第260話 空の旅
伯父上達に報告をした翌日は出発の準備をした。
そして、その日の夕食時に伯父上から明日には方法を教えられそうだと言われたのでこの日は早めに休むことにした。
俺達がそれぞれのベッドに入ると、隣のリーシャのベッドからすぐに寝息が聞こえてくる。
相変わらず、寝るのが早い女だ。
「殿下ー……そっちに行ってもいいですか?」
俺が呆れてリーシャを見ていると、逆隣りのマリアが聞いてきた。
「ほら、来い」
俺はシーツを上げ、マリアを誘う。
すると、マリアはすぐに自分のベッドから降り、俺のベッドにやってきた。
そして、ベッドに入ると、抱きしめてくる。
「よしよし、一緒に寝ような」
「はい!」
かわいい奴だわ。
俺がマリアの頭を撫でていると、マリアが抱きしめる力を強くしてきた。
「どうした?」
「……殿下、私は妾でも構いません。そばに置いて貰えるだけで満足です」
…………マリアも俺が王位を継げばどうなるかわかったか。
「お前は妾にしない。側室のままだ。2号さんだろ」
「ですが……」
「お前は何も考えなくていい。ただ俺のそばにいろ。お前は側室のままだし、お前の子も俺の子であり、ロンズデールの子だ」
まだいないけどな。
「殿下……愛してます」
「ああ、俺もだ。ずっと一緒にいような」
マリアを妾に落とすなんてとんでもないわ。
「はい……」
俺達は抱き合いながら眠りについた。
◆◇◆
俺は夢を見ている気がする。
何故、そう思うかは明白である。
飛空艇に乗っているからだ。
久しぶりだなー……
最近はほとんど見ていなかった夢だ。
うーん、マリアと一緒になってからは一度も見ていなかったのだが……
シルヴィのアクロバティックなジャンプのせいだろうか?
それとも、飛空艇を思い出したからか?
よくわからないが、夢を見ている。
だが、変だ……
一向に飛空艇が落ちる気配がない。
この夢はすぐに落ちるはずなのに……
俺が変だなーと思っていると、すぐそばにマリアが現れ、抱きついてきた。
マリアは震えながら前方を見ている。
俺はなんだろうと思い、前を向くと、そこには帆にドクロマークが描かれた飛空艇が飛んでいた。
しかも、その甲板の先にいるのはいかにも賊って感じの片目に眼帯をした金髪の女だ。
リーシャじゃん……
あいつは何をしているんだ?
リーシャは剣を抜くと、笑う。
そして、飛空艇ごと俺達に突っ込んできた。
◆◇◆
「――ん?」
俺は目を開ける。
すると、リーシャが長い金髪を俺の顔に垂らしながら顔を覗き込んでいた。
「リーシャか?」
「そうよ」
「美人だな」
「そうよ」
そうよって言うかね?
まあいいや。
いや、待て。
「…………お前、なんで起きている?」
リーシャが先に起きているなんてありえない。
「たまにはいいじゃない。それよりもマリアを起こしてちょうだい」
リーシャがそう言って、俺から離れた。
「………………」
リーシャが離れ、俺の視界が開かれると、強烈な違和感を覚える。
「おい……ここはどこだ?」
天井が違う……
俺が寝ていた自室の天井は白かった。
だが、リーシャが離れたことで見えている天井はどう見ても木製の茶色だ。
「ごめんなさい。キスしてあげましょうか?」
「――っ!」
俺は慌てて、上半身を起こし、周りを見渡す。
「……えー、なんですかぁー?」
俺が起きたことでマリアも起きたらしく、目をこすりながら上半身を起こした。
「マリア、周囲を見ろ」
「んー? あ、リーシャ様が起きてる。珍しいこともあるもんですねー…………って、どこ、ここ!?」
ここは木製の部屋であり、ベッドは俺達が寝ている分しかなかった。
そして、何より、俺の部屋とは比べ物にならないくらいに狭い。
「……おい、リーシャ、ここはどこだ?」
俺は寝巻でもなければ、ドレスでもないいつもの冒険服を着ているリーシャを睨む。
「ここ? ここは宿屋」
「どこの?」
「エーデルタルトのアリアンよ」
アリアン……
エーデルタルトの南部の都市だ……
そして、そこには飛空艇乗り場がある。
「え? え? どういうこと?」
マリアが完全に混乱し、パニックになっている。
「こいつ、俺達が眠っている間に俺達を飛空艇に乗せて連れてきたんだ」
「はいぃ!? あの案は却下だったでしょ!?」
強行しやがった。
あ、それであんな変な夢を見たんだ。
「お前、最低だな」
「私じゃないわよ。はい、これ」
リーシャが紙を渡してくる。
その紙を見てみると、ただ【わがまま言うな、バカ】とだけ書いてあった。
「伯父上か……」
「そうね。ウォルター王の案」
数日待てというのはこのためか……
「チッ! どうやった? 説明しろ」
「あなた達が寝た後にラウラを呼んで睡眠魔法をかけてもらったわ。大変だったわー」
俺達が寝た後?
おい、ちょっと待て……
「……何が大変だった?」
「眠いのに中々、寝ようとしないあなた達が寝るのを待ってたのよ。それからラウラを呼んで、服を着させて、シルヴィの空間魔法で運んだの」
リーシャがそう言うと、マリアが顔を赤くして布団を被った。
「後日にしろよ」
状況を考えろ!
もしくは、昼間でいいから飲み物に薬を盛れ!
「そんな時間はないわよ。あー、嫌だったわー……止めようかとも思ったけど、マリアは泣いてるし、そんな空気じゃなかったわ」
やめてやれよ……
俺はこんもりと丸まった布団の塊を撫でる。
「それで飛空艇か?」
「そうね。本当は王都近くのゲルクの町まで行きたかったけど、あまり長い時間を眠らせるわけにはいかないらしいから南部のここで降りたわ」
まあ、睡眠魔法はかけすぎると良くないらしいからな。
精神に異常をきたすと言われている。
「他の連中は?」
誰が来てるか知らんが、俺達3人ではないだろう。
少なくとも、ラウラはいる。
「買い物と調査だって。私はここであなた達を起こす役目。そのうち、戻ってくるんじゃない?」
「そうか……マリア、ほら、起きろ」
俺はふとんの塊に優しく声をかける。
「…………死にたいでーす」
可哀想に……
マリアは奥ゆかしいからどっかの見せつけて牽制する下水みたいに歪んでないんだ。
「あ、一応言っておくけど、ちゃんと私が服を着させたわよ!」
だろうな。
それにしても、なんでそんなことを嬉しそうに報告できるんだ?
何一つ慰めになっていないぞ。
マジでこいつの感性がわからんわ。
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