第259話 大事なものは?
俺は伯父上に王位を継がないことを宣言した。
「何……? 何故だ? お前が王位を継ぐべきだろう」
伯父上は当然、そう考えるだろう。
「それは内乱を呼びます。すでにエーデルタルト王の名において私は廃嫡となり、イアンが王太子となっています。これが問題なのです」
父を討っても病死で片付ける必要がある。
それなのに俺が王位に就こうとすると、イアンの派閥が黙っていない。
確実に不当とし、イアンを担ぎ上げる。
そうなると、国が2つに分かれてしまうのだ。
「確かにそうだが……」
「テールがいる以上、内乱は避けます。ましてや、すでに父は侵攻を決めているのです。これはテールも察知しているでしょうし、テールは確実に動き始めているでしょう。その状況で内乱を起こせば、テールが介入し、エーデルタルトは滅びます」
そんな状況では確実に負ける。
というか、勝てる要素がない。
「だが、それはイアン殿が王位に就いても同じことだろう。お前の派閥が黙っていない」
まあね。
特にリーシャの実家であるスミュールは絶対に納得しない。
「落としどころが必要でしょう。エーデルタルトに向かったらイアンと接触し、そこを決めます」
「どうする気だ?」
「次の王はイアン。ですが、イアンの次は私とリーシャの子が継ぎます。最悪、イアンには子を作らせません」
この辺が落としどころになるだろう。
どちらの派閥も文句は言うまい。
「ふむ……お前の子が王になるわけか……」
「それならば、ウォルターとしても問題ないでしょう」
「まあな…………」
ウォルターとしては一代ずれるだけで自分達の一族がエーデルタルトの王位を継ぐことには変わりない。
「これには私個人の思いもあります」
「なんだ?」
「私が王位を継いだ場合、私は内乱を避けるためにイアンの派閥の有力貴族から側室を何人か取る必要があります。イアン派閥が一番恐れているのは粛清ですからね。これを防ぐには政略結婚しかありません。向こうは絶対に押しつけてきますし、私の立場的にはこれを拒否できません」
側室を取れば、一族を重視するエーデルタルトでは粛清はないし、逆に反乱も防げるのだ。
俺が意固地になっても周りがそうなるように動く。
前にリーシャが自分は俺に側室を取るように勧めなければならないと言っていたが、それはこういうことなのだ。
「本当にきな臭い国家だな……」
それは仕方がない。
そうやって発展してきた国なのだ。
「だが、これには問題があります」
「リーシャか?」
そう、嫉妬深い正室…………ではない。
「いえ、マリアです。マリアは確実に側室のままではいられません。あれは男爵の家。しかも、私の派閥ですらない」
フランドルは中立だ。
そして、地位も低く、味方はいない。
つまりマリアには後ろ盾がないのだ。
「それは…………」
「側室から妾に落ちるなど、屈辱以外の何ものでもありません」
さすがに自害はしないだろうが、確実に病む。
「男爵は……さすがに無理か。正直なことを言えば、私だって身分が低すぎると思っていた。だが、お前がそれほど気にいっているだろうと思ったから何も言わなかった」
気に入っている。
苦楽を共にし、一緒にここまで旅をしてきたのだ。
マリアも嫌がるだろうが、俺もまた、マリアを妾にするつもりはない。
「マリアはかつて、イアンの妾の誘いを断っております。私はそんなマリアに側室にすると約束し、娶りました。水の神殿で誓いもしております。これを破るのは王族どころか男として恥でしょう」
「死んだ方が良いと思いますね。それに……少なくとも、リーシャ様の心は離れるでしょう」
これまでまったくしゃべっていなかったシルヴィがうんうんと頷く。
嫉妬深いリーシャはマリアを敵視しているところもあるが、それ以上に唯一無二の友人を大切に思っているのだ。
「王位をイアン殿に譲れば、それがないわけか……だが、王位だぞ? お前はそれを捨てられるのか?」
「人生において、何が大事かでしょう。私は妻と男としての誇りを取ります」
まあ、俺の子が次の王だし、権力は十分にある。
それでいて、王ではないから責務はない。
口だけ出す立場だから楽なもんだ。
「そうか……ならば、何も言うまい。だが、それをイアン殿が乗るか?」
「乗らせますし、イアンもバカではありません。それに国家が割れてどうなるかを想像できないほど愚か者でもないですし、政治を知らない者でもありません」
多分!
まあ、イアンがダメでも周りが説得するだろう。
あいつらだって、テールに侵されるのは嫌だろうし。
「ふむ……わかった。それでいつ動く?」
「すぐにでも動きたいですが、問題がありまして……」
大問題が残っているのだ。
「問題?」
「はい。エーデルタルトに行く方法です」
「…………飛空艇は?」
伯父上が呆れながら聞いてくる。
「空は嫌いです」
「国家の大事だろ。我慢して行け」
嫌!
「伯父上は飛空艇で森にスライディング着陸を経験していないからそう言うのです」
しかも、足と腕が折れたんだぞ。
「ふむ……では、良い方法があるぞ」
マジ?
「おー! さすがは伯父上! それはどんな方法です?」
「しばし待て。確認する必要がある。2、3日でわかるからその時になったら呼ぶ」
すごいな……
さすがは王様だ。
「では、お願いします。準備ができ次第、すぐに出発しますので」
「うむ。頑張れよ……ロイド、お前は私の姉の子だ。何かあればいつでも頼れ」
「ありがとうございます」
良い伯父だ。
「ロイド、気を付けなさい。あなたなら大丈夫でしょうが、黒魔術の中には得体の知れないものもあります」
伯母上が心配そうに声をかけてきた。
「はい。伯母上も黒魔術を使えるんですね」
「…………元気でやりなさい」
やっぱり禁忌とか言ってるけど、皆、使ってるな……
「ロイド、頑張れよ。あと、もし、テールが侵攻の気配を見せたら他国に要請し、攻めるふりはしてやる」
ヒラリーが俺の肩に手を置きながら言う。
「できるのか?」
「この辺りの国が思っていることは一緒だ。エーデルタルトにも勝ってほしくないし、テールにも勝ってほしくない。正直なことを言えば、今のバランスを崩されたくないんだ。お前らもテールもお互いがいなくなれば、大陸制覇を目指すからな」
目指すね。
敵がいないんだもん。
「まあ、わかった。テールが攻めるなら父が死んだ時だ。その時に攻める気配だけでも出してくれ。軍を整えるだけでいい。これを少なくとも、エイミル、ジャスに伝えろ」
あいつらは乗ってくれるだろう。
「…………旦那様、それでテールが逆上し、南部侵攻したらどうします?」
シルヴィが後ろから小声で聞いてくる。
「…………その時は政変で混乱しているフリをしながら一気に攻める。それでテールは終わりだ。俺達が大陸の覇者」
「…………それがベストですね」
少なくとも、テールの領地の北半分は取れるな。
「そういうことは私達がいないところで話せ」
それもそうだ。
「では、伯父上、方法とやらが決まったら教えてください」
「わかった」
「では、私はこれで……」
俺はシルヴィを連れて部屋を出ていくと、自室に戻り、このことを部屋で待機していた5人に伝える。
そして、出発の準備をしながら伯父上からの呼び出しを待つことにした。
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