第243話 隠された真実
俺がシルヴィの影に入ると、シルヴィはすぐに部屋を出る。
そして、先日のように黒づくめの男に姿を変えると、窓から飛び降りた。
『シルヴィ、パスカルの部屋に行くのか?』
シルヴィが誰もいない寮の裏に着地したので聞いてみる。
『はい。パスカルももう自分の部屋に戻っていると思いますので』
シルヴィは男の姿なのに女の声で答えた。
『もう一度、地下に行けないか? 確認したいことがある』
『承知しました。では、まずはそちらに向かいましょう』
シルヴィがそう言うと、姿が見えなくなる。
『それも黒魔術か?』
『これは違いますよ。認識をずらしているだけです』
『味方まで見えないと不便なんだがな……』
『別に特定の人物だけに見せることはできますよー』
できるのか……
『やれよ』
『ダメでーす。そうすると、私の変装も解けちゃいますもん。本当の顔を見られちゃいます』
そういうことか……
『シルヴィ、俺は人の優劣を顔で判断せんぞ』
『遠回しにブスって言われているような気がするんですけど……』
『俺は気にしないぞ』
『嘘じゃん。殿下って女を顔で判断する超面食いさんじゃないですか』
その評価、やめろ。
きっとリーシャのせいだな。
そのせいで他の女から反感を買っているんだろう。
『そんなことないぞ』
『じゃあ、どう思います?』
シルヴィがそう言うと、姿を現し、しゃがんで影にいる俺の方を覗き込む。
シルヴィは先程までの黒づくめの男の姿ではなく、スカートの短いメイド服を着ていた。
そして、顔がカトリナのような美人系の顔ではなく、どちらかというと童顔の可愛いらしい顔立ちになっていた。
多分、これが本当のシルヴィの顔だろう。
『ブスじゃないじゃん。というか、それでいけよ』
普通に整っているし、かわいい。
『隠密が本当の顔を晒すわけないじゃないですか』
まあ、そうかもしれない。
『偽装を解いたのか?』
『そうです』
『そうか……』
偽装を解いた影響だろうな……
短いスカートでしゃがんでいるから下着が見えている……
『どうしました?』
シルヴィが首を傾げた。
『いや、うん……いいと思うな。別にそっちでもいいと思う』
『カトリナさんより?』
『うーん、どっちも捨てがたいなー』
どうでもいいからそろそろ立たないかな?
めっちゃ視界に入るんだが……
『旦那様が望むならどっちの顔でもしてあげますよー』
シルヴィが妖艶に笑う。
間抜けにパンツをガン見せしながら……
『冗談はいいから行こうぜ』
『そうですか? では……』
シルヴィがそう言って、手を膝に置き、立ち上がった。
そして、膝に置いている自分の手をじーっと見る。
いや、見ているのは手ではなく、短いスカートだ。
『………………』
シルヴィがそのまま動かなくなり、無言になった。
『どうした? 行かないのか?』
俺がすっとぼけてそう聞くと、シルヴィの顔が赤くなっていった。
『行きます……』
シルヴィは顔を赤くしたまま、何事もなかったように歩いていく。
俺は動揺して、いまだに偽装魔法を使っていないシルヴィに気を遣い、上を見上げないようにしながら無言で前を見続けた。
◆◇◆
『旦那様、まずは地下に行きますが、あまり時間は取れませんことをご承知ください』
大聖堂に入り、通路を歩いていると、シルヴィが冷静な口ぶりで言ってくる。
もう大丈夫かなと思って、見上げると、顔はシルヴィの素顔のままだが、スカートの中は黒くなっており、見えなくなっていた。
『わかっている。他の部屋を確認したいだけだ』
『さようですか……旦那様は心がお強いので問題ないと思いますが、ショックを受けないようにしてください』
それはショックなものがあるということだ。
『わかっている。だからリーシャとマリアは連れてこないことにしたんだ』
『わかりました。では、参りましょう』
俺達が話していると、階段の前まで来ていた。
そして、そのままシルヴィが階段を降りていく。
『シルヴィ、手前の右の部屋はもういいから左の部屋に入れ』
右の部屋はもう入った。
「旦那様、出てこられても大丈夫ですよ。今は誰もおりません」
シルヴィが念話ではなく、普通にしゃべり出す。
『大丈夫か?』
「はい。防音の魔法を使いましたし、万が一、誰か来れば教えます」
俺はシルヴィにそう言われたので影から出る。
「やっぱり歩く方が良いな」
「そうでしょうねー。では、旦那様、どうぞ」
シルヴィが部屋に入るように促してきた。
「鍵は?」
「解除いたしました」
そんなこともできるのか……
優秀だな。
「わかった」
俺は扉のドアノブを握ると、引く。
すると、ぎーっという音を立てながら扉が開いたため、中に入った。
部屋の中は暗くて何も見えなかったため、手のひらを天井に向け、ライトの魔法を使って光球を出し、周囲を明るくする。
部屋が明るくなると、部屋の全貌が見えてきた。
部屋はそこまで広くなく、本棚などもない。
ただ、部屋の中央には台が置いてあり、その台には何かの物体が横たわっていた。
俺は何も言わずに台に近づく。
「想像通りでしたか?」
台の前に来て、台の上の物体を見ていると、シルヴィが俺の横に来て、聞いてきた。
「ああ……黒魔術に傾倒した者の行きつく先だな……」
「そうですね。奥様方は魔術師ではないので知らないでしょうが、魔術師界隈で黒魔術が禁止になった理由がこれです」
「だな。俺も黒魔術は学んだが、ここまでしようとは思わなかった」
俺とシルヴィが見ている台の上の物体は解体された人間の死体だった。
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