第250話 悪夢
シルヴィの影に入り、大聖堂を脱出した俺達はシルヴィの超人的な動きで建物の屋根を飛び移りながら移動していた。
「………………」
「………………」
「やっと静かになったけど、ただただ涙を流す2人は怖いわね……」
リーシャがつぶやくが、怖いのはこっちだ。
「すみませーん。でも、後は陸地でーす」
シルヴィはそう言うと、最後にくるくる回転しながら地面に着地した。
「殿下ー、大地です!」
「おー、地面だ!」
すごい!
「申し訳ないです……でも、町中を進むわけにはいかないのです」
「地面っていいなー」
「ですねー」
「私の旦那と友人が壊れた……」
人は空を飛ばない。
もう一度、言う。
人は空を飛ばない。
「本当にごめんなさーい」
シルヴィは謝ると、そのまま歩いていった。
すると、町の門までやってくる。
門の近くには数人の兵士と見覚えのある影の薄い男が待っていた。
「シルヴィア、待っていたぞ」
影の薄い男であるマルコが近づいてきたシルヴィに声をかける。
「お待たせしました。馬車は?」
「あそこだ」
マルコが門の外を指差すと、大地をかける偉大なグローリアスが馬車を引いて、待っていた。
「よろしい。マルコさん、これを」
シルヴィが書類をマルコに渡す。
「これは……本当に黒魔術をしていたのか。なんということを……」
マルコが書類を読んで、俯いた。
「私達は実際に使うところを見ました」
「そうか……ならば間違いないな。それで他の3人はどうした?」
「私の影にいます。今はちょっと……」
俺とマリアは抱き合いながら震えている。
リーシャがそんな俺達の背中をさすってくれていた。
「ケガでもしたのか?」
「いやー、心にちょっと……それよりも、レノーは仕留めましたし、司教のパスカルの部屋には痺れ罠を仕掛けました。それと実験の場所は地下です。後はお任せします」
「そうか! レノーが死んだか!」
マルコが喜ぶ。
「はい。旦那様の敵ではありませんでした。後はあなたが思うようにしてください。ただし、エーデルタルトを敵に回すとどうなるかをよく覚えておきなさい」
「わかっている。それにお前の報告を聞いて気付いた。他国のことではなく、まずは腐っているここをどうにかしないといけない。私にはそこまでの才がないが、なんとかしてみせる」
マルコがなんか良いことを言っている気がするが、俺の心には何も響かない。
何故なら、震えが治まらないから。
「その辺はお任せします。では、私はここまでです」
「エーデルタルトに帰るか?」
「さあ、どうでしょう? 私は旦那様の専属のメイドですから旦那様次第ですね」
今の俺の気持ちはお前を断頭台に送りたい、だ。
「そうか……わかった。世話になったな。感謝する」
「いえいえ、お気になさらずに。こちらは火の粉を振り払ったにすぎません。もし、感謝の気持ちがあるのならば、テールと戦争をしてください」
「それは無理だよ」
マルコが苦笑いを浮かべた。
「いえいえ、やってください。では!」
シルヴィはそう言って手を上げると、門を抜け、馬車に向かう。
「皆の者! 残念ながら強硬派が黒魔術に傾倒していたのは事実だった! すぐに大聖堂を押さえ、関わった者を捕らえろ!」
「「「はっ!」」」
この地を去ろうとしている俺達を尻目に教国は内乱状態に突入しようとしていた。
まあ、後は好きにしてくれ。
シルヴィが馬車の前まで来ると立ち止まったため、俺達はシルヴィの影から出る。
「マリア、地面だぞー」
「本当ですねー」
影から出た俺とマリアは地面を触った。
「いいから馬車に乗ってよ。早く帰りましょう」
「ホント、すみません……」
リーシャが俺達を急かし、シルヴィが申し訳なさそうに謝ってくる。
「シルヴィ、覚えておけ。俺は空が嫌いだ。次やったらはるか上空に飛ばしてやるからな」
「申し訳ございませんでした……以後、そのようなことをしないように努めます」
シルヴィが丁寧に頭を下げ、謝罪した。
「ほら、ロイドもマリアも馬車に乗りましょう。いつまでもここにいるわけにはいかないでしょ」
リーシャが再び、急かしてきたため、俺達は馬車に乗り込む。
すると、シルヴィも荷台に乗り、出発した。
「帰りも3、4日かかります。馬車の中は暇でしょうが、ゆっくりとしてください」
というか、今は夜だな。
「そうだな……辺りが暗いがこのまま進むのか?」
「おそらく争いになりますから少し教国から距離を取ります。ウォルターの関所前で野営ですかね?」
確かに離れた方が良いだろう。
「わかった。さすがに夜は関所も開いてないだろうし、そこまで行って野営しよう」
俺が無理を言えば、通してくれるだろうが、それをすると、伯父上や伯母上の耳に入る可能性が高い。
「では、そのように……とはいえ、皆様はお休みください。後は私にお任せを」
というか、若干、一名はすでに寝てるな。
「そうするか……何かあったら起こせ」
「かしこまりました」
「マリア、こっちに来い。寝よう」
俺は横になりながらマリアを誘う。
「はい!」
マリアが俺のところに来ると、横になり、抱きついてきた。
「殿下ー……」
「よしよし……良い夢を見ような」
「無理な気がします……」
俺もそう思う……
せめて、1人ではなく、2人で落ちよう。
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