第213話 準備
教国のことを一旦、保留した俺のその日以降は結婚式の準備ばかりだった。
昼は準備をし、夜は俺が渡した文を読んでいる2人にはとても言えないが、非常にめんどくさい。
この日は水の神殿を取り仕切る巫女が戻っていたということでリーシャとマリアは伯母上と共に巫女に話を聞きにいっていた。
俺はというと、自室に残り、テーブルでお茶を飲みながら式での決めごとをまとめた紙を読んでいる。
「ロイドさー、結婚式が嫌なのはわかるけど、もう少し楽しそうにしたら?」
部屋に遊びに来ている従弟のマイルズが呆れたように言ってきた。
「楽しいわけないだろ。心底、興味ない」
「ひどい夫だなー」
「お前も興味ないだろ。というか、興味がある男がこの世にいるのか? 言っておくが、数年後にはお前も同じ目に遭うんだぞ」
そもそも俺はエーデルタルトにいた時からこういう式典やパーティーなんかが嫌いだった。
もちろん、王太子として出席しないといけないから文句も言わなかったし、真面目に出席していた。
だが、好きか嫌いかで言えば、嫌いである。
時間の無駄としか思えない。
「いや、まあ、そうだけどさー。ロイドはひどすぎ。夕食時に母上や父上が話を振っているのにやる気のなさが僕にまで伝わってきているよ?」
俺達がここに来てから夕食はこいつらと食べている。
ここ数日は伯父上もかなり回復したため、一緒に食べているのだが、話題はやはり結婚式のことだ。
「ちゃんと返事はしているし、決めごとも考えているわ」
「いや、その嫌そうな顔がすべてを物語っているよ…………ねえ、知ってる? この前さ、母上の部屋でリーシャさんとマリアさんが衣装のことを話していたんだけど、もうひたすら母上が2人に謝っているの。あの子は早くに母親を失くしてーとか自分の教育がーとかさ」
関係ねーよ。
「2人は何て?」
「全然、関係ないって言っていた。元々、こういうことに興味を示さないし、期待もしていないってさ」
「ふーん、よくわかってんじゃん」
まさしく、その通りだ。
「いや、マズくない?」
「リーシャは幼いころから知ってるし、マリアにしても貴族学校の同級生だ。そして、長い間、旅をし、苦楽を共にしてきた。だから俺がこういう行事に興味がないのはわかっているんだよ。そんな俺が積極的に関わるって? 嘘くささがやべーだろ」
「まあね。ロイドがそんな感じだったらきっと後ろめたいことがあるんだなって思う」
遠い国のこいつですらそう思うんだ。
2人はもっと思うだろう。
「マイルズ、俺はお前と同じ王太子だったから外の者にはちゃんとしてきた。だがな、リーシャの前では常に本音でしゃべってきたんだ。それはあいつも同じだ。絶世と呼ばれていたが、裏では下水だからな。そんな関係だからこそ、今回も本音を言うことにしたんだ」
うわべだけの夫婦はよくないと思う。
「ふーん……そうなの?」
マイルズが俺の後ろに控えているシルヴィに聞く。
「最初は頑張ろうとして、衣装の本をご覧になられていたのですが、すぐに本を閉じて、項垂れながら『わからん……』とつぶやかれました。それを見ていたリーシャ様とマリア様がそっと旦那様の肩に手を置き、自分達が決めると言われておりましたね」
だって、わからないんだもん。
自分の衣装もあいつらの衣装もわからん。
興味とか関係なく、わからないのだ。
「マイルズ、お前はそういうセンス的な勉強もしておけよ。魔法に傾倒した俺はもう手遅れだ。俺が衣装を見て思ったのはこれはちょっと過激だなとこれは布が多いな、だ。あと、白い」
それしか感想が出てこなかった。
「ロイドって、人を褒めることないの? ほら、髪型とか変えた時にさ」
「ない」
うん、ない!
「断言しちゃった……しかも、即答。文句を言われたことないの?」
「お前に魔法の言葉を教えてやろう。100点より上はないのだ」
それを言えば、リーシャはすぐに顔を逸らす。
「あのあたおか女がチョロ女で良かったですねー。普通はキレますよ」
だろうな……
「ふっ……シルヴィ、今日は綺麗だな」
「…………旦那様、大変失礼ですが、嘘くささがやべーです。いつも顔しか見てないくせにとしか思えません」
ほら、こうなる。
「マイルズ、こうはなるなよ? お前はまだ時間がある」
「うん。ロイドに会えて良かったよ」
いい言葉が台無しだ。
「旦那様。あたおか女、マリア様、リネット妃が巫女さんを連れて、こちらに向かっておりますので私はこれで失礼します」
シルヴィは扉の方を見てそう言うと、俺の足元に沈んでいき、姿を消した。
リーシャはカトリナの顔をしたシルヴィを嫌っているため、シルヴィはリーシャと会うのをなるべく避けているのだ。
でも、だからと言って、俺の足元に隠れないでほしい。
こいつ、たまにイタズラで俺の足を掴んでくるし……
めっちゃ怖い。
「ロイドのシロウトメイドさんって変な人だねー」
その名で呼ぶな。
なんか本当に後ろめたくなるから。
「マイルズ、お前は後学のためにここにいる。けっして、俺の愚痴を聞くためじゃないぞ」
「わかってるから念を押さなくてもいいよ」
マイルズが呆れていると、ノックの音が部屋に響いた。
「どうぞ」
俺が入室の許可を出すと、シルヴィが言っていた通り、リーシャ、マリア、伯母上の3人と共におばさんが部屋に入ってくる。
「あら、マイルズ、いたんですか……」
伯母上がマイルズに声をかけた。
「うん、ちょっとね。ロイド達の結婚式に興味があったから」
マイルズは打ち合わせした通りに答える。
「そうですか……ロイド、式の日取りが決まりました」
伯母上は疑っている目でマイルズを見ていたが、すぐに本題を告げてきた。
「いつ?」
「3日後です。準備はいいですか?」
俺に聞かれても……
「リーシャとマリアの準備ができているのなら大丈夫です。早くしましょう」
「あなたはそんなに嫌なんですか?」
なんでそうなる……
「普通、早くしたいって言ったら楽しみって取らない?」
「残念ながらそうは聞こえませんでした」
まあ、俺もそういう風に言ってない。
「あっそ。まあ、式云々は置いておいてもさっさと結婚したいと思っているのは本当ですよ。マリアはともかく、リーシャは待たせ過ぎましたから」
「そうですか……」
伯母上が深く頷いた。
『旦那様、今のお言葉は大変にグッドですよ!』
急に俺の耳にシルヴィの言葉が聞こえてきた。
だが、この場にいる誰もそれに対する反応をしていない。
念話か……
器用な奴だなー……
『ほら、あたおか女を見てください。涼しい顔をしていますが、耳が赤い……あ、やべっ』
シルヴィが茶化していると、何かに勘づいたリーシャが俺の足元を睨む。
変な能力者ばっかりだな……
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