第216話 夜
披露宴用の服に着替え、城に戻った俺達は城の中の会場で披露宴を行った。
と言っても、食堂で飲み食いしただけだ。
披露宴という名だが、披露するのは伯父上、伯母上、マイルズ、ヒラリーの4人だけ。
エーデルタルトの王族の披露宴としてはありえないくらいの小規模だが、これは仕方がないことだし、親族の4人が心から祝ってくれたことは嬉しかった。
俺達は夜まで騒ぎ、幸せを分かち合うと、自室に戻った。
「あー、終わった、終わった。疲れたわー」
俺はテーブルにつくと、持って帰ったワインをグラスに注ぐ。
「あ、私もちょうだい」
「私もー」
リーシャとマリアも座ると、ワインを要求してきたので2人のグラスにもワインを注いだ。
そして、俺達はグラスを掲げる。
「幸せに」
「リーシャ・ロンズデールに」
「じゃあ、マリア・ロンズデールに」
「「「乾杯」」」
俺達は本日、何度目になるかわからない乾杯をすると、ワインを飲み始めた。
「お前ら、飲みすぎじゃないか?」
さっきまでやっていた披露宴ではかなり飲んでいた。
「今日くらいは飲むわよ」
「そうですよ。今日飲まないでいつ飲むんですか」
「まあ、好きにしろ」
二日酔いで明日死んでも知らんぞ。
「殿下、下水などと不名誉なあだ名があるわたくしですが、よろしくお願い致します」
「ロンズデールの名に恥じないように致します」
リーシャとマリアがグラスを置き、頭を下げてきた。
「ああ……リーシャ、マリア。お前らは器量が良いし、望めば、他のところに嫁ぐことでもできただろう。それなのにこんな遠いところまでついてきてくれて感謝する。また、こんな俺と人生を歩んでくれることにも感謝する」
俺がそう言うと、リーシャとマリアが顔を見合わせる。
「い、いえ。当然のことです」
「そうです。殿下以上の御方はおりません」
2人は頬を染めながら返事をしてきた。
うーん、シルヴィはすごいなー。
披露宴で伯母上に感謝の言葉を伝えたら泣いてたし……
「これからもよろしく頼むぞ」
「はい!」
マリアが返事をすると、リーシャが指にはめている指輪を見る。
「殿下と出会って14年……長かった」
泣いてるし……
「14年は長いですねー」
マリアがリーシャを慰める。
「まあ、私が覚えているのがよ。本当はもっと長いわ」
俺は4歳の頃なんか一切、覚えていない。
「すごいですね」
「まあね…………しかし、これで陛下とイアン殿下を亡き者にすれば、私が王妃か……」
「すごい不忠者ですー……」
ホントな。
ひっどい。
俺の感謝の言葉を返せ、下水。
「ロイド、冗談はともかく、これからどうするの? やっぱり陛下が亡くなるまではここ?」
あまり冗談には聞こえなかったがな……
「それだ。実はお前達には伝えてなかったことがある」
「そうなの?」
「ああ。まずだが、伯父上を呪った奴はすでに判明している」
式を控えていたリーシャとマリアにはこの辺のことを一切、伝えていないのだ。
「え? そうだったんですか? でも、なんで隠すんです?」
「そうね。言っても問題ないどころか、こちらも安心できることでしょう?」
「その辺を説明しよう。まずだが、犯人は伯父上の部屋にいたメイドだ。捕らえたのだが、自害した。毒専門の呪術師らしいが、最後は自分に毒の呪いを使ったらしい」
これは医者とラウラの検死でわかったことだ。
「本格的な暗殺者ね」
「でも、なんでメイドが?」
マリアが首を傾げる。
「それだ。当然、単独犯ではない。裏にいるのは教国だ」
「教国……」
「またですか……」
2人が嫌そうな顔をした。
「ミレーで奴隷狩りに会ったな? あのレナルド・アーネットは教国が雇った刺客だそうだ」
「ああ……だからあのレベルの剣士が奴隷狩りなんかをしてたのね。変だと思った」
リーシャが納得といった感じで頷く。
「狙いは俺の首だな。どうも俺は教国に恨まれているか邪魔だと思われているっぽい」
「ロイド、その辺のことを誰に聞いたの?」
あー……リーシャが勘づいた。
まあ、こればっかりは仕方がない。
「シルヴィだ」
「……あの泥棒猫か」
リーシャが顔をしかめる。
本当に嫌いなんだろう。
「あのー、シルヴィって、エイミルとジャスで暗躍していた魔術師ですよね? 大丈夫なんです? そもそも、その人も教国の人間では?」
「それもそうね。殺すべきよ」
リーシャがマリアに便乗してシルヴィを殺そうとしている。
「殺さないっての」
「殺すべきよ。あの女のロイドを見る目は最悪。エイミルの宿屋からずっと思ってたわ。媚び媚びで男を奪う女の匂いがする」
カトリナに化けてた時ね。
「その辺はひとまず置いておく。とにかく、シルヴィは問題ない。それはお前だってわかっているだろう」
「チッ!」
すげーこえー。
「あのー、問題ないんですか?」
マリアがリーシャにビビりながら聞いてくる。
「まあな。あいつ自身はどうでもいい。問題は教国が俺を狙っているということ。それと俺が廃嫡になった理由に教国が関わっているかもしれないということだ」
「ん? どういうこと?」
不機嫌だったリーシャが顔を上げて聞いてくる。
「シルヴィにそう言われた。教国に行って、確かめてこいってさ」
「…………教国が? なんで……エーデルタルトとは関係ないはず……」
リーシャが悩みだす。
「殿下、教国に行かれるんですか?」
「そのつもりだ。俺が廃嫡になった云々はひとまず置いておくとしても俺の命を狙っているのならば、どうにかしないといけない。明日、シルヴィとヒラリーとその話をする。先に聞いておくが、俺が教国に行くと言ったらお前らはどうする?」
「そりゃついていくわよ」
「私も」
まあ、そうなるわな。
「マリア、大丈夫か?」
マリアはそもそも教国に行く予定だったのだが、俺達が巻き込んだことと待遇が悪そうなのでやめた経緯がある。
「あー……そういえばですけど、私ってその辺がどうなっているんですかね?」
どうだろう?
「さあ? シルヴィに聞いてみるかな……」
「そうしましょうか」
「まあ、明日だな。ほら、飲め、我が妻よ」
俺は空になったマリアのグラスにワインを注いだ。
「おー、夫さん、ありがとうございます」
マリアは上機嫌でワインを飲む。
ふと、リーシャが静かだなと思って、リーシャを見ると、何かを考えているようだった。
「どうした?」
「…………いえ、やはりロイドの足元に剣を突き刺してみようかと」
「物騒なことを言ってないで飲め、1号」
会話に加わらず、怖いことを考えていたリーシャにワインを勧める。
「そうね」
俺達は翌日の二日酔いのことを気にせずに夜遅くまでワインを飲んでいった。
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