第024話 絶世のリーシャa.k.a下水のリーシャ
夕食とワインを堪能した俺達は部屋に戻ると、風呂に入ることにした。
なお、調子に乗って、ワインをもう1つ買い、グラスと共に部屋に持ってきてある。
風呂から上がったら飲むのだ。
今日くらいはいいだろう。
「マリア、先に入れ」
俺はベッドに腰かけると、マリアに先に風呂に入るように言う。
「え? 私ですか? 殿下やリーシャ様がお先にお入りください。私は最後でいいです」
「いいから入れ」
「マリア、あなたが先よ」
リーシャもマリアに先に風呂に入るように言った。
「ハァ……お風呂から上がったら誰もいないなんていうのはやめてくださいよ」
しねーわ。
どんなイタズラなんだよ。
「そんなことはせんからさっさと入れ。とはいえ、久しぶりの風呂だし、ゆっくりでいいぞ」
「ゆっくり…………あっ……は、はい……ゆ、ゆっくり入ってきます」
マリアは頬を染めると、備え付けの風呂場に行ってしまった。
「ホント、そういうのが好きな子ね」
「いつものことだろ。それよりもリーシャ、町で俺らをつけている奴はいたか?」
リーシャには周囲を探るように言ってある。
「いなかったわ。そっちは? 変な魔力は感じていない?」
「ない」
魔力の魔の字も感じなかった。
「追手はなさそうだし、ひとまずは安心?」
「一応な。気になる点がないこともないが、大丈夫だろう」
「そう……」
リーシャはつぶやくと、俺の隣に座ってきた。
「疲れたわ」
リーシャが俺の肩にしなだれかかる。
「だなー」
「ふふっ……癒してあげましょうか?」
リーシャが妖艶に笑い、見上げてきた。
「いらん。そもそもお前、汚れを取る魔法をかけているとはいえ、風呂に入ってないだろ。いいのか?」
俺は気にしないが、リーシャは絶対に気にする。
「それもそうね。香水もないし、やめておくわ。誰かさんが聞き耳を立ててそうだし…………」
「だろうな」
『…………立ててませーん』
風呂場のドアの向こうからくぐもった声が聞こえてくる。
「わかりやすい奴…………お前が期待する展開はないからさっさと入れ」
『…………はい』
ったく……
「……殿下、わたくしはもう戻れませんわ。たとえ、殿下の行く先が断頭台だとしても一緒に参ります」
リーシャはそう言って、俺の顔を両手で掴んだ。
◆◇◆
しばらくすると、マリアが上がってきたため、次に俺が風呂に入ることになった。
本当はリーシャを次に入らせようとしたのだが、リーシャはマリアに大事な話があるらしく、俺が先に入ることになったのだ。
俺は風呂場に来ると、マリアと違って聞き耳を立てる気はないのでさっさと風呂に入ることにした。
「ああ、やっぱり風呂はいいなー」
俺は湯船に浸かりながらこれまでの疲れを取る。
そして、ある程度、風呂を堪能すると、さっさと風呂から出て、部屋に戻った。
「早いわね」
マリアと並んでベッドに腰かけていたリーシャが戻ってきた俺を見る。
「男はこんなものだ」
「ふーん。じゃあ、私も入ってくるわ。マリア、忘れないように」
「はいっ!!」
マリアがこれでもかというくらいに背筋を伸ばして答えた。
「よろしい」
リーシャはそう言うと、風呂場に行ってしまった。
「何の話だ?」
俺はテーブルにつくと、マリアに聞く。
「殿下は知らなくていいことです…………というか、いつものことです」
リーシャの嫉妬か……
「めんどくせーな」
「ハァ……リーシャ様、いい人なんですけど、本当に小っちゃいんですよねー……男爵令嬢程度が公爵令嬢に勝てるわけないのに……生まれも育ちも何もかも違うのに」
「だから下水なんだろ」
俺、あいつが扇を折っているところを見たことがある。
そんなことをする奴が本当にいるんだと思った。
「ですねー……」
「まあ、気楽にやりな。あいつは逆らわなければ何もしないし」
「そうします。私はとっくの前にリーシャ様の傘下に入ったのです」
この子分気質が貴族学校で上手くやるコツなのかもしれない。
俺とマリアがそのまましばらく待っていると、リーシャが風呂から上がって戻ってきた。
…………バスタオル一枚で。
リーシャはその白い肌を惜しみなく晒したまま俺が座っているテーブルにやって来ると、ワインを取り、自分のグラスに注ぐ。
そして、そのグラスを持ち、ベッドまで行くと、バスタオル一枚のままベッドに腰かけ、足を組んだ。
その長い足も……美しい肌も……艶やかな金髪も……細いけど出ているところは出ている身体も……そして、自信満々な顔も何もかも絶世だった。
「…………リーシャ様、何をしているんですか?」
苦言を呈さなければいけない立場の子分もさすがに呆れている。
「今思うと、寝巻がないわね」
そりゃ、俺も風呂から上がった後に思ったけど、ないものはしょうがないだろ。
「あの、服を…………」
「どうせ寝るだけだもの。これでいい」
「あの、男性の目が…………」
マリアがチラチラと俺を見る。
「夫の前で肌を晒すことに問題が?」
「あっ……やっぱり……いえ、リーシャ様がそれでいいならいいです」
マリアは何かを察し、諦めたようだ。
「マリア、無視しろ」
俺はワインを手に取り、自分の分とマリアの分のグラスにワインを注いだ。
「はい……」
マリアはグラスを手に取った。
「美しいリーシャに」
「絶世のわたくしに」
「……下水に」
「「「乾杯」」」
俺達はグラスを掲げて乾杯した。
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