丈夫か?」
「大丈夫か、大丈夫じゃないかと言われたら余裕で大丈夫だが、時間がかかるぜ?」
そりゃそうだ。
1人では限界がある。
今は時間が惜しい時だ。
「シルヴィ、ジャックを補佐しろ」
「かしこまりー」
俺が命じると、すぐにシルヴィが頷いた。
「私達はどうする?」
リーシャが聞いてくる。
「あまり動かない方がいいから待機したいが、少なくとも、この町から出た方がいいな。ここはイアン派閥の貴族の領地だろ」
「そうね。アスカム子爵の領地よ」
アスカムか……
たいした男ではなかったと思うが、面倒なことは確かだ。
「あのー、でしたらここから西にあるウチに来ませんか?」
マリアが提案してきた。
「あー……そうか。すぐ隣がお前の実家だな」
マリアも南部貴族なのだ。
「そういえば、フランドルは隣ね」
「ですです。ウチは中立ですし、多分、父が倒れるかもしれませんが、問題ありません」
巻き込んでしまってフランドルに悪いなー……
でも、どっちみち、もう中立ではいられない立場になってしまったことを教えてやらないといけない。
「いきなり行って大丈夫か?」
「もてなしが不十分になるでしょうが、それを承知してくださるのならば」
「それは問題ない。そんな状況じゃないしな」
というか、アポなしで行く方が悪い。
「でしたらいらしてください。ウチなら安全ですし、ウチは中立が故にエーデルタルトのほとんどの領地にワインを贈っていますから情報もあるでしょう」
さすがは賄賂上等の小物貴族だ。
「じゃあ、そうしよう。ジャック、シルヴィ、俺達はフランドルの領地にいるから情報を集めたら来い」
「あいよー」
「はーい」
軽い2人だな……
密偵とか隠密ってこんな感じじゃないとなれないのかね?
「ラウラ、グローリアスは?」
「連れてきてるし、馬車もあるよ…………ねえ、その名前、やめようよ」
うるさい。
グローリアスも気に入ってるわ。
「よし、すぐに出よう。シルヴィ、偽装魔法はどうなるんだ?」
「さすがにそんなに離れれば、効果がきれます。ですので、旦那様とリーシャ様は絶対に馬車から出ないでください」
うーん、シルヴィが2人欲しいな。
でもまあ、仕方がないか……
教えてくれないだろうし。
「わかった。じゃあ行くぞ」
「そうね。ティーナ、あなたは私達についてきなさい」
「承知しました」
リーシャにだけ丁寧なティーナが頭を下げると、俺達はチェックアウトし、ぞろぞろと宿屋から出る。
そして、そのまま宿屋の裏に回り、馬車に乗りこんだ。
「旦那様、私がいなくて寂しいでしょうが、我慢してくださいね」
シルヴィがわざわざハンカチを取り出し、わざとらしく目頭を押さえる。
「ジャック、貴族の動向もだが、テールのことも調べておけ。南部はテールに面しているからな」
「あれ?」
「わかってるよ」
ジャックが頷いた。
「頼むぞ」
「あれれ?」
自己主張の強いメイドがうざい。
「ラウラ、行け」
呆けた顔をするシルヴィを完全に無視すると、荷台に乗っているラウラに命じる。
「はいよ」
ラウラが返事をすると、馬車が動き出した。
「旦那様ー、お気をつけてー」
シルヴィが目を押さえていたハンカチを振って、別れを告げてくる。
「ティーナ、絶対にあんな風になったらダメよ」
アホのシルヴィを見ていたリーシャが呆れたようにティーナに忠告した。
「ロイドには悪いけど、やろうと思っても無理です……」
なんで俺に悪いと思うんだ?
ティーナは俺があれを好きだと思っているんだろうか?
実に心外だな。
「殿下、ラウラさんが呼んでますよ」
マリアがそう言いながら俺の袖を引っ張ってきたので前を見ると、荷台のラウラが手招きをしていた。
「なんだ?」
俺は前の方に行きながらラウラに聞く。
「殿下、このままちっちゃい嬢ちゃんの実家に行くのはいいけど、このまま行っていいのかい? 町の門で引っかからない?」
あー、それがあったな。
「普通にマリアの名前を出せ。マリアが教国から戻り、実家に帰るっていう設定でいい。お前はその護衛」
「馬車の中を見られないかい?」
「男爵家とはいえ、マリアは貴族だ。何も問題ない」
この国は貴族こそが絶対なのだ。
それは男爵だろうが変わらない。
「わかった。あんたらの国だし、あんたらに任せるよ」
ラウラが頷いて前を向いたため、俺も元の位置に戻り、到着を待つことにした。
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私が連載している別作品である『35歳独身山田、異世界村に理想のセカンドハウスを作りたい』のコミカライズが連載開始となりました。
ぜひとも読んでいただければと思います(↓にリンク)
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また、来週は金曜にも更新します。




