第234話 マリアって実はすごかったらしい
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
シルヴィと共に寮の部屋へ戻った俺は先程のシルヴィとパスカルの会話をリーシャとマリアに伝え、一息つく。
そのまましばらく休んでいると、夕食の時間になったため、マリアとシルヴィが寮の食堂に行くために部屋から出ていった。
「私達はどうする?」
「シルヴィが買ってきてくれるんだと」
「ふーん。この町だとあまり期待はできそうにないわね」
俺とリーシャがそのまましばらく待っていると、マリアとシルヴィが戻ってくる。
「おかえり。食堂はどうだった?」
「友達はできた?」
俺とリーシャは親のようなことを聞く。
「いやー、私語厳禁だそうで無言です。ただでさえ、パンと豆のスープだけなのに無言の空間だったせいで非常に美味しくないご飯でした」
それは嫌だわ。
「エーデルタルトの教会でもそんな感じだったのか?」
「まさか。皆、ペチャクチャしゃべってましたよ。あんなに人がいるのに無言だと非常に嫌でした」
全員、修道女だろうし、葬式に見えるな……
「旦那様、リーシャ様。食事を買ってきました。マリア様もあれだけでは足りないでしょうからどうぞ」
シルヴィがテーブルに買ってきた食材を置く。
「パンと干し肉とドライフルーツか……」
携帯食料だな。
「料理をする設備がないんですから仕方がありません。不満なら缶詰でも出してください」
「そうするか……」
俺はカバンから缶詰を出し、テーブルに置いた。
そして、4人で夕食を食べだす。
「缶詰もいよいよ少なくなってきたなー」
「ジャックに買ってこさせましょうよ。ジャックは飛空艇に乗れるわけだし」
なるほど。
さすがはリーシャ。
賢い。
「帰ったら頼むか……」
「Aランク冒険者に頼むことじゃないですけど、良いと思います」
マリアも同意らしい。
「食事を終えたら早めに休んでくださいね。私は少し仕事をしてから休みますので……あ、鍵はかけておいてくださいね。私も合鍵は持っていますので」
働き者だな。
「いってらっしゃい」
「では、良い夜を……」
シルヴィは恭しく頭を下げながらそう言うと、部屋から出ていった。
「食事が終わったらさっさと風呂に入って寝るか……」
「いくら防音の魔法があるとはいえ、あまり騒ぐわけにはいかないしね」
俺達はさっさと休むことにし、久しぶりに3人で寝ることにする。
そして、翌日。
朝起きると、すでにシルヴィが起きており、メイド服で朝食の準備をしていた。
「早いな……昨日も遅かっただろうに」
俺はベッドで上半身を起こしながらつぶやく。
「主より後に起きるメイドは失格ですよー。ちゃんと早起きして準備をしないといけません」
根本的な話だが、こいつはメイドなんだろうか?
マネをしているカトリナですらメイドではないのに……
「お前、隠密だろう」
「命じられればそういう仕事もしますけど、今は旦那様専属のメイドですねー」
雇った記憶はないんだけどな。
まあ、便利だからいいけど。
「昨日の仕事は何だったんだ?」
「穏健派の活動の調査です」
二重スパイって大変だな。
単純に仕事量が二倍になるし。
「穏健派は信用できるか?」
「信用できるかできないで言えば、できないでしょうねー。ただ、過激なことをしないという思想で集まった派閥ですので下手なことをすると、さらに分裂しますから動けないでしょう。適当に首輪で繋ぐのが理想かと……」
やはりそうなるか……
「わかった。ヒラリーに言っておく」
「そうしてください。それと朝食の準備はできておりますので奥様方を起こしてください。初日から遅刻はマズいですよ」
「それもそうだな……」
俺は隣で寝ているマリアを起こすと、次にマリアと共にリーシャを起こした。
全員が起きると、朝食を食べ、準備をする。
そして、準備を終えると、俺とリーシャはマリアの影に入った。
「あら? 広いわね」
影の中に入ると、リーシャが言う。
「ちょっと広くしたんだと」
「ふーん……」
リーシャは思案顔になると、少し腰を上げ、俺のすぐ近くに座った。
「いや、広くした意味は?」
「別にいいでしょ。不満?」
「別に」
こいつ、美人だなー。
『うぜっ……私の魔力を返せ』
シルヴィが素でイラついているのがわかる。
『いいから出発しろ。遅刻するぞ』
『そうよ。マリアは無遅刻無欠席だったのよ』
そうだ、そうだ。
『御二人は絶対に皆勤賞ではないでしょうねー……』
『正解でーす』
うっさい、マリア。
『いいから行け』
「では、マリア、私についてきてください」
「はい」
シルヴィとマリアは頷き合うと、部屋から出ていく。
そして、階段を降りると、寮から出た。
「こっちです。まずは昨日言った通り、回復魔法…………いえ、神術の検査からになります」
回復魔法という言葉は使わんか。
神術を使えるようになったら魔法が使えなくなるという性質上、教会は魔法が嫌いだからな……
「どこに行くんです?」
「大聖堂です。神父様が見てくださいます」
シルヴィはそう答えると、大聖堂に向かう。
すぐ近くの大聖堂に入ると、パスカルの部屋がある方向とは逆の左に歩いていった。
そして、とある部屋の前で立ち止まると、シルヴィがノックをする。
「エドモン神父。新人のマリアを連れてきました」
『どうぞ。入ってくだされ』
中からかなり年配の男の声が聞こえてきた。
入室の許可を得たシルヴィはマリアと共に部屋に入る。
部屋の中はデスクと椅子、それに簡易のベッドがあるだけの診療所みたいなところだった。
そんな中、デスクの前に座っている白髪に白い髭を生やした爺さんがマリアを見てくる。
「はじめまして、マリア嬢。私がエドモンです。どうぞ、お座りくだされ」
エドモンが自分の前の椅子に座るように勧めてきた。
「……失礼します」
マリアが爺さんの前に座る。
おかげで俺とリーシャはエドモンとマリアの間の下にいることになる。
「エドモン神父。マリアの神術の腕を診てほしいのです」
「わかっています。マリア嬢、失礼」
エドモンはそう言うと、マリアの手を取った。
すると、マリアがものすごく嫌な顔をし、少し手を引く。
そして、俺の隣にいるリーシャが剣の柄を掴む。
『マリア、我慢しろ。リーシャ、やめろ』
俺はすぐに念話で2人を止めた。
「なんでよ? 既婚者に触れるなんて最低よ」
リーシャが剣を掴んだまま文句を言ってくる。
「いいから」
『リーシャ様、大丈夫です』
マリアもリーシャを止めた。
「不快でしたかな? それは申し訳ございません」
エドモンが謝ってくる。
「いえ……神父様、あなた、目が……」
「ええ。昔、事故でね……」
俺はすぐに気づいた。
この爺さんはマリアを見ていたのに焦点が合っていなかったのだ。
「目が見えないの?」
リーシャが聞いてくる。
「ああ。だが、魔力で見ているな……」
マリアの手を取れたということはそういうことだろう。
だが、ヒーラーの回復魔法にそんな魔法があるか?
エドモンはマリアの手を握ったまま、動かない。
「エドモン神父、どうでしょう?」
シルヴィが動かないエドモン神父に聞く。
「うーむ……私程度では底が見えませんね…………かなりの魔力をお持ちのようだ。シルヴィア、マリア嬢なら大抵の仕事はできるでしょう」
エドモンはそう言うと、手を離した。
「そうですか。ありがとうございます」
「いやいや。私にはこれくらいしかもうできませんからね」
エドモンが首を振る。
「そんなことありませんよ。エドモン神父は立派です」
「世辞でも嬉しいよ…………マリア嬢、頑張ってください」
エドモンがマリアに頭を下げた。
「いえ。失礼をしました」
「それは私が悪いのです。つい癖で……実は元々医者で、そういう医療系の仕事もしているのですよ」
お医者様らしい。
だからこんな診療室みたいなところにいるのか……
それにナチュラルに女性の手を掴めるのも診療を生業とするお医者様だからだろう。
「神父をしつつ、医療の仕事をなされているのは立派だと思います」
「ありがとうございます。何かあったら来てください。簡単な薬は出せます」
「ありがとうございます」
マリアが頭を下げる。
「では、エドモン神父、私達はこれで」
シルヴィがそう言うと、マリアが立ち上がった。
「ええ。頑張ってください」
エドモンがそう言って、微笑むと、マリアとシルヴィは部屋を出ていった。
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