第023話 普通って素晴らしい
冒険者ギルドを出た俺達はブレットが勧めてくれた小鳥亭とかいう宿屋を目指して歩いていた。
「確かにベテランって感じだったわね」
歩いていると、リーシャが先ほどのやり取りの感想を漏らす。
「まあな。ああいう臣下が欲しいね」
「あのー、ロイドさん……いえ、宿に着いてからにします」
マリアは何かを言いかけたが、途中で止めた。
表では話せないことなのだろう。
俺達がそのまままっすぐ歩くと、鳥の絵が描かれた看板が見えてきた。
俺はここで間違いないだろうと思い扉を開け、中に入る。
建物の中に入ると、受付らしきところに若い茶髪の女の子が書き物をしながら座っていた。
「ここは小鳥亭で合っているか?」
俺は受付まで行くと、何かを書いている女に声をかける。
「あ、いらっしゃいませー! ここは小鳥亭で合ってます。宿泊のお客様ですか?」
女はハッとして顔を上げると、営業スマイルで聞いてくる。
女は多分、俺らと年齢はそう変わらないと思う。
可愛らしい見た目をしているが、マリアには劣る。
だが、都会の女らしい華やかさがあった。
「マリア、俺の言いたいことがわかったか?」
「どうせ、田舎娘ですよー……ぶどうですよー……」
マリアが拗ねた。
まあ、どう考えても俺が悪い。
「あ、あの、お客様……?」
宿屋の女は意味のわからない俺達のやり取りに困惑しているようだ。
「悪い。こっちの話だ。泊まりたいんだが、空いているか?」
「はい。3名様ですね? 個室でしょうか? 3名様用の大部屋でしょうか?」
宿屋の女はすぐに切り替え、聞いてくる。
「いくらだ?」
「個室が銀貨4枚で3人部屋が銀貨6枚です」
やはり3人部屋がお得だな。
「3人部屋でいい」
「かしこまりました。ちなみに、お風呂付の3人部屋は銀貨8枚ですけど、どうされます?」
女がそう言った瞬間、後ろからグイグイと引っ張られた。
リーシャとマリアの両方だ。
「風呂付にしてくれ」
「わかりました。食事はどうされますか? お任せコースの朝晩セットで銀貨1枚プラスです。3名なので銀貨3枚ですね」
銀貨11枚……つまり金貨1枚と銀貨1枚か。
「それでいい。ワインもくれ」
「銀貨3枚追加ですけどよろしいです? 安いのだったら1枚ですけど」
「3枚のワインでいい」
今日だけだから贅沢しよう。
しかし、銀貨3枚で贅沢なのが悲しい……
マリアが配ってたワインなんか金貨30枚らしいのに。
「かしこまりました。夕食は今の時間ならいつでもいいですのであちらの食堂に行ってください。朝も同じ場所です」
女はそう言って、右奥を指差す。
「わかった」
俺は了承すると、金貨2枚を受付に置いた。
「ありがとうございます。では、銀貨6枚のお返しです。食事やワインを追加注文される場合はその都度でお願いします」
女はそう言って、おつりの銀貨6枚を渡してくれる。
「ああ。荷物を置いたらすぐに食べたい…………いいか?」
俺は一応、後ろの2人にも確認する。
「私も食べたい」
「ですです。歩きっぱなしでしたし、たいした量を食べてませんし」
「そういうわけだ」
「かしこまりました。では、こちらが部屋の鍵になります。左に進んでもらい、3番のお部屋になります」
女が鍵を渡してきた。
鍵があるのは嬉しい。
正直、期待してなかったし。
「はいよ」
俺は鍵を受け取ると、左に進み、3番の部屋の前に来た。
そして、鍵を使って、扉を開き、中に入る。
「まあ、そこそこだな」
部屋の中はベッドが3つあり、丸テーブルと椅子が3脚置いてある。
「ぼろっちいけど、老舗らしいし、仕方がないでしょうね」
「あなた方って貶さないと生きていけないんです? 普通に良い部屋じゃないですか」
いや、そんなことはない。
普通に感想を言っただけだ。
「まあ、何でもいいわ。ベッドがあるだけで楽園」
「お風呂もあるから天国ね」
ホント、ホント。
「そうだ……やっとお風呂に入れる……ベッドで寝れる……」
うんうん。
これまで辛かったな。
「その前に飯にしようぜ」
「そうね」
「人前で貶さないでくださいね」
しねーわ。
俺達は荷物を部屋に置くと、再び、受付に戻り、そのまま奥に行った。
奥は確かに食堂になっており、テーブルと椅子のセットがいくつか置いてある。
「適当なところに座ってちょうだい」
テーブルを拭いていたおばさんが俺らに気付き、声をかけてきた。
「どこでもいいのか?」
「まだ他のお客さんがいないからね」
確かにいない。
ちょっと早かったか。
まあ、他の宿泊者に遭遇したくないし、好都合と言えば好都合だ。
「ふーん」
俺は適当なテーブルに行くと、椅子に座る。
すると、リーシャが俺の対面に座り、マリアがその隣に座った。
「お任せとワインのお客さんで良かったかい?」
おばさんが俺達のテーブルにやってきて聞いてくる。
「そうだ」
「はいよ」
俺達がそのまま待っていると、おばさんがワインとグラス3つを持ってきた。
そして、すぐに料理も持ってくる。
料理はサラダ、スープ、肉、パンだった。
俺はまず、ワインを開け、グラスに注ぎ、2人に渡す。
そして、自分の分も注ぐと、グラスを持って掲げた。
「地獄からの生還に」
「生きる喜びに」
「平和に」
「「「乾杯」」」
俺達はワインを飲み、料理を食べだした。
「ふむ。朝晩で銀貨1枚だから安物なんだろうが、まあまあだな」
「そうね。でも、暖かい料理ってだけで十分よ」
「ホントな。涙が出そう」
うん、美味い。
「素直に美味しいって言いましょうよー」
「マリアの家のワインより美味いな」
ワインをぐいー。
「こんな銀貨3枚の泥水とウチのワインを比べるなー!」
マリアが怒った。
さすがはぶどう令嬢だ。
プライドがすごい。
「冗談だよ。干し肉やドライフルーツも悪くなかったが、やはり食事はこうでないとな」
バランスが大事。
「うん。美味しい」
リーシャも満足そうだ。
まあ、狼肉を食べた俺達にとっては何でもご馳走である。
「最初から素直にそう言いましょうよ」
あくまでも素直な感想を言っただけ。
俺達は久しぶりのような気がするまともな食事とワインを堪能していった。
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