第257話 空は嫌ー
俺の父であるエーデルタルト王はテールへの侵攻を決めたらしい。
「どういうことだ? そんな状況でテールに勝てると思っているのか?」
それで勝てるならとっくの前に勝ってるわ。
「いや、俺に言われてもな……」
まあ、そうだけど。
「クソッ! あのバカ親父、黒魔術をやりすぎて頭がおかしくなったか?」
「さあなー。当然だが、宰相を始め、重臣共は反対だ」
そりゃそうだ。
ここで賛成する奴は無能にも程がある。
そんな者はいらん。
「ロイド、状況が思ったより良くないわよ。早急にエーデルタルトに戻るべき」
「まあ待て。すぐに開戦というわけじゃないんだろう?」
俺はリーシャを諫めると、ジャックに確認する。
「そりゃな。お前らの方が詳しいと思うが、戦争は始めるのには時間がかかる」
兵の動員、作戦の決定、物資の補充……やらないといけないことはたくさんある。
ましてや、大国であるテールとの一戦となると、簡単にはいかない。
だからまだ猶予は十分にあるだろう。
「もう少し考えるか……」
主にエーデルタルトに行く方法を……
空路ではない方法を……
うーん……
「とはいえ、急いだ方が良いのは確かだぜ?」
ジャックが苦笑しながら正論を言う。
「それはわかっている」
「それと確認だが、このことをウォルターの連中に伝える気はあるか?」
「ない」
同盟国で俺の親戚とはいえ、こんなことを言えるか……
「それはマズくない?」
「そうですよ。ここまでお世話になっているというのに……」
リーシャとマリアが異を唱えてくる。
「言えと?」
「説明ぐらいはするべきでしょ」
「私もそう思います」
うーん、嫌だなー。
「まあ、後で伝えるか……」
仕方がない。
それに話さないといけないことがあるのは確かだ。
「で? どうする?」
ジャックが聞いてくる。
「エーデルタルトに行こう……問題はどうやって行くかだな」
そこが大問題だ。
「空路よ」
「空路しかないぞ」
「私もそう思うよ」
「あ、私も……」
「旦那様、他にありません」
嫌!
「なんかエーデルタルトなんかどうでも良くなってきたな……」
「私も……」
なー?
「あなた達、この怖がり共をどうにかする方法を考えてちょうだい。私は荒療治に一票」
おい、リーシャ!
「荒療治は私が試しました…………泣かれましたね」
このクソメイド……
あれはわざとか……!
「ラウラ、お前の魔法でどうにかならないか?」
ジャックがラウラに聞く。
「無理だよ。そんな治療魔法はない。催眠魔法を使った治療もあるけど、時間がかかるね」
催眠魔法……
やっぱりこいつ、黒魔術が使えるな……
「よし! お婆さん、催眠じゃなくて睡眠魔法を使いましょう」
リーシャが勝手に決定をする。
「眠らせて連れていくわけかい?」
「そういうこと」
どういうことかな?
嫌だよ。
「あのさ…………私もエーデルタルトに行くのかい? ある意味、教国よりも行きたくないんだけど」
ラウラは嫌そうだ。
まあ、そうだろう。
誰が好き好んで首を突っ込みたがるのか。
「はい? 私を裏切る気?」
リーシャが真顔でラウラを見る。
「いや、裏切るも何も…………うん、行こうかな」
ラウラはリーシャにガン見されて、ぽっきり折れた。
本当に弱い奴だ……
「ラウラが来てくれると心強いな。よし、後は方法だ」
「だーかーらー、空路しかないってば」
だからそれは嫌だって言ってんだろ!
「却下。エーデルタルト第一王子の名において、絶対に却下だ」
「マリア・ロンズデールの名において却下ですー」
うんうん。
「ハァ……じゃあ、別のを考えてみるわ。ロイド、あなたは自分の親戚に話してきなさい。今回は誤魔化しはなしね」
「さすがに無理だろうな……じゃあ、行ってくるわ。良い案を考えとけよ」
「はいはい……」
俺は立ち上がると、部屋を出る。
当然のようにシルヴィがついてくるが、無視して、ヒラリーの部屋に向かった。
「ヒラリー、ちょっといいか?」
俺はヒラリーの執務室まで来ると、ノックしながら聞く。
『勝手に入れー』
ヒラリーの許可を得たため、扉を開け、部屋に入った。
すると、ヒラリーはデスクにつき、何かの書き物をしていた。
「忙しいか?」
「別にそこまでではない。何か用か?」
ヒラリーは書き物をしながら聞いてくる。
「エーデルタルトに戻ることにした」
「そうか……まあ、そうだろうなー」
ヒラリーは特に驚きもしない。
「わかるか?」
「そりゃなー……一応、聞くが、なんでだ?」
「エーデルタルト国内の状況が良くないらしい」
「詳しく聞いてもいいか? 別に言いたくないならいいぞ。国家の大事を他所の国の者に話すこともない」
まあ、普通に考えればそうだ。
いくら親戚とはいえ、話していいことではない。
「そういうわけにもいかない。このままでは同盟の根底が揺らぐし、お前らには言っておかないといけないこともある」
「…………そうか。では、私だけでは無理だな。陛下のところに行こう。今は執務室におられる」
ヒラリーが書き物をやめ、立ち上がった。
「仕事はいいのか?」
「こんなもんは後だ。それとリネットはどうする?」
伯母上ねー……
「呼んでくれ」
まあ、世話になったし、話しておくかね……
「そうか……では、お前は先に陛下の執務室に行っておけ。私はリネットに声をかけてくる」
「頼むわ」
「マイルズはどうする?」
マイルズ……
まだ13歳だしなー。
「マイルズはいい。お前らが然るべきタイミングで話せ」
「わかった。じゃあ、リネットのもとに行ってくる」
「任せた」
俺達は部屋を出ると、ヒラリーと別れ、伯父上の執務室に向かった。
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