第203話 奴隷狩り
俺はリーシャとティーナと共に森を出ると、まっすぐ奴隷狩り達のところに向かっている。
「ティーナ、ロイドが話すからあなたは下がっているのよ?」
リーシャがティーナに忠告した。
「それは良いけど大丈夫? ロイドって剣を持ってないけど……」
剣なんていらねーわ。
「俺は魔術師だぞ? 別に前に出たかったら出てもいいけど、俺の魔法に巻き込まれても恨むなよ」
「大人しく下がってる……」
「そうしろ。あと、弱そうなふりをしてろ。人間っていうのは弱い相手には饒舌になるから」
「うん……わかった」
よしよし、俯いているティーナはかなり弱そうだ。
俺達がそのまま歩いていくと、奴隷狩り共も俺達に気付いたようで立ち上がった。
そして、俺達に近づいてくる。
この距離になっても特別な魔力は感じないし、あいつらの体つきから見ても魔術師ではなく、剣士だろう。
俺達と奴隷狩り共が互いに歩いて近づいていると、ある程度の距離で立ち止まった。
「冒険者か?」
俺は6人の奴隷狩り共に聞いてみる。
「ああ、そうだ。お前らも森で仕事か?」
1人の男が代表して答える。
男達は6人だが、全員、たいした装備ではない。
だが、1人だけ、金属鎧の男がおり、後ろでぼーっと立っていた。
「俺達は仕事を終えた帰りだ」
「ふーん、珍しいものを連れているな?」
もの、ねー……
「この獣人族か? 森で迷子になっていたのを拾った。ギルドに預ければいいだろ」
「俺らが代わりにやってやろうか?」
優しい!
「ふーん、お前ら、奴隷狩りか?」
「ふふ……実はそうなんだ。譲ってくれんか? 多少なら謝礼も払うぞ」
謝礼はこの剣だーって言って斬りかかってきそう。
「こんなのが売れるのか?」
「…………こんなのって」
ティーナが小声で文句を言う。
「売れる売れる。獣人族は俺達人族より頑丈なんだ。それに見た目的にも高く売れるだろう」
金貨20枚なのに?
いや、ティーナに男性経験があるのか知らんから実際は30枚かもしれないけど。
「どこに売るんだ? やはりテールか?」
「おや? 詳しいな」
「俺達はテールの出身なんだ。テールには奴隷が多いからそう思っただけだ」
テール出身とか嘘でも言いたくないけど、仕方がない。
「なんだ……同郷かよ」
やはりテールか。
「そうなのか……」
「ここだけの話、テールは国を挙げて奴隷集めに力を入れているからな」
ホント、ロクでもない国だわ。
滅んでしまえ。
「ふーん、まあ、こんな犬は譲ってもいいんだが……」
でも、ここだけの話をした時点で生きて帰す気はないだろうな。
「素直だねー。お前だってそんな良い女を好きにしたいとは思わんのか?」
俺はそう言われて、チラッとティーナを見る。
うーん、可愛らしい子だとは思うが、めんどくさそう……
「思わんなー。というか、妻がいるし」
「ふーん……」
男はチラッとリーシャを見た後にわずかにほくそ笑んだ。
死刑決定。
「では、この獣人族をいくらで買うんだ?」
「そうだなー……」
男はにやけながら考え始めると、腰の剣に手を伸ばした。
その瞬間、リーシャが目にもとまらぬスピードで踏み込む。
だが、リーシャが振った剣は男に届くことはなかった。
男の前には後ろにいたはずの金属鎧の男がおり、リーシャの剣を自らの剣で受け止めていたのだ。
「な、なんだぁ!?」
守られた男は現状を理解できていない。
そうしているうちに金属鎧の男がわずかに動く。
「リーシャ!」
俺がリーシャの名を呼ぶと、リーシャがバックステップで俺の後ろに下がった。
それと同時に俺は男達に手をかざす。
「炎よ!」
俺の手から火が噴き出すと、あっという間に一面に広がり、すべてを焼き尽くしていった。
「前に出ていないでよかったー……」
俺の火魔法の威力を見たティーナがホッとする。
「お前がいたら使わんわ。尻尾が焦げるだろ」
「私の価値は尻尾だけかー……」
冗談だっての。
「ロイド、下がって……」
リーシャが前を向きながらつぶやく。
「ん?」
「まだ1人生きてるわ」
は?
これは上級の火魔法だぞ。
俺がそんなバカなと思っていると、炎の中からさっきの金属鎧の男が出てきた。
「魔術師だろうとは思っていたが、ここまでとはな……」
金属鎧の男は俺の火魔法を受けたのに平然としている。
「チッ! 良い鎧だな」
「これは対魔法に特化した鎧だ。エルフの森に行くんだから用意はする」
用意はするって簡単に言うが、俺の火魔法を防ぐ性能がある鎧なんて伝説級の防具だろ。
俺の魔法はそんなに甘くないのだ。
「ならば、そんな用意も潰す魔法をくれてやる」
俺は男に向かって、手をかざし、フレアを使おうとする。
だが、魔法が発動する前に男が踏み込んできた。
「チッ!」
「魔術師は魔法を発動させる前に斬ればいい」
男はそう言って、剣を振ってくる。
だが、男は途中で止め、慌てたように下がった。
何故なら、横からリーシャが斬りかかったからだ。
「速い……」
剣を躱されたリーシャがつぶやく。
「それはこちらのセリフだな。貴様ら、何者だ? 魔法の質といい、剣の振りといい、無名の冒険者とは思えん」
「あなたに名乗る名などないわね。ティーナ、ロイドを下げなさい」
リーシャがそう言うと、ティーナが俺の首根っこを掴み、引きずり始める。
「ロイドー、下がってー」
「下がらんでも問題ない。俺は斬られたところでダメージなんかない」
「黒魔術はやめてねー」
何故わかった?
叔母上が使っていた血の操作を使おうと思っていたのに。
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