第247話 大司教レノー
ニヤニヤと笑みを浮かべていたマリアとシルヴィは部屋を出て、大聖堂に向かう。
大聖堂に着くと、すでに誰もおらず、静寂が漂っていた。
「シルヴィさん、大司教様はどちらですか?」
「大聖堂の最上階である5階になります」
5階か……
偉い奴は高いところに上がりたくなるからな……
俺がそう。
リーシャもそう。
『シルヴィ、お前はその姿でいいのか?』
俺にはスカートの短いメイド服のシルヴィに見えているが、他の者には修道服を着たカトリナだろう。
あの黒づくめの男じゃなくていいのかね?
『私があの格好をしてきたのは嫌な目で見られたくないからです。あいつら、好色男なもんで……でも、もういいでしょう。これでお別れですから』
それもそうか……
シルヴィとマリアは5階に行くために階段を目指して歩いている。
すると、何回か来たパスカルの部屋の前まで来た。
『シルヴィ、パスカルは?』
『います。これは……寝てますね』
のんきな奴だ。
『シルヴィ、これを扉に仕掛けろ』
俺は鞄から紙を取り出すと、マリアの影から手を出して、紙をシルヴィに渡す。
『なんですか、これ?』
『パライズの魔法が仕込まれた護符だ。それを扉の内側に仕掛けとけ。何かがあって、パスカルが部屋から出ようとしたら痺れて動けなくなる』
『悪い人ですねー』
シルヴィはそう言いながらもウキウキ顔で扉をそーっと開けると、護符を扉の内側の下の方に貼り付け、再び、そーっと扉を閉じた。
『よし、行こう』
罠を仕掛け終えた俺達はそのまま進んでいき、階段までやってくる。
そして、階段を昇っていった。
「奥の部屋が大司教レノーの私室になります」
階段を昇り、5階まで来ると、シルヴィが教えてくれる。
「行きましょう」
マリアが先頭を切って、進んでいった。
そして、ついに一番奥にある部屋の扉の前までやってくる。
『皆様、ここがレノーの部屋です。準備はよろしいでしょうか?』
扉の前にいるシルヴィが念話で聞いてきた。
『マリア』
『タイミングはあなたが決めなさい』
俺とリーシャはマリアに任せる。
『大丈夫です。私はマリア・ロンズデール。何も怖いものはありません』
マリアが凛として答えた。
『わかりました。では……』
シルヴィが扉をコンコンとノックする。
『入りなさい』
部屋の中から男の声が聞こえてきた。
すると、シルヴィがゆっくりと扉を開ける。
「シルヴィア、君は外で待っていなさい」
シルヴィが部屋に入ろうとすると、男が止めてきた。
「外で待機しております。何かあればお呼びください」
シルヴィはそう言うと、マリアの後ろに回り、マリアの影に飛び込む。
すなわち、俺達のもとにやってきたのだ。
「狭いですー……というか、何をそんなにくっついているんですか」
俺とリーシャの間に落ちてきたシルヴィが文句を言う。
「なんでここに落ちてくるんだよ!」
「そうよ。邪魔! 離れなさい」
俺とリーシャは文句を言い返した。
「この人達、私とマリア様に歩かせておいて、影の中でいちゃついてやがった……」
狭いからだよ!
「どうでもいいけど、マリアよ」
あ、そうだった。
「どうしたのかね?」
男がマリアを催促する。
『マリア、行け。俺達がついてるぞ』
『そうよ!』
『マリア様ー、この人達、抱き合ってましたよー』
うっさい。
『ちょっと静かにしてもらえません?』
あ、はい。
「失礼します」
マリアはそう言うと、部屋に入り、扉を閉めた。
そして、ゆっくりと男に近づく。
男は部屋の中央にあるベッドで横になり、額に手を当てていた。
「マリア嬢だね?」
男は上半身を起こすと、ベッドに腰かけ、マリアを見る。
思ったより、若いな……
男は若者というわけではないが、年寄りというわけではない。
30代か40代前半くらいだろう。
「はい。挨拶が遅れてしまい、申し訳ございませんでした」
「私が大司教のレノーだ。そして、こちらこそすまない。また、こんな状態で申し訳ない。さすがに疲れがね……」
レノーは本当に疲れているらしく、顔に元気がない。
「いえ、教皇様が病に倒れたと聞いていますし、大司教様は大変でしょう」
「そうなのだよ……本来ならば、結婚を控えている君をこんな夜更けに呼び出すのは失礼だとは思うが、時間が取れなくてね…………」
失礼というか、打ち首もんだよ。
男の部屋で2人きりというだけでアウトだ。
まあ、実際は5人もいるからいいんだけど。
「お忙しい中、時間を作ってくれただけでありがたいことです。それで何用でしょうか? お疲れならば、私は日を改めても良いのですが……」
「いや、実は急ぎでね。早速だが、パスカルから神の奇跡については聞いたかね?」
こいつも黒魔術を奇跡と呼ぶか……
「はい。お聞きしましたし、実際にエドモン神父に見せてもらいました」
「どう思ったかね?」
「なるほどと頷ける部分もありましたし、私自身も魔法を使ってみたいと思ったことがないと言えば、嘘になります」
「ふふっ。遠回しに言うな……貴族らしい答えだ」
貴族は『どうでしょうかね』と言って、断言はしないぞ。
「正直なことを申せば、悪いことではないと思います。ですが、果たして、スコールズ家がそれを求めるかは微妙なところです」
「ふむ……そうか」
レノーが何かを考え始めた。
「大司教様?」
「ああ、すまない。そうだね。よくわかったよ。君自身があまり乗り気ではないわけだ」
「そ、そういうわけでは……」
マリアが図星をつかれて動揺する……フリをしている。
「いや、いいんだ。色んな考えがあっていいからね…………でも、これは決定事項なんだよ」
レノーがそう言いながら笑うと、レノーの目が怪しく光った。
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