第254話 真実
俺が教国のレノーの部屋で見つけた書類は黒魔術の売買顧客リストだった。
そして、そこには俺の父であり、現エーデルタルト国王の名前が書いてあった。
「一応、聞くけど、これは本物?」
冷静さを取り戻したリーシャが聞いてくる。
「だと思う」
「そう……」
リーシャが俯いた。
「あ、あの、私は席を外しましょうか?」
ティーナが気まずそうな顔で聞いてくる。
「いいえ、あなたはいなさい。私の侍女になるということは色んなことを知らないといけないわ」
お付きの侍女は秘密の会合なんかにも同席するし、ある意味、夫の俺よりもリーシャの秘密を知ることにもなるのだ。
「そ、そうですか……あれ? そうなると、私は辞められない?」
「辞めてもいいわよ。前にも言ったけど、裏切者は許さないけどね」
辞められないと思うな。
特にリーシャはそういう女だ。
「あ、はい……」
ティーナも辞められないことに気付いたようだ。
「シルヴィ、あなたはこのことを知っていたわね?」
リーシャがシルヴィに確認する。
「はい。存じておりました」
シルヴィは涼しい顔で頷いた。
「一から説明しなさい」
「かしこまりました。皆様はすでに存じているでしょうが、私の家は隠密の家です。正確に言うと、国内外の不穏分子をあぶりだし、エーデルタルトの敵を処分する暗部です」
もちろん、知っている。
「続けなさい」
リーシャが続きを話すようにシルヴィを促す。
「はい。イーストン家の中でも私の役目は国内の不穏分子を探すのが仕事です。ですから私はすでに死んでおり、籍もありません」
「幻術が得意なお前はどこにでも潜入できるからだな?」
こいつは幻術はもちろんのこと、演技力にも優れ、万能だ。
「さようです。私を知っているエーデルタルトの者であろうと私は見抜けません。そして、そういう仕事をしていると、王家に怪しい影を見つけました」
「王家も調査の対象なの?」
リーシャが聞く。
「いえ、よほどのことがない限り、そういうことはありません。私は当時、王家の調査ではなく、ロイド殿下の見張りをしていたのです」
え? 俺?
「見張り? ロイドの?」
「はい。まあ、簡単に言えば、王太子であるロイド殿下が次期王にふさわしいかの見極めですね。暗君を生まないようにしていたわけです」
あ、そうなんだ……
「ふーん、ロイドはどうだったの?」
「特に問題はありませんでした。基本、魔術の研究をしているか、リーシャ様とお会いになられているか、1人で町に遊びに行く程度ですからね」
勉強もしてたぞ!
あと、1人を強調するんじゃない!
「ふーん、他にはないの?」
嫉妬深い女が浮気を疑っている。
「多少のイタズラ程度ですかね? そのくらいには目をつぶります…………まあ、黒魔術の研究をしていた時はどうしようかと思いましたけどね」
ちょっとだけだよ。
「別にたいしたことはしていないだろ」
「そうですね。私自身もあまり他人のことを言えませんし、そういうことをしていたのはアシュリー様もでしたから特に問題視しませんでした。ロイド殿下は男の子らしく、火魔法を好んでおられましたし、大丈夫だろうと…………実際に黒魔術もすぐに飽きて、やらなくなりましたからね」
あれ、つまんねーもん。
あと、噂がね……
「なるほどね。ロイドのことはわかったわ。それで王家の影とやらは?」
リーシャが話を戻した。
「陛下がコソコソと見たことがない者と会っていたのです。最初はまた愛人かと思いましたが、相手が男性の方でしたので怪しい、と」
また?
親のそういうのは聞きたくなかったわ。
「陛下の女性遍歴は聞かなかったことにしましょう。それでその男は?」
「はい。調べるとすぐに教会関係者であることがわかりました。私はこのことを父に報告し、父の命で教国に潜入しました。そして、この書類を見つけたのです」
シルヴィがテーブルの上に置いてある顧客リストを手に取る。
「そう……」
「さすがに最初は疑いました。陛下は魔法を嫌っているという印象でしたので」
俺もその認識だった。
だって、俺が魔法の研究をしていると、いつも苦言を呈してきたし。
だが……
「叔母上の話では陛下は魔法が嫌いなわけではないらしいぞ。むしろ、好きらしい。だが、自分に才能がなかった……」
この前再会した時、叔母上がそう言っていた。
「まさか、それで……?」
リーシャが驚いたような顔をしながら聞いてくる。
「わからんが、その可能性もあるということだ…………シルヴィ、その後のことを話せ」
俺はシルヴィに話の続きを促す。
「はい。私は当然、この書類のことを父に報告しました。ですが、私達ではどうすればいいのかがわからなかったのです」
「あなた達の仕事は見つけた不穏分子を陛下に報告することだものね…………その陛下が不穏分子ではねー……」
どうしようもないわな。
「私と父は話し合いをし、このことを王太子であるロイド殿下に話すことにしました。国王陛下のことですから私達には判断がつきませんし、臣下である私達には何もできません。ですから次期王であるロイド殿下に話し、指示を仰ごうと思ったのです。しかし、そうなる前に殿下が廃嫡となり、さらには放火で逃亡し、行方不明になっていました」
すまぬ……
「………………」
リーシャが素知らぬ顔で窓の外を眺め始めた。
そんなリーシャをマリアが呆れた目で見ている。
「イアンには? あいつが今の王太子だろう」
そうなっているはずだ。
「それも考えました。ですが、やはり正当な後継者はロイド殿下です。殿下の廃嫡は完全に陛下の独断ですし、実は宰相もイアン殿下の派閥も混乱している状態なんです」
陛下の独断か……
てっきりイアンの派閥に押されたからだと思っていたが……
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