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廃嫡王子の華麗なる逃亡劇 ~手段を選ばない最強クズ魔術師は自堕落に生きたい~  作者: 出雲大吉
第6章

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第237話 スラム


 俺達が馬車で移動していると、徐々に住宅が少なくなり、道の舗装も悪くなり始めた。


『なんか臭うんですけど……』


 マリアが嫌そうに言う。


『シルヴィ……』

『最低。淑女としてあるまじきことだわ』


 俺とリーシャがマリアの隣に座っているシルヴィを非難した。


『最低なのはあなた達です……スラムに近づいてきたからですよ。汚いですし、不衛生です』


 うえー……


『でも、俺は何も臭わないな』

『私もね』

『御二人は亜空間にいらっしゃいますからね。匂いは遮断です』


 ラッキー。


『えー……じゃあ、臭いと感じるのは私だけですかー?』

『マリア様、私もですので一緒に耐えましょう』


 シルヴィはどうにでもなりそうだが、マリアは可哀想だな。


『布かなんかで口元を覆えば?』

『スラムの人に怒られますよ。臭いって言っているようなものです』


 事実じゃん。

 でも、逆上するかもしれんし、危ないか……


『マリア、我慢しろ』

『はーい……』


 匂いを遮断する魔法でも考えてみるか。

 こんなケースは滅多にないが……


 一行がそのまま進んでいくと、前方に柵が見えてくる。

 柵の向こうは舗装もなく、ぼろい家が立ち並んでおり、富裕層との差は歴然だ。


 一行は柵の所まで来ると、一度止まり、先頭の兵士が柵を見張っている兵士と何かを話し始めた。

 そして、話を終えると、一行は柵を抜け、スラムへと入っていく。


 やってきたスラムは予想以上にひどかった。

 というのも、その辺の建物の下には寝ているのか死んでいるかはわからない人達が横たわっているのだ。

 しかも、服はボロボロだし、やせ細っている。


『いや、こんなところは絶対に失くすべきでしょ』

『俺もそう思う』


 誰にとってもデメリットしかない。


『帰りたいですぅ……』


 マリアは嫌だろうなー……

 ただでさえ、荒くれ者恐怖症なのに。


『私がついておりますのでご安心を。襲ってきたら近づく前に眠らせます』


 シルヴィは頼りになるなー。


『お願いします……』


 マリアがシルヴィの裾を握ると、一行が広場の前に止まった。


「これより配給を行う! 並べ!」


 隊長がそう叫ぶと、どこからともなく、わらわらとみすぼらしい人達が集まってくる。

 スラムの人達は老若男女さまざまであるが、やはり皆、汚いし、ボロボロだ。


 兵士達は馬車から物資を取り出しては並んでいる人達に配っていっていた。


「子供や女性の方もいるんですね……」


 マリアが馬車から並んでいる人々を眺めながらつぶやく。


「色んなところから来ますからね」

「でも、危なくないですか?」

「危ないでしょうね。でも、他に選択肢がないんですよ」


 そうか?


『若けりゃいくらでも方法はあるだろ』

『皆が皆、旦那様のように強い人ではないんですよ。体ではなく、心がです。弱いから神に頼るのです』


 弱いのは頭だろ。

 さっさとこんな所を出て、他所の国に行けばいいのに。


 俺が嫌なところだなーと思っていると、物資を配っているところで若い女性が兵士と揉め始めているのが見えた。


「何でしょうか?」


 マリアも気付いたらしく、シルヴィに聞く。


「聞いてきましょうか?」

『シルヴィ、マリアから離れるな。注意を引き、後ろから襲うという罠かもしれん。お前、そこから聞けんか? 盗み聞きは得意だろ』

『お任せを』


 シルヴィが頷くと、揉めている若い女と兵士をじーっと見る。


『…………ふむふむ。どうやらお子さんがいなくなったそうですね』


 お子さん?

 随分、若く見えたが、母親だったのか。


『遊びに行ったんじゃねーの?』

『どうやら昨日の夜から行方知れずのようですね』


 治安が悪いからなー。

 生存は微妙なところだ。


『兵士は何て?』

『捜索はしてみると言っていますね…………まあ、しないでしょうけど』

『しろよ』

『しないというより、できないんです。スラムは犯罪者やヤク中が多いですし、下手に歩けないんですよ。いくら兵士でも危ないんです』


 そんなところで子供が行方知れずか……

 無理だな。


『こういうことはよくあるのか?』

『ありますねー。でも、教会も事件を把握できないんですよ。何しろ、年々、スラム街の人も増えていきますし、多分、スラムに何人いるかのすらも把握していないでしょうね』


 ヤバいな……

 地獄じゃん。


『こんなのが近くにあるなんて周辺国は大変だな』

『でしょうねー……あ、帰られましたね』


 シルヴィが言うように子供が行方知れずになったという母親はとぼとぼと帰っていっていた。

 その後も配給は続いていくと、ついには馬車の中が空になったため、隊長が終了を告げた。

 すると、まだ並んでいた人々から文句を言い出し、兵士達に詰め寄り始める。


「マリア、馬車の中に」

「はい」


 騒動を見たシルヴィが指示をすると、マリアが馬車の中に入った。

 そして、シルヴィが馬車の後ろの出入り口で控える。


『シルヴィ、どんな感じだ?』

『多少、揉めている程度ですね。兵士は剣を持っていますし、すぐに収まるでしょう。ですからウキウキしながら剣を持っているあたおか女を鎮めてください』


 そう言われたのでリーシャを見ると、剣を持って、薄っすら笑みを浮かべていた。


「リーシャ、お前の出番はない」

「つまんない……」


 やっぱりリーシャは隠密行動に向いてないな。

 基本、目立ちたがり屋だしなー。


『旦那様、隊長さんが来ました』


 シルヴィが念話で教えてくれると、隊長がシルヴィのもとに来ていた。


「どうしましたか?」


 シルヴィが隊長に聞く。


「どうも今回は中々収まりそうにない。我らが護衛するから先に脱出しよう」

「さっきの婦人ですかね?」


 さっきの子供が行方知れずになった母親か……


「おそらくそうだ。あの揉め事を見ていたから周りの者も不満が大きくなったんだと思う」

「そうですか……わかりました。戻りましょう」

「ああ」


 隊長は頷くと、兵を半分に分け、片方にスラムの人達の処理をさせ、もう片方が護衛となり、この場を脱出し始めた。

 行きは荷物があったため、ゆっくりだったが、帰りはそこそこのスピードで戻っていく。

 そして、スラムと富裕層の境界である柵まで戻ると、その場で待機することになった。


 しばらく待っていると、残りの兵士達も戻ってくる。


「マリア殿、数人ほどケガをしたのだが、神術を頼めるだろうか?」


 隊長が馬車にやってきて、マリアに頼んできた。


「はい。わかりました」


 マリアは頷くと、馬車を降り、ケガした兵士にヒールをかけていく。

 ケガ自体はたいしたことはなかったが、皆、顔に疲れが見えていた。


「ご苦労だった。普段はこんなことはないのだが、今日はタイミングが悪かったようだ。今日はもう帰っていいぞ」


 治療を終えたマリアに隊長が声をかける。


「シルヴィさん、どうしましょう?」

「お言葉に甘えましょう」


 そうしろ。

 リーシャがいまだに剣を離していないのが怖い。


「では、送らせよう。おい! 誰か送っていけ」

「はっ!」


 シルヴィとマリアは1人の兵士が操縦する馬車に乗り、寮に戻っていった。


お読み頂き、ありがとうございます。

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