第245話 作戦
俺とシルヴィは地下から戻ると、パスカルの部屋に向かう。
『旦那様、申し訳ございません。しゃべり方を変えますが、お気になさらないでください』
そういえば、俺の目にはシルヴィの本当の姿が映っているが、周りからは黒づくめの男に見えているんだったな。
『問題ない。そのまま行け』
女のままが良い。
別に女が大好きというわけでないが、こいつの男の姿の方は敵という印象が強いのだ。
『では、このままで……』
シルヴィは頷くと、扉をノックする。
そして、パスカルの許可を得る前に扉を開けた。
「うおっ! 急に入ってくるな! というか、鍵はどうした!?」
少し腰を浮かしていたパスカルが驚く。
「鍵は開けた」
「お前なー……なんでいちいち驚かせるんだ?」
パスカルが呆れる。
「有能性をアピールしているんだ。給料を上げてくれ」
「それは大司教様に言え。私は知らん」
どうでもいいけど、シルヴィって、給料をもらっているのか……
「そうか……それで? 何の用だ? 俺も穏健派共の調査だったり、マリアの世話だったりで働きっぱなしだから眠いんだが……」
「すぐに終わる。話を聞いたマリア嬢はどうだ?」
「微妙だな……エーデルタルトは武の国だから魔法自体があまり好まれない。その辺を気にしているようだ」
魔法が好まれないのは事実だ。
「そうか……無理そうか?」
「このままでは無理かもな……」
「うーむ……しかし、黒魔術を知られた以上は絶対に引き入れんとマズい。無理なら殺すか?」
おい!
お前を殺すぞ!
『旦那様ー、落ち着いてくださーい』
わかってるよ。
「それはやめた方がいい。エーデルタルトの貴族は身内を重視するから絶対に復讐に来るぞ」
「この教国とエーデルタルトの間にはテールがあるから簡単には来れんだろ」
「ウォルターを忘れたか?」
エーデルタルトは教国に面していないが、エーデルタルトの同盟国側であるウォルターは隣国だ。
「クソッ! そうだったな……本当に邪魔な国だ」
「こうなった以上は引き入れる他にない。上手くいけば、スコールズ家だけでなく、同じ派閥の貴族にも売れるぞ」
「そうだな……しかし、私では無理そうだな。大司教様に頼むか」
シルヴィが誘導する前に自分でその結論に至ったか……
「いいかもな。大司教様に説いてもらえば頷くかもしれん。マリアは貴族だが、男爵家の令嬢だからそこまで押しに強くない」
ちなみに、別にそんなことはない。
大司教が教国でどんなに偉かろうと、自国の貴族ではないから絶対に自分の考えを変えることはない。
そもそも、エーデルタルトの女子は高潔を重視するから権力に屈しはしないし、逆にどんな大貴族だろうが、王族だろうが、令嬢に強くは出られない。
だって、あいつら、すぐにナイフを取り出すんだもん。
「わかった。このことは大司教様に報告しよう。明日はお前もマリア嬢も休みにするから部屋にいろ」
明日か……
「了解した」
「うむ。以上だ。帰って寝ろ」
「そうさせてもらう。じゃあな」
シルヴィはそう言うと、踵を返し、普通に扉を開けて、部屋から出ていった。
『今回は消えんのか?』
『いつもやったら飽きちゃうじゃないですかー。たまにやるからいいんですよ』
サービス精神が旺盛だな……
『まあいい。戻るぞ。腹減ったわ』
『ですねー。では、戻ります』
シルヴィはそう言うと、歩いて寮に戻っていった。
俺とシルヴィは寮の部屋に戻ると、遅くなった夕食を食べながらリーシャとマリアに地下のことと先程のパスカルとの会話を伝える。
なお、シルヴィは寮に戻る前にカトリナの顔に戻していた。
「人体実験ねー……一応、聞くけど、ロイドはそんなことをしてないわよね?」
リーシャが聞いてくる。
「するわけないだろ。そんなもんは才能のない奴がやることだ。俺はエーデルタルト一の魔術師なんだぞ」
というか、そんな王太子なんか最悪だろう。
王になっても暗君まっしぐら。
「まあ、そうよねー……あなたは派手なのが好きそうだし」
そうだよ。
だから火魔法が好きなのだ。
「殿下、明日は休みということですが、明日に大司教から連絡があるということですか?」
今度はマリアが聞いてきた。
「そうなるだろうな……シルヴィ、それまでにマルコに伝えておけ。俺達はレノーを討ったらすぐにこの地を去る」
「それが良いでしょうね……わかりました。脱出の手配も頼んでおきます。馬車を置いておく訳にはいかないですしね」
そりゃそうだ。
ラウラが怒るし、こんなところに置いていかれるグローリアスが可哀想である。
「頼むわ。そういう訳で明日は待機な」
「了解です」
「明日はゆっくり眠れるわねー」
マリアとリーシャが頷く。
「旦那様、私は少し出てきますのでお先にお休みください」
夕食を食べ終えたシルヴィが立ち上がった。
「頼むわ。ボーナスは出してやるから」
ヒラリーが……
「あれは本心ではないんですがね……お金のためにやっている訳ではないので」
「もらえるもんはもらっとけ。どうせ、俺の金じゃない」
「ふふっ、忠誠心が下がりそうなセリフですねー。では、私はこれで……」
シルヴィは笑いながらそう言うと、部屋から出ていく。
俺達は明日に備えて、早めに休むことにし、さっさと風呂に入ると、就寝した。
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