第246話 子供の頃から一緒だから息が合うだけだから……
翌日、俺達はゆっくりと起きると、部屋で過ごす。
リーシャとマリアはお茶を飲みながらぺちゃくちゃとしゃべっており、俺は暇なのでベッドの上でジャックの本を読み返していた。
シルヴィは俺のそばに控え、ニコニコと微笑んでいる。
「シルヴィ、暇か?」
俺は本を閉じると、シルヴィに聞く。
「いえ、忙しいです」
何が?
「暇だな。空間魔法を教えてくれ」
「嫌でーす。私がいらない子になっちゃうじゃないですかー」
自分の売りを簡単には教えんか……
「じゃあ、変装の魔法を教えてくれ」
「変装? 幻術ですか? 何に使うんです?」
「城を抜け出す時とかに使う」
他にも色々と使えそう。
「……かつて、この幻術を使っていた私の祖父が同じことを先代国王陛下に言われたそうです。その時に祖父が問い詰めたら女遊びに使うつもりだったと白状し、祖父の妹である王妃様と大喧嘩をなされましたよ」
初めて聞いた……
ウチの爺さんは何をしてんだよ。
「ロイド……」
楽しそうにマリアと話していたリーシャが睨んできた。
「殿下……あなた方、王族は女遊びばかりですね」
マリアがジト目で心外なことを言ってくる。
「先代と現陛下はそうかもしれんが、俺は違うぞ」
陛下は町で女に声をかけていたところを目撃したことがあるので怪しい。
「そんなスカートの短いメイドを横に置いて、何を言っているんです?」
それ、シルヴィのせいじゃん。
「シルヴィ、その格好をやめろ」
「えー……」
シルヴィが嫌そうな顔をする。
昨日は下着を見られて、顔が真っ赤だったくせに……
「いいからやめろ」
「じゃあ、そうしまーす」
シルヴィはそう言いながらその場でくるりと一回転した。
すると、シルヴィの顔が素顔に変わる。
だが、スカートは短いままだ。
いや、変えるのは顔じゃなくて、スカートなんだが……
「おー! 一瞬にして、スカートが長くなりました」
ん?
「すごいでしょー。これが幻術です。実を言うと、本当はスカートが短いままなんですけど、そう見せているのです」
「幻術ってすごいですねー」
マリアが感心し、リーシャが興味なさそうにお茶を飲み始めた。
あれ?
『旦那様、これでどうです? 奥様方には長く見せ、旦那様にはそのまま。まあ、そのせいで顔が戻っちゃいましたけどね』
あー、俺にだけ幻術を解除しているわけか。
そういえば、この服しか持ってないって言ってたもんな。
『それでいいや』
『お好きですねー……ただ、スカートの中は見れないようにしていますがね』
そういえば、昨日もそこだけは見れなかったな。
別に見たいわけではないが。
『幻術を解いているんじゃねーの?』
『別の魔法で強固なガードです。それも解いてもいいですが、今は奥様方がおられるのでダメです。それはお戻りになられてから旦那様自身が私にディスペルをかけて、ごゆるりと……』
ごゆるりと何だよ……
『お前、貴族だろ。しかも、公爵家じゃん』
『私はすでに死んでおります。籍も残っていません。ですので、秘密の愛人でも妾でも結構です。あ、でも、子供は欲しいです。ウチの家でちゃーんと育てますから……って聞いてますー?』
俺はシルヴィを無視して、読書を再開した。
ただでさえ、ヘレナの問題があるのにこれ以上、問題事を増やそうとするんじゃねーよ。
リーシャが何をするかわからないんだぞ。
俺達はその後も寮の部屋で過ごし、大司教からの連絡を待っていた。
だが、午前中は何もなかったし、昼を越えても何もない。
そして、先程、夕食を食べたのだが、それでもうんともすんとも連絡が来なかった。
「シルヴィ、今日は来ないんじゃないか?」
窓の外はすでに暗いし、後日にしたのかもしれない。
「いえ、それは考えにくいです。強硬派としては教皇が亡くなる前に事を進めたいと思っているでしょうし」
うーん……
「シルヴィ、ちょっと様子を……ん?」
俺がシルヴィに調べさせようと思い、声をかけると、部屋にノックの音が響いた。
「旦那様、リーシャ様、隠れてください」
シルヴィにそう言われたので俺とリーシャは扉から見えない位置に移動し、隠れる。
そして、そのまま隠れていると、ガチャっという扉が開く音が聞こえてきた。
「やあ、シルヴィア、レノー大司教が君とマリア嬢を呼んでいるぞ」
女の声が聞こえる。
「わかりました。すぐに行きます」
「ん。確かに伝えたぞ」
女がそう言うと、すぐにガチャッと扉が閉まる音が聞こえてきた。
「旦那様、リーシャ様、もう大丈夫ですよ。寮の見回りをしている兵士さんでした」
女がいなくなったようなので俺とリーシャが隠れるのをやめて、テーブルに戻る。
「ようやくか。しかし、随分と遅いな……」
もう夜だぞ。
「レノーも今は忙しい時でしょうからね」
まあ、穏健派のことだったり、教皇が死にそうだったりで色々あるか。
「それもそうか。じゃあ、行こう」
「はい。では、マリア様の影にお隠れください」
シルヴィにそう言われたので俺とリーシャはマリアの前まで行き、沈む。
マリアの影に沈むと、リーシャが嬉しそうな顔で見てきた。
「どうした?」
「いよいよね。今回は出番がまったくなかったけど、ようやく剣を振れるわ」
こいつは元の貴族令嬢というか、夫人に戻れるんだろうか?
「リーシャ、悪いが、今回はいつものように突っ込むのはやめろ」
「なんでよ」
リーシャが睨んでくる。
「敵は黒魔術師だ。叔母上を見ていただろうが、黒魔術の中には血の操作があり、斬っても死なない場合がある。さらに血を操作する攻撃魔法もあるんだ。近づくのは危険だ」
「問題ないわよ。全部躱すし、多少なら問題ないわ」
完全に蛮族だ……
「リーシャ、お前は美しい……お前の顔に傷がつくのは許されない。それこそ、神への冒涜だ」
俺はそう言いながらリーシャの頬を撫でた。
「あっそ。ふんっ!」
リーシャは怒ったふりをしながら顔を背ける。
チョロ女……
『旦那様ー、私はー?』
話を聞いていたであろうシルヴィが念話で聞いてきた。
『頑張れ』
『この差……これが顔面偏差値の違いか』
いや、妻と夫婦間にいらぬヒビを入れようとしてくる悪いメイドとの差だ。
『いいから行け』
『はーい……』
シルヴィが不満たっぷりに答えた。
「マリア様、行きましょう」
「はい……下はどうなってます?」
マリアがシルヴィに聞く。
「イキる奥様を宥めるために旦那様が甘い言葉を囁き、チョロ女が真っ赤になっています」
「ああ、いつものことですね……ぷぷっ」
『『さっさと行け!』』
俺とリーシャは声を揃えて同じことを言った……
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