第235話 ヒール!
マリアの回復魔法の腕がわかり、エドモン神父の部屋を出ると、シルヴィがさらに奥に歩いていく。
「兵士のところですか?」
マリアがシルヴィに聞く。
「ええ。訓練場です。そこでケガをした人に治療をしてもらいます。兵士は修道女には優しいので大丈夫ですよ」
優しくなかったら殺すけどな。
『シルヴィ、お前はせんのか?』
シルヴィに聞いてみる。
『できるわけがないじゃないですか。私、魔術師ですよ?』
『いや、修道服を着てるだろ』
『ものすごい勘違いをしているようですが、修道女は回復魔法を使える者だけじゃないですよ?』
そうなの?
「お前、知ってた?」
リーシャに聞く。
「知らない。てっきり回復魔法を使える人がなるものだと……」
だよな。
『全然、違います。教会関係者は神を信じる者です。別に回復魔法がなくても信者であればなれます。宗教ですからね。それにマルコさんにしてもパスカルにしても回復魔法は使えません』
あ、そうなんだ。
あいつら、司教や大司教のくせに使えないのかい……
『マリアは神を信じてたのか?』
『いえ、別に……腰掛けですもん』
そんな気はしてた。
すぐに信仰を捨ててたもん。
『と言ってるが?』
『いや、まあ、そういう人もいますでしょうよ…………あ、そろそろ着きますので旦那様はお静かに』
その言い方だと、俺がうるさいみたいじゃん……
俺が少しへこんでいると、通路の突き当たりに到着した。
突き当たりには大きな扉があり、中から複数の男の叫び声が聞こえている。
「ここですか?」
「そうですね。訓練中のようです。多少、うるさいと思いますが、我慢してください」
シルヴィがそう言うと、扉を開けた。
すると、男共の叫び声が大きくなる。
「うるさいわねー」
叫び声を聞いたリーシャが顔をしかめる。
「我慢しろ。訓練中なら仕方がないわ」
兵士はそういうもんだ。
「防音の魔法とかないの?」
「あるけど、それをしたら他の声が聞こえなくなる」
「ハァ……我慢するか」
リーシャが納得していると、シルヴィとマリアが訓練場に入っていく。
訓練場では数十人の兵士が一対一となり、木剣で戦っていた。
「隊長さんっ!」
シルヴィが大きな声で声をかける。
すると、兵士達の訓練を見守っていた男が振り向いた。
そして、シルヴィとマリアを見ると、こちらに向かってくる。
「何だ?」
隊長らしい男が近づいてくると、シルヴィに聞く。
「新しい神術の使い手を連れてきました」
シルヴィがそう言いながら両手をマリアの両肩に乗せた。
「おー! それはありがたい!」
「マリアと言います。よろしくお願いします」
マリアが自己紹介をする。
「うむ。よろしく! 早速ですまんが、ケガをした者がおるのだ。頼めるか?」
「はい」
「こっちだ」
隊長は1つ頷くと、訓練場の端で腰を下ろしている男のもとに向かった。
マリアとシルヴィもついていくと、隊長が男の前で腰を下ろす。
「マリア殿、この者が足をひねったのだ」
隊長が言うように男の右足首が腫れており、紫色に変色していた。
「わかりました」
マリアは頷くと、腰を下ろし、男の腫れている足首に手を掲げる。
「ヒール」
マリアが回復魔法を使うと、変色していた足首が元に戻っていき、腫れも治まっていった。
「うん?」
男は治った足首を触ると、動かしていく。
そして、立ち上がった。
「もう大丈夫です」
「うむ。ならば、訓練に戻れ」
「はっ! ありがとうございます!」
男は隊長に敬礼をすると、マリアに感謝をし、訓練に戻っていく。
「こんなに早く治るとは……マリア殿は素晴らしい神術をお持ちのようだ。感謝する」
「いえ、これが私の仕事ですので……」
「そうか。では、今日一日、頼む」
隊長はそう言うと、訓練している兵士達のもとに戻っていった。
「え? 今日一日、ここ?」
リーシャが嫌そうに聞いてくる。
『シルヴィ』
『はいはいー。今日はここです』
『ハァ……つまんない』
リーシャがわがままに戻っている……
やはりこいつはじっとさせているのはダメだな。
「マリア、ここで見ていましょう。ケガをした者が来ますので先程と同じように神術を使って、治療してください」
「わかりました」
シルヴィとマリアはその場で腰を下ろし、兵士達を見守っていく。
すると、結構な頻度で兵士達がやってきた。
ケガは先程の男のように足をひねったり、打ち身など様々だが、マリアが回復魔法で治療するたびにすぐに訓練に戻っていっている。
やる気というか、士気は高そうだった。
「リーシャ、こいつらはどうだ?」
俺は兵士の訓練を眺めながら暇そうに俺にもたれかかっているリーシャに聞く。
「どう、とは?」
「兵士の練度だ」
大事な敵の情報を仕入れておかないといけない。
「治安維持隊としては良いと思うわ。でも、軍隊としてはダメ」
「なんでだ?」
「一対一だもん。戦争は軍隊対軍隊。一対一になることなんてない。まあ、戦争なんてしたことがないでしょうし、こんなもんでしょう。エーデルタルトの敵ではないわ」
聞いておいてなんだが、こいつは軍の評価もできるらしい。
マジでクーデターを企てていないだろうか?
「個々としては強いわけか?」
「そうね。そこそこでしょう。それに士気が高いわ。さすがは宗教って感じ」
なるほどなー。
戦う目的が金ではなく、信仰なわけだ。
『マリアー、魔力は大丈夫かー?』
マリアはさっきからかなりヒールを使っている。
『このくらいは大丈夫ですよー。エーデルタルトでもやっていました』
『そうかー。無理はするなよ…………シルヴィ、もしかして、マリアってすごいのか?』
さっきから治してもらった兵士達が驚きながらマリアに礼を言っていた。
『ええ。普通はこんなに早く治りませんし、連続で使えません』
そうなのか……
『いつも普通に使ってたから知らんかった。優秀なヒーラーだったんだなー』
『あなたってすごいのねー』
俺とリーシャがマリアを称賛する。
『庶民の聖女ですから!』
そういや、優秀だったから教国に行く予定だったな。
『まあ、無理をしない程度に頑張れ』
『はーい。でも、飽きました』
俺達もだよ。
マリアはその後もケガをした兵士達の治療を日が暮れるまで続けた。
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