第248話 俺ね
「何あれ? 目が光って気持ち悪いんだけど?」
リーシャが影の中から怪しく笑っているレノーを指差しながら聞いてくる。
「あれは催眠魔法だな…………ディスペル!」
俺はマリアの影から指を出し、解除の魔法をマリアにかけた。
『マリア様ー、レノーの目が光っていますけど、決して、反応しないでくださいねー。催眠魔法です』
俺がディスペルをかけると、シルヴィが念話でマリアに伝える。
『……え? 催眠ですか!?』
『旦那様がディスペルをかけましたから大丈夫ですよー。向こうが何かを聞いてくるまでは黙っててくださーい』
『わ、わかりました』
油断を誘うわけだな。
「ふぅ……パスカルなんぞに任せんで最初からこうすれば良かったか……」
レノーがそう言って立ち上がり、マリアに近づいてきた。
「さて、マリア、正直に言え。何故、私達の申し出を断る?」
「……スコールズ家にメリットがないと判断したからです」
マリアが抑揚のないしゃべり方で答える。
「ハァ……やはり貴族か……メリット、デメリットしか頭にない」
当たり前だろ。
別に貴族に限ったことではないし、庶民も商人もそうだ。
そして、こいつらもだ。
「さて、どうするか……このまま催眠状態にするわけにはいかんしな……」
考えもなく、魔法を使ったのかよ……
アホだな。
「少し時間がかかるが、催眠を深くし、忠実な奴隷とするか……」
はい、死刑。
「ふぅ……」
レノーはため息をつくと、ベッドの方に行き、腰かけ、目頭を押さえる。
「さすがにきついか……しかし、最近、まったく疲れが取れない」
あー……これ、黒魔術のやりすぎだわ。
生命力が減っているから疲れたままなんだ。
「休むか……マリア、服を脱いでこっちに来い」
「死ね」
マリアがものすごい低い声で即答した。
「……何?」
レノーが顔を上げて聞き返すと同時にシルヴィが影から飛び出した。
「ロイド、何してんの!? 行くわよ!」
いや、俺は奇襲を考えていたんだが……
行くならもっと前に行ってるし。
「行くか……」
俺は立ち上がると、リーシャと共に影から出る。
すると、マリアがすぐに俺の背中に隠れた。
「シルヴィア!? それにお前達は誰だ!?」
急に出てきた俺達を見て、レノーがうろたえる。
「よう、レノー大司教。俺の妻に服を脱げと言ったか? それはどういう意味だ?」
俺は先に飛び出たシルヴィより前に出て、聞く。
「なっ!? き、貴様、ケビン・スコールズか!?」
バカだ……
「俺はケビンではないぞ」
ケビンはもっとごついし、背も高い。
「何!? 貴様、何者だ!?」
「口を慎め、庶民。不敬であるぞ。このロイド・ロンズデールに何という口の利き方をするんだ」
「ロイド・ロンズデール……エーデルタルトのバカ王子か!」
なんでこんな奴にバカ呼ばわりされなきゃならんのだろう……
「下郎に口の利き方を説いても無駄だったな」
「おのれ! 部下を守りにきたか!」
「アホ。部下じゃなくて妻だと言っただろう。お前は王族に服を脱げとほざいたんだ。死刑だ」
まあ、貴族に言っても死刑だが……
「チッ! 貴様がここにいるということは裏切ったかシルヴィア!」
レノーが今度はシルヴィを睨む。
「裏切るも何も仲間になった覚えはありませんよー。エーデルタルト最高貴族のイーストン家の私が何故、あなた程度の人間の仲間にならないといけないんですー?」
なお、最高貴族云々のくだりで自称最高貴族のスミュール家長女が睨みつけた。
「貴様もエーデルタルトか! 本当にロクなのがおらん国だ!」
そりゃここだろ。
「お前は伯父上を狙い、俺に刺客を向け、そして、マリアに服を脱げと言った。死ね」
「死ぬのは貴様だっ!」
レノーはそう叫びながら手を俺に向けてくる。
すると、レノーの手のひらが裂け、血が飛び出てきた。
「ディスペル」
俺が解除の魔法を使うと、飛んできた血が床に散らばる。
「なっ!?」
「自傷行為は一人でいる時にやれ。汚らしい血を見せるな」
「おのれ! 魔術師め!」
レノーの目が血走ってきた。
「ほら、どうした? 神の奇跡とやらを見せてくれ」
「黙れっ! 神に見放された魔術師め! 神の力を思い知るがいい!」
レノーが怒鳴りながら黒い火球を浮かび上がらせる。
「しょうもない……炎はもっと赤く美しいものだぞ」
俺はレノーが出した黒い火球よりも大きな火球を出した。
「クソッ!」
レノーは自棄になって、火球を飛ばしてくる。
だが、俺が同じように飛ばした火球に消し飛ばされ、そのまま火球がレノーのもとに飛んでいった。
「ぐっ!」
レノーは火球が当たる寸前、手のひらから血を出し、俺の火球に当てる。
すると、俺の火球が跡形もなく、消滅した。
「はぁ、はぁ……」
俺の火魔法を防いだレノーは息も絶え絶えだ。
「俺の魔法を消すなんて素晴らしいじゃないか。次は何を見せてくれるんだ?」
俺がそう聞くと、レノーが片手で頭を押さえながらふらつく。
「くっ! こんな時に頭痛か!」
ホント、バカだな……
「どうした? ヒールがいるか?」
「神を舐めるな!」
レノーがまたもや怒鳴りながら俺に向かって、手をかかげた。
だが、何も起こらない。
「なんでだ!?」
「相手の血を操作し、爆発させる魔法だな? あれは周囲が汚れるからおすすめせんぞ」
残念ながら血の操作の魔法は俺も使える。
前に解体が楽になるかもってウサギに使ったことがあるのだ。
なお、その日はウサギが罠にかからなかったということにした。
「な、何故!?」
「実は俺も神から奇跡をもらったんだ」
俺はさっきレノーが出したと同じように黒い火球を浮かび上がらせる。
「く、黒魔術師だったのか。私の奇跡を打ち消したか!」
自分は奇跡で俺は黒魔術かい。
「頑張って躱せよ。まあ、お前はもう無理だろうがな」
「黙れ! その程度の魔法を防げないはずがない!」
「そうか、そうか。では、やってみせてくれ」
俺は黒い火球をレノーに向かって飛ばす。
すると、レノーが手をかかげた。
「え? か、身体が……」
何かの魔法を使おうとしたレノーは頭がふらつき、足元もおぼつかない状態になる。
そうこうしていると、黒い火球がレノーに直撃し、黒炎がレノーを包んでいった。
「がっ! 熱いっ……」
レノーは短い言葉を言い残し、炎に焼かれると、前のめりに倒れ、黒い物体へと姿を変えた。
「たいした魔力もないのに魔法を使いすぎだ、アホ」
血液や生命力を媒体にしていたため、どんどんと弱っていき、勝手に自滅しただけだ。
「身の程知らずめ」
マリアに服を脱げだ?
それを言っていいのは世界に一人しかいないのだ。
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