第251話 将来
教国を脱出した俺達はウォルターの関所前で一泊すると、そのまま関所を抜け、ウォルターの領内に入った。
そして、そのまま川沿いを進んでいき、3日が経った。
すると、ウォルターの王都が見えてくる。
「着いたなー」
「そうね」
「ハァ……やっと落ち着けます」
俺達は前方の王都を見ながら安堵した。
「旦那様ー、エイミルに行っていたということでよろしいですか?」
シルヴィが馬車の荷台から聞いてくる。
「それでいい。ただ、教国のことはヒラリーに報告しないといけない」
「そうですねー。城に着いたら私は馬車をラウラさんに返しに行きますから報告はお願いします」
「そうするわ」
俺達はそのまま王都に行き、町に入ると、城を目指す。
久しぶりに見る水の都はやはり美しく、教国とはまるで違う世界だと思った。
そして、町中を馬車で進んでいると、城の前で馬車が止まる。
「到着でーす。旦那様、奥様、大変お疲れさまでした。城でゆっくりとお休みください」
馬車が止まると、シルヴィが声をかけてきた。
「そうだな。お前も当分は休んでいいぞ」
「休みはいりませーん。私は旦那様のそばにいるのが仕事ですから」
「あっそ。じゃあ、ラウラに馬車を返したら城に戻ってこい」
「かしこまりー」
シルヴィの変な返事を聞くと、俺達は馬車から降りる。
そして、城に入っていった。
城に入り、自室に向かっていると、ちょうど歩いている伯母上に遭遇する。
伯母上は俺達を見ると、目を細めた。
「ただいまー」
俺は明るく挨拶をする。
「おかえりなさい。エイミルに行っていたんですって?」
「そうですね。エイミルに行くついでにジャスのコンラート王子に自慢しに行っていました」
「そうですか。あなたは報告や相談ということをしないのですか?」
すぐに嫌味を言うんだよなー。
まあ、至極真っ当だけど。
「急に思い立ったんですよー。ちょっとした新婚旅行みたいなもんです」
「ハァ……そうですか。あなたに何を言っても無駄でしょうね。リーシャ、マリア、私の部屋に来なさい」
「お説教ですか?」
可哀想だからやめろよ。
「そんなことはしません。あなた達は結婚式の際にギリス王妃から頂いた髪飾りを着けていたでしょう? ギリス王妃に結婚の報告と感謝の手紙を送らねばなりません」
あ、そういやそうだった。
「明日にするか?」
俺はリーシャとマリアに聞く。
「いえ、早くしないと失礼になるし、そんなに手間じゃないから書いてしまうわ」
「そうですね」
リーシャとマリアが顔を見合わせながら頷いた。
そんなに早く書けるんだ……
俺は全然、書けないのに。
というか、よく考えたら叔母上にも書かないといけないわ。
後で3人で考えるか……
「じゃあ、行ってこい。俺はヒラリーに会ってくる」
俺達はその場で別れることにすると、リーシャとマリアは伯母上と共に伯母上の私室に向かった。
俺はその場で2人を見送ると、ヒラリーの執務室に向かう。
そして、ヒラリーの執務室の前まで来ると、扉をノックした。
「ヒラリー、俺だ」
「ロイドか? 帰ったか!?」
ヒラリーの声が聞こえたので、扉を開け、部屋に入る。
すると、自分のデスクに座っていたヒラリーが立ち上がり、こちらにやってきた。
「おー! 無事に戻ったか!」
ヒラリーが俺の肩をバンバンと叩く。
「つまんねー国だったわ」
「そうか、そうか。まあ、座れ。詳しい話を聞きたい」
ヒラリーに促されたため、ソファーに腰かける。
すると、ヒラリーも対面に座った。
「ご苦労だったな。ところで、他の者はどうした?」
お互いがソファーに座ると、ヒラリーが聞いてくる。
「シルヴィは馬車をラウラに返しにいった。リーシャとマリアは伯母上が連れていったわ。ギリス王妃に手紙を書くんだと」
「あー、それか。お前達が出ていった後に怒ってたわ。出かけるならやることをやってからにしろって」
ごもっとも。
「完全に忘れてたわ」
「だろうな。それで教国はどうだった?」
ヒラリーが本題に入った。
「まずだが、伯父上や俺に刺客を送った敵の大将は殺した」
「よくやった! だが、誰だ? 教皇か?」
「いや、教皇は危篤らしい。多分、もう死んでるんじゃないかな? 実は次期教皇を巡って、強硬派と穏健派というのが争っていたわ」
「強硬派……名前からしてそっちだな」
まあ、そう思うわな。
「だな。シルヴィに繋いでもらって、穏健派の大司教であるマルコと組んで、強硬派の大司教のレノーを討った。だから穏健派のマルコが次の教皇だな」
「そいつは大丈夫か?」
「穏健派なだけあって、大人しいタイプだ。それにそこまで才覚に優れてはいないし、人をまとめる力もない。そして、それを自覚している人間だ」
「それなら問題ないな。そういう人間は無茶をせん」
一番、御しやすい人間だ。
「その辺りのことはお前に任せる。生かさず殺さずで締め付けろ」
「まあ、その辺は他国の動向を見ながらだな……ひとまずは危険がなくなったと考えていいな?」
「ああ、強硬派の幹部は根こそぎ死刑だろうからな」
マルコは許さないだろう。
「ん? 何があった?」
「強硬派は黒魔術に傾倒してやがった。自分のところの信者を何人も実験台にしていた」
「それは…………すごいな。とても教会の人間がやることとは思えん」
むしろ、教会はそういうのを断罪する方だ。
「魔力がなくても魔法が使えることを神の奇跡ってほざいてた。まあ、頭がイカれたんだろ」
「なるほどなー……最悪だが、消えたのならいいか」
「そういうこと。貧乏なところだったし、歪な国でつまらんかったわ」
二度と行くことはないな。
「まあなー……とにかく、ご苦労だった。このことは陛下に報告しておこう」
「頼むわ。俺は少し休む」
「そうしろ。ここに来てからミレーに行ったり、結婚式をしたり、挙句には教国だ。お前は少し動きすぎだし、休め」
そうしたいね。
ウォルターに着くまでも事件がめちゃくちゃあったし。
少しは休みたいものだ。
「ヒラリー、エーデルタルトはどうだ?」
俺達が教国に行く前に話をしていた時、ヒラリーはエーデルタルトを探ってみると言っていた。
「ああ、それな。飛空艇に乗って、エーデルタルトに行ってきたぞ」
あ、本当にわざわざ行ったんだ……
「どうだった?」
「エーデルタルト王には会えなかった」
同盟国の宰相、しかも、王族が来たのに会わなかったか……
「王妃やイアンにもか?」
「ああ。会ったのは宰相だ」
あいつか……
「宰相は何て言ってた?」
「お前が廃嫡になった理由を聞いたが、答えられないそうだ」
「答えられない? あのジジイはウォルターとエーデルタルトがどうやって同盟したのかを忘れたのか?」
ウォルターが出したエーデルタルトと同盟を結ぶ条件は自分のところの姫を正室とし、その子である俺を次の王にすることなはずだ。
それを破ったくせに、説明もなしか……
「いや、あれは答えたくないんじゃないな。本当に答えられないんだ」
「どういう意味だ?」
「宰相殿もわかっていないっぽい。何個か質問をしたが、明らかに返答が変だった。あれは向こうも困惑してるっぽかった」
宰相も知らないのか……
ということは陛下が重臣に相談もせずに決めたか。
「そうか……わかった。ウォルター的にはどうするんだ?」
「保留だな。今後も返答を求める文は出すが、すぐに同盟を破棄することでもない」
「それがいいぞ。今は下手に刺激しない方が良い」
今は見の時だ。
「……なあ、ロイド、お前はどうする? 正直に言うが、あんな国は本当に捨てるべきだぞ。あの調子では内乱でも起こりそうだ。お前が言うように適当な地位と役職をやるからここで夫婦共に過ごせ。お前達がいてくれれば、マイルズも安心だろう」
いつかはマイルズが王位を継ぐ。
そして、いつかはヒラリーも引退する。
ヒラリーはその後釜に一族の俺を置きたいわけだ。
「そうだな。多分、それが一番良いんだろう」
「だと思うぞ」
ヒラリーがうんうんと頷く。
こいつは本当に俺のことを考えて言ってくれている。
「少し待ってくれ。色々と考え事がある」
「まあ、別に急いでいないし、ゆっくりでいいぞ。まずは休め。そして、嫁共と遊んでろ」
そうするわ。
本作のコミック第1巻が来週の金曜に発売となります。
書籍版準拠となっており、3人の華麗なる(?)逃亡劇がよりコメディチックに描かれておりますので手に取ってもらえると幸いです。
発売を記念しまして来週は木曜から日曜の4日間更新いたします。
また、新作も投稿しております。(↓にリンク)
こちらカクヨムネクストになりますのですでに加入している方や興味がある方は覗いてみてください。
よろしくお願いいたします。




