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廃嫡王子の華麗なる逃亡劇 ~手段を選ばない最強クズ魔術師は自堕落に生きたい~  作者: 出雲大吉
第6章

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第241話 黒魔術


 教国は神の奇跡を手に入れたらしい。

 だが、それはどう考えても黒魔術だ。


 黒魔術は魔力をそんなには消費しないため、やろうと思えば、ヒーラーだろうが、魔法を使えない者だろうが、使える。

 黒魔術を使うのに必要なものが生命力だったり、血液だったりするからだ。


 俺が最初にこれに手を出したのは死んだ母親が危篤になった時だった。

 治せない病でも治せると聞き、学んだ。

 だが、母親に怒られたため、使うことはなかった。


 その後も研究として、いくつかの黒魔術にも手を出したが、すぐに研究をやめた。

 理由は火魔法の方がかっこいいし、『ロイド殿下は黒魔術に傾倒している』と噂が立ったからだ。

 魔法に詳しくないエーデルタルトの者達だから多分、揶揄しただけだろうが、図星だったのですぐにやめ、普通の魔法の研究に戻ったのである。


 そんな俺だからこそ、階段を降りて、この地下に来た時にすぐに気づいた。

 この独特な魔力は黒魔術以外にありえないのだ。


「あ、あの、本当に魔法が使えるようになるんですか?」


 マリアがパスカルに聞く。


「もちろんです…………エドモン」


 パスカルがエドモンの方を向き、頷いた。

 すると、エドモンが手のひらを上に向ける。


「マリア殿、これが神の奇跡です」


 エドモンがそう言うと、手のひらから火球が現れた。

 だが、その火球の色は黒い。


『血を使ったな……黒魔術以外の何ものでもないわ』

『この人達、何をしてるんですか!? 黒魔術を使ったらダメだし、関わってもダメって教会自身が言ってますよ!』


 だろうな。

 教会だけでなく、魔術師界隈でも言われていることだ。


『マリア、その辺を探ってくれ』

『わ、わかりました。やってみます!』


 俺もリーシャもしゃべるわけにはいかないからこの場はマリアに任せるしかない。


「あ、あの、それは黒魔術では?」


 マリアが黒い火球を見ながら聞く。


「そうですね。一般的に黒魔術と呼ばれているものです」


 あっさり認めたな……


「黒魔術は禁止されているのではなかったのですか? 私はエーデルタルトの教会でそう習いました」

「もちろん、禁止されています」

「でも…………」


 マリアがエドモンを見る。


「エドモン、もういいですよ」


 パスカルがそう言うと、エドモンが出している火球を消した。


「マリア殿、黒魔術は確かに禁じております。ですが、それは正しく使っていない者が多くいるからです。エドモンのように正しく使えば何も問題ありません」

「あの、正しくとは?」

「黒魔術が危険なのは第一に血や生命力を用いるからです。ロクに魔法を使ったことのないものが安易に使うと、命の危険にさらされるのです」


 これは合ってる。

 当たり前だが、血液も生命力もなくなれば死ぬ。


「ちゃんと指導をするということですか?」

「その通りです。そして、もう一つ、大事なことがあるのですが、黒魔術は精神を蝕むと言われています」

「それは聞いたことがあります。悪魔になってしまうとか……」


 どうでもいいが、マリアが悪魔って言った瞬間にこっちを見るな、下水。


「その通りです。私は黒魔術に傾倒した者を見たことがあります。魔法に支配され、本当に悪魔になったかのようでした」


 妻よ、だからこっちを見るな。

 悪魔はお前だ。


「それは……いえ、しかし、教国ではそうはならないと?」

「もちろんです。それが神の奇跡なのです。神は我らを見守ってくれていますからね。きちんと祈りを捧げていれば大丈夫なのです」


 は?

 それだけ?


「それはそう思いますが……」


 さすがのマリアも言葉を選ぼうとしている。


「マリア殿、そもそも黒魔術とは何だと思いますか?」


 ただの代替魔法だ。


「えっと……申し訳ございません。勉強不足です」

「いえ、良いのです。少し、説明をしましょう。まず、黒魔術を最初に禁じたのは魔術師です」

「そうなのですか?」

「はい。魔術師は黒魔術は危険だと言い、禁術としました。もちろん、教会も危険性は確かに認められたため、禁止しました。ですが、これが魔術師共の罠だったのです」


 何を言ってんだ、こいつ?


「罠ですか?」

「そうです。本当は黒魔術は神に認められた者のみが使える神術だったのですよ」


 何を言ってんだ、こいつ?


「そうだったんですか……」


 マリアがパスカルの世迷言に乗る。


「はい。ですが、魔術師共は我らを警戒し、そういう風に神術を黒魔術と呼び、悪に仕立て上げました。だから長年、我らは虐げられていたのです」


 被害妄想と被害者意識がヤバいね。


「な、なるほど」

「ですが、その事実に気付いた我々はこのように徐々に解禁し始めたのです。もちろん、危険なのは間違いありませんので神に認められた者のみに限っています。中には神への祈りが足りずに暴走してしまう者もおりますから慎重に事を進めております」


 ん?

 ということはつまり……


「確かにそうですね」

「ええ、ですが、マリア殿ならば大丈夫でしょう。そして、そんなマリア殿が愛するスコールズ家も同様です。私が提案したいのはこの素晴らしい神からの贈り物を共有いたしませんかというものです」


 スコールズ家に黒魔術を売りつける気か……

 しかも、安全に使う方法は信者になること。

 上手い方法と思うが、それで騙されるのはバカな庶民だけだ。

 エーデルタルトの貴族は鼻で笑うだろう。


「うーん、ですが……」

「マリア殿、この力は神の奇跡です。この力を使えば、神から愛されたあなたを祝福してくださるでしょう。例えば、神に背くものを排除したりね」

「神に背く者…………」


 俺はそのやりとりを聞いて、隣を見る。


「……何よ?」

「いや……別に」


 なんでもない。


『御二人は本当に仲が良いですねー。言動が似たり寄ったりです』


 うっさい、シルヴィ。


お読み頂き、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
下水とゲス、仲の良い夫婦ですね 教国が困窮してカルトへの傾倒が加速しているの、とてもワクワクしますね
破れ鍋に綴じ蓋...
ふーん、“信仰+黒魔術の混合物”をエーデルタルトに売り付け浸透させ、あわよくば王城の中枢にも食い込みたい。が、魔術に詳しい王族なんぞが居ると“黒魔術”だと見破られるので邪魔だった訳だ。
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