第253話 最悪
ティーナがやってきて、10日余りが経とうとしていた。
その間、ティーナはシルヴィや城のメイド達から仕事を教わりながら頑張っている。
俺はというと、相変わらず、自室にこもっていた。
「ティーナ、お茶を淹れる際は音を出してはいけません」
シルヴィがお茶を淹れているティーナに注意する。
「す、すみません……ど、どうぞ」
ティーナが淹れたお茶を俺の前に置いた。
「そういう言葉もいりません。やって当然なんです。旦那様の邪魔をしてはいけません。それが仕事です」
うるせー先輩メイドだなー。
「すみません……」
「ティーナ、きついか?」
しょぼんとしているティーナに聞いてみる。
「少し難しいです。やはり育ちが悪いんですかね?」
「ティーナ、旦那様に敬語はいりません。旦那様はあなたに身近で手ごろな感じを求めているのです」
ホント、うるせー……
「お前、少し黙ってろ」
「はーい」
「ティーナ、リーシャとマリアは?」
考え事をしていたらいつの間にかいなくなっている。
「リーシャ様とマリアさんは買い物に出かけたよ」
「ふーん……」
最近、あいつらは悩んでいる俺に気を使って、あまり話しかけてこない。
「あ、旦那様、言い忘れていましたが、ジャックさんがお戻りになっていますよ。先日、酒場で見かけたという情報が入ってきています」
早く言え……
「呼べ。俺はあいつを待っていたんだ…………いや、待て。先にリーシャとマリアを呼んでこい」
ジャックの話を聞く前にまずはリーシャとマリアに話しておかないといけない。
「奥様方は買い物中ですけど……」
「大事な話だ」
「かしこまりました。では、私が行ってまいります。ティーナ、後のことは任せましたが、私の旦那様に色目を使うんじゃありませんよ」
「いいから行け!」
俺が怒鳴ると、シルヴィがウィンクをし、部屋から出ていった。
「ねえ、ロイド、あれがメイドでいいの? 他の人達から教わったやったらダメなことをものすごくしているんだけど……」
シルヴィがいなくなると、ティーナが聞いてくる。
「いいんだよ。あいつはそもそもメイドじゃなくて、リーシャと同等の家の貴族令嬢だ。あと、俺の又従姉に当たる親戚だな」
俺の婆さんの兄の孫がシルヴィだ。
「え!? なんでそんな人がメイドをしているの?」
「そこの家はエーデルタルトの暗部だ。色々と情報を仕入れるのが仕事」
メイドはほぼお遊びだ。
「そ、そうなんだ。王侯貴族ってすごいね。私、ここに来てからカルチャーショックがすごい」
「だろうな。だが、そのうち慣れるから安心しろ」
「が、頑張る」
ティーナは素直でやる気があるからいいな。
俺がそのままティーナと話しながら待っていると、シルヴィがリーシャとマリアと共に戻ってくる。
「お待たせしましたー。どうぞ、奥様」
シルヴィがリーシャとマリアを座らせた。
「お茶を飲まれます? 私が淹れましょうか? それともご自分でお淹れになられます?」
シルヴィがリーシャに聞く。
「そうね。せっかくだし、ティーナが淹れなさい。見てあげるから」
こわっ……
「あ、はい」
ご指名されたティーナは拙い手つきで2人分のお茶を用意し始めた。
そして、それをリーシャがじーっと見ている。
「お前、無駄にプレッシャーをかけるなよ。可哀想だろ」
「練習よ、練習。別に失敗しても構いはしないわ。まだ始めて数日だしね」
「そうか……」
俺はリーシャにそう言われたのでティーナをガン見し始めた。
「……あの、味方じゃなかったの?」
さすがにティーナもいきなりガン見してきた俺を見てくる。
「失敗しないかなと思って」
「性格が悪い……」
ティーナはそう言いながらもお茶を淹れ、リーシャとマリアの前に置いた。
「まあ、50点といったところね」
お茶を飲みながらリーシャが点数をつける。
「ちなみに、何がダメでした?」
シルヴィがリーシャに確認する。
「私の夫に見られて、顔を赤らめたところ」
「はい、どうでもいいですね」
うん、どうでもいい。
拙い手つきが恥ずかしかっただけだろ。
「殿下ー、話って何ですかー?」
マリアがリーシャ達のやり取りを一切、無視して聞いてきた。
「あ、そうね。話って何よ? せっかく服を見ていたのに……」
「すぐに飽きて、麺料理を食べてただけですけどね」
マリアが本当のことを言うと、リーシャがマリアを睨む。
「話というのは今後のことだ」
「今後? エーデルタルトに戻るかどうかっていうの?」
「そうだ。それを考えないといけない」
「まあ、そうよね。それでどっちにするの? 私はあなたが決めたことに従うわよ」
「私もです」
リーシャもマリアも俺の決定で良いらしい。
「そうだな……実を言うと、俺はたいして悩んでいるわけではないんだ」
「そうなの? ずっと悩んでいるみたいだったけど……」
まあ、戻ってきてからロクに外に出ていないし、自分でも口数が減っていることはわかっている。
「俺はジャックが戻るのを待っていたんだ。そして、戻ってきたらしい」
「ジャック? なんでまた?」
「まずなんだが、これを見てほしい」
俺はそう言って、カバンから紙を取りだした。
「何それ?」
「これは教国のルノーの部屋で見つけた書類だ」
「ああ……あなたとシルヴィが話していたやつね。何だったの?」
「ほれ」
俺はリーシャに書類を渡す。
すると、リーシャが書類を読みだした。
「んー? 黒魔術の売買の書類じゃないの。顧客のリストか……」
「そうだ」
「ふーん……結構いるのね…………」
書類を読んでいたリーシャが固まった。
「…………は?」
リーシャが顔を上げて俺を見てくる。
「どうしました?」
マリアがリーシャを見て、首を傾げる。
「……はい」
リーシャはマリアに書類を渡すと、手で目を押さえ、天を見上げた。
「本当にどうしたんです?」
マリアはそう聞きながら書類を読んでいく。
「………………」
書類を読んでいたマリアがリーシャと同じく、固まった。
「ど、どういうことですか!?」
マリアが書類をテーブルに置くと、立ち上がって大声を出す。
「そういうことだろ」
俺はそう言って、書類を手に取り、何度も確認した顧客リストをもう一度見てみた。
その顧客リストには知っている名前が書いてある。
【ウォーレン・ロンズデール】
黒魔術の売買顧客リストには俺の父親であり、現エーデルタルト国王の名前がはっきりと書いてあった。
ここまでが第6章となります。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
引き続き、第7章も投稿していきますが、第7章が最終章になります。
もう少しだけお付き合いください。
また本日より本作のコミック第1巻が発売となります。
書店に寄った際は手に取ってもらえると幸いです。
今後ともよろしくお願いいたします。




